WirelessWire News Technology to implement the future

by Category

アジアの子供たちが抱える2つの課題「肥満と低栄養」栄養の不良の二重負担:ユニセフ・WHO・ASEANが共同報告書で指摘

2016.04.06

Updated by Hitoshi Sato on April 6, 2016, 11:40 am JST

▼ベトナムでの栄養指導 (C) UNICEF
20160406-double-burden-1

ユニセフ(国連児童基金)と世界保健機関(WHO)と東南アジア諸国連合(ASEAN)は2016年3月28日に、東南アジアの子供たちの栄養状態に関する共同報告書を発表した。

子供の栄養の二重負担:肥満と低栄養

報告書によると、ASEANの国々が栄養過多と低栄養の同時危機、つまり過体重の子供たちがいる一方で、発育阻害や消耗症(体成分が減少して生活に障害がでる可能性があるほどになること)に苦しむ子供たちもいるという状況に直面している。この「栄養不良の二重負担(double burden)」は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイを含めた中所得国で発生していることがわかる。つまりこれら中所得国では肥満と低栄養の二極化が進んでいるのだ。

例えば、インドネシアでは、12パーセントの子供たちが過体重で、12パーセントの子供たちが消耗症と、両者の割合はちょうど同じ。タイでは、子供の消耗症と過体重はともに増加しており、2006年から2012年にかけて、消耗症は5パーセントから7パーセントに、過体重は8パーセントから11パーセントに増加している。

過体重と低栄養の要因には関連性がある。幼少期に発育が阻害された子供は、その後の人生で過体重となるリスクがより高い。過体重となるリスクは、スナックや飲み物(トランス脂肪や糖分の含量が高く、栄養価の低いもの)の摂取増加、運動不足、体を動かさない生活習慣により高まる。これがこの地域の多くの国で目立っている傾向で、糖尿病や心臓病などの慢性疾患の発生が著しく増加することにつながる。

発育阻害と消耗症は、経済的発展を遂げた国も含めて、東南アジア地域の大半の国で依然として問題になっている。本報告書によると、発育阻害がカンボジア、ラオス、ミャンマー、およびインドネシアとフィリピンの一部で最も広がっている。貧困に加えて、栄養価の高い食べ物を欠いた伝統的な食習慣、乳児への不十分な栄養補給、衛生的ではない水やトイレ、栽培する農作物の種類の少なさといった要因が存在する。

子供の栄養不良はまた各国の経済にも重大な影響を与える。つまり両親の生産性を減少させ、保健医療システムにも負担をもたらす。非伝染性疾病、障がい、さらには死さえも招くことがあり、潜在的な労働力を減少させる。インドネシアの非伝染性疾病による経済コスト(その多くは食事に関連)は年間2,480億ドルと推定されている。

ユニセフ東アジア・太平洋地域事務所のクリスティアーヌ・ルデルト栄養アドバイザーは以下のようにコメントしている。
「東南アジアの多くの国は過去10年間で目覚ましい経済発展を遂げ、 多くの子供たちを貧困から救いました。しかし同時に、肥満など、これまで高所得国の問題と考えられていた健康状態の増加が見受けられます。アジアの子供たちはいま、 両極端の栄養不良のリスクに直面しているのです」

そして各国政府に対して、子供に対するスナックや糖分の多い飲料の宣伝規制と学校での入手制限、食生活と衛生改善のための教育指導や貧困削減のための対策、子供の状況の可視化と災害から回復するための支援などの施策を提言している。また、子供の栄養不良に対応するための投資も提言しており、子供の生後1,000日間の期間で栄養に使われるコスト1米ドルあたり、平均45米ドル、最大166米ドルを節約できる場合もあるとしている。

▼インドネシアでの栄養指導 (C) UNICEF
20160406-double-burden-2

成長の一方で進む二極化

ASEANのなかでもインドネシア、タイ、マレーシア、フィリピンでは地場のスマホメーカーが台頭しており、首都ジャカルタ、バンコク、クアラルンプール、マニラや大都市では多くの若者や子供もスマホを所有している。冷房の効いた寒いくらいに冷えたカフェで無料のWi-Fiに接続して、甘いアイスクリームやハンバーガーを食べて、コカコーラを飲みながら、スマホでゲームやSNSに夢中になって肥満になっていく子供が多い。特に食事のおいしいマレーシアでは、大人の肥満も問題になっている。また、肥満以外にも「歩きスマホ」も問題になっている。

一方で、これらの国々でスマホや携帯電話を所有する人の中には貧困層も決して少なくない。ないと仕事に困るからだ。日本の報道ではASEAN諸国について「成長著しくスマホも普及してきてネット環境も日本と変わらない」と報じられることが多く、実際に私がレポートで報告する時もそのような「明るい」面ばかりにフォーカスを当てて伝えてしまいがちだ。だが、実際には二極化が進み、貧困層の中にはまだ多くの低栄養に苦しんでいる子供がいることも忘れてはならない。

【参考動画】インドネシアでの二重負担に対するUNICEFの取組み

 

【参照情報】
Double burden: childhood stunting and obesity in Indonesia

 

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。

RELATED TAG