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イギリスのスマートメーター事業はやっぱり大惨事だったでござる

UK's smart meter project was disaster, indeed

2015.04.24

Updated by Mayumi Tanimoto on April 24, 2015, 10:55 am JST

原発問題であれこれある日本では、ここ数年、スマートメーターが注目を集めております。

一応その「先進事例」であったイギリスありますが、ワタクシが2012年に予測した通り、スマートメーター界隈がひどいことになっています。

2012年にKDDI総研様のサイトにおいて「イギリスにおけるスマートグリッドと通信事業者」というレポートを発表させて頂きましたが、この中で、イギリスのスマートグリッドは前途多難と指摘いたしました。

その理由は

  1. 通信インフラの品質や運用品質が必ずしも高くないので運用に問題がある
  2. 消費者にとって利便性が高くない
  3. 費用対効果がはっきりしておらず実質的な電気代の値上げになり消費者に取っての利便性が見えない
  4. セキュリティとプライバシー保護の仕組みがはっきりしていない

の4点でした。

 

さて、今年に入り、ワタクシの予想が現実のものとなりつつあります。

イギリスの経営者団体であるInstitute of Directors(IoD)は先日“Not too clever: will Smart Meters be the next Government IT disaster?”  という報告書を発表しましたが、この報告書の中で、

イギリス政府はかつて国民保険省(NHS )、入国管理システム、BBC のデジタルメディアの取り組みなどの大規模ITプロジェクトでことごとく失敗しており、特にNHSに関してはシステムがメチャメチャになったためベンダー間でボールの投げ合いになってしまったり、入国管理システムはデータが混乱し難民審査結果を調べるのに7年以上かかりその間1万人以上の難民がなぜかイギリス国内にとどまるなど、大変香ばしいことになってしまっていたわけですが、スマートメーター以上それ以上の大災害になると指摘しています。

2012年以前にイギリスの会計検査院(National Audit Office :NAO)は、「同省はプログラムの費用対効果を明確にしておらず、問題があった場合の代替策を準備していない。それら案を検討する十分な期間を設けていない」と指摘指摘していたのですが、2015年になっても全然改善されておらず、エネルギー・気候変動省(Department of Energy andClimate Change: DECC)が発表した費用対効果の試算は編集しまくりで解読不可能という有様です。

さらに政府はプロジェクトのキーとなる報告書を公開しておりません。恐らく恐ろしくて発表できないのでしょう。

2008年に当時のエネルギー大臣だったエド・ミリバンド氏の肝いりで始まったプロジェクトでありました。労働党のやらかした様々な政策と同じく、大風呂敷を広げすぎてしまい、収拾が付かなくなってしまっているわけですが、このプロジェクトは、同氏が「史上最悪の労働党党首」と呼ばれることを予期していた様であります。

IoDの報告書の著者であるダン・ルイス氏は「大風呂敷を広げてより大きな予算を得ようとする陰謀」と述べていますが、まさにその通りというわけです。

報告書の提案も凄く

「プロジェクトを全部やめろ」

「スマートメーターつけるのをやめろ

「プロジェクトのの成果物は全部捨てて代わりにスマホのアプリを作れ」

と血も涙も無いぶった切り方です。

EUは指令2009/72/ECに提示されている様に、2020年までに70%の家庭がスマートメーターを設置するという目標を掲げていたわけですが、イギリスもそれに習って2020年までに一億個のスマートメータを設置するという大風呂敷を広げてしまいました。

しかし11カ国は設置を計画から除外、進めているのは5カ国だけという、いつも通りの「EUが勝手にメチャクチャな目標を立てる、誰も言うこと聞かない、大げんか勃発」パターンに陥っている上、仕事の嫌いな人が多いイギリスなので、当然の様に計画通りにはことは進まず、国内ではEU脱退の声も大きく、5月の総選挙後にスマートメーターの収拾をつけるのかどうか、よくわかりません。

(ところで日本ではEUは統治形態の未来だとか大成功だと寝言をいっている研究者の方がおられる様ですが、この内ゲバが常体化している異種格闘技寄り合いををどうしたらいいんでしょうか。そもそもあのギリシャさんとドイツさんが仲良くできるはずないでしょう。ところでまた加盟国が増えるので頭の悪いワタクシは名前が覚えられません)

設置を推進している国は推進するだけの動機があります。例えばイタリアの場合は電力の窃盗を防ぐためです。ワタクシはイタリアに住んでいましたが、電気代が高い、手癖が悪い人が多いので、こういうことは普通にあります。

しかもイタリア人は、自分の血縁と、仲の良い友達、付き合いたい美しい女性以外は信用せず、スーパー身内びいきなので、身内以外はどうなっても知らん、という鬼のような人々がいたりします。だから契約書なんか守らないし、身内以外には冷たいのです。

スウェーデンの場合は人口が少ない割には国土が広く、気候も厳しいため、メーター計測の手間を省くためです。寒すぎて管理人が移動するだけで一苦労ですし、移動中に猛吹雪にあったりしたら車で凍死することだってあります。

しかしイギリスの場合は、電力が自由化されているため複数の事業者を選ぶのが当たり前です。光熱費の比較とか、事業者を変えるとクーポンもらえますという、セコイ節約情報が比較サイトで大人気なので、事業者を変えて当たり前という感覚なのですが(サービスがひどすぎるから変える場合もあります)事業者毎にメーターを変えていたら、手間が大変ですし、サービスがルーズなイギリスなので、間違ったメーターが来るとか、メーターが来ても部品が違うとか壊れてるとか、配達人が違う人の家に配達してしまうとか、軒先に置いておいたら盗まれたとか、ありとあらゆるトラブルが想定されるので、いちいち変えるのは面倒なわけです。

何せ以下のように普段のサービスがルーズなので、スマートメーターだってぶっ壊れているものが届くことが、予想しなくてもよくわかるのです。

British Gasがアルカポネに遭遇!

(ロンドンのトムさんの投稿)
もしアパートを借りる時に、この会社と契約を結ぶほかないといわれても、絶対に契約書にはサインすんな!アパートにいる間この会社のサービスを二年も使ったけども、一度も「正確な検針」を送ってきたことはなくて、2年もの間「おおよそ」であっちが勝手に計った使用量で料金を請求してきたんだよ。しかもアパートから引っ越したってのに、最低最悪の嘘っぱちの請求を送ってきた。なんと2000ポンド(約27万円)もの料金。どう考えても、2年間に使った量を完全に越えてる。しかも、おかしいよと怒ると、なんと消費者側を訴えますよと脅して、黙らせようとするんだ。何度も正確な検針を送ってといっても無視。最低最悪。絶対契約しちゃ駄目!!

 

 

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。