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デジタル時代だからこそアナログに回帰する

Go back to analog at the Digital Era

2015.04.27

Updated by Mayumi Tanimoto on April 27, 2015, 09:30 am JST

デジタルなものが増えれば増えるほど、便利になればなるほど、仮想世界が広がれば広がるほど、人は、アナログで不便な世界に回帰していくのではないか、と最近考えています。

例えば先日上場したホームメイド作品のオンラインマーケットプレイスであるEstyですが、同社は今や時価評価額35億ドル以上、購買ユーザーは1980万人にものぼります。

同社のサイトをみるとわかるのは、買い手が欲しがっているのは「安い」ではなく、「少数生産」、「ユニーク」、「独自」、「その人しか作れないもの」、です。コピーが難しく、手に入りにくく、高いが価値の高いもの。

ワタクシもこのサイトの常連で、ベーコン型の襟巻きを買ってみたり、変な置物を買っています。売り手の方との個人的な交流が楽しめるのも楽しいです。

デジタルなものはどこでも手に入り、コピーが簡単で、値段が安い、もしくはタダですが、Estyで求められているのはその反対です。

日本でも最近話題のAirbnbが人気な理由も、単にホテルよりも安く宿泊できるではなく、ボートや灯台などユニークな場所に宿泊できる、一般家庭に滞在できる、オーナーと交流できるという、「独自さ」「そこでしかできない体験」「顔と顔を合わせた濃い交流」です。ネットでサクッと安ホテルを予約して、ささとっと観光していくのと正反対の濃い世界を体験できます。

ワタクシもこのサイトを使っていますが、オーナーに、アパートの暖房の歴史を聞いたり、周囲の住民と交流したり、おしゃべりしたりというのが楽しかったりしました。(ちなみに次に狙っている滞在先はキューバです)

ロンドンではここ数年屋台が大ブームです。屋台とはいってもトラックをオシャレに改造して、そこで手作りのブリトー、カレー、オーガニックな豚の丸焼き、タイ料理、ドイツ料理、スイス料理など、様々な料理を売り、屋台に高級コーヒーメーカーを乗せて売り歩くわけです。

しかし、屋台が出没する場所はBritish Street Foodのようなアプリで検索するのがトレンドです。そして、料金は現金で払うこともあれば、スクウェアでサクッと電子決済する場合もあるんです。

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Image Credit: Mike Faherty (Wikimedia Commons)

Image Credit: Mike Faherty (Wikimedia Commons)

August Indian Supper Clubの様に、料理好きな人が、見ず知らずの人達を家に招待して、一人5000円ぐらいで料理を作ってふるまうSupper Clubも流行っています。こういう「地下レストラン」は北米やイギリスで、1930-40年代に流行っていたりしたのですが、それがここ数年、ソーシャルメディアが活発になり始めてから復活し始めているというのが興味深いです。

面白いのは、こういうサパークラブが、北米の大都市だけではなく、ロンドン、ベルリン、香港、メルボルンの様に、様々な都市でトレンドになりつつあるということです。

最近ロンドンではこういうサパークラブがテック系企業家のネットワーキングの場になっていて、起業家向けの会もあるほど活発です。トレンディーな人々は、有名レストランに行かないで、料理好きの素人や、シェフが私的な場や、街中で突然開く地下レストランで飲んで食べて見知らぬ人と仲良くなるわけです。有名とか、高いとか、誰さんがいった、がクールじゃない。自分しか知らない、探すのが大変、そういうのがクールなんです。

そういえば、イギリスでは、数年前から、microbreweries(ミニミニ醸造所)もやたらと流行っています。市とか群規模の地ビールではなく、町内限定とか、そこのパブ限定、俺の家独自のビールみたいな、さらに小さな規模です。それをネットで売ったり、市場で売ったりしています。脱サラして始める人もいたりします。ミニミニ醸造所の団体であるSociety of Independent Brewersは1980年代に始まった頃はメンバーが20しかいませんでしたが、今や800を越え、最近は加盟社が特に増えており、昨年は100以上が加盟しました。

デジタルな世界が広がれば広がるほど、交流は濃いけど手段はサイバーパンク、少数でそこにしかないもの、自分にしか体験できないもの、が求められるようになるのかもしれません。

マックやスタバが飽きられて、焙煎されてから48時間以内の豆を使用して、ハンドドリップで一杯一杯丁寧にいれるBlue Bottle Coffeeが人気なのも、関係があるような気がします。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。