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コロナ禍でバーチャルツーリズムは流行するか

2020.11.27

Updated by Wataru Nakamura on November 27, 2020, 17:52 pm JST

新型コロナウイルスのパンデミックは、会議から授業、診療、飲み会、ライブやお見合いまで、あらゆるもののオンライン化を促してきた。しかし、このようなオンライン化と相容れないと感じられるものの一つに「旅行」がある。

旅行の醍醐味は、五感全てで味わう体験や現地の人々との交流にあり、これはコンピュータの画面上からは得難いものだと思われるからだが、それでもこのコロナ禍でオンライン旅行への注目はますます高まっているらしい。

今回は英BBCが先月公開した「Coronavirus: Is virtual reality tourism about to take off ?(コロナウイルス:バーチャル・リアリティ・ツーリズムは流行間近か?)」という記事から、旅行のオンライン化について考えてみたい。

この記事では、まず、コロナ以降の国際線旅客数が例年の10%ほどに減少しているとするIATA(国際航空運送協会)のデータを引用。「新型コロナウイルスは世界の旅行業界の4100万以上の雇用を危機に晒す」、「旅客需要がパンデミック以前のレベルに回復するのは2024年以降になる」といった予想も併せて紹介している。

では、このような状況で注目されているバーチャル・リアリティ・ツーリズムとはどのようなものなのだろうか。最初に紹介されたのは、各地の観光協会や宿泊施設、観光地などが将来の旅行を計画する潜在顧客の関心をつなぎとめる手段としてVR技術の活用を推進しているという話だ。

例えば、最も顕著な取り組みはドイツに見られ、ドイツ国立旅行委員会(German National Tourist Board、GNTB)では、国内のあらゆる観光地やバルト海・北海沿岸の一部を360度動画で体験するコンテンツをVR体験ツールの「Oculus Rift」向けに提供している他、マイクロソフトのAR(各超現実)グラス「Hololens」向けにも有名な城や宮殿などのARコンテンツを提供しているという。

また、パンデミック以前から積極的にVRを利用してきたのがアイルランドで、2019年11月から始まっていた「The Embrace a Giant Spirit」というキャンペーンでは、北アイルランドの世界遺産「ジャイアンツ・コーズウェイ」や人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の数々のロケ地などの観光地の宣伝にこの技術が活用されてきたという。

他にも、モルディブ諸島では、ビーチでのモーニング・ヨガやシュノーケリング、クッキング・レッスンなど現地で体験できる様々なアクティビティの紹介にVRを活用しているという。

これらの例は、いずれもマーケティング手段としてVRを活用するもので、パンデミックの収束からほど遠い現時点では、これらのVR体験が旅行需要の喚起や潜在的な旅行客のつなぎとめにどの程度の影響を及ぼすのかは、計測が難しいところだ。

一方、旅行を代替するという意味でのバーチャル体験の一つとして紹介されているのが、日本のFirst Airlinesという企業が提供しているバーチャル海外旅行サービスだ。このサービスは、飛行機の機内を模した現実の空間(機内食や機内販売なども含まれる)とVR空間内の各国でのアクティビティ、現地との中継などを組み合わせたもので、パンデミック以降、利用者数が急増しているという。

また、バーチャル旅行が世間に受け入れられるようになるきっかけとなるサービスとして専門家らに期待されているのは、今年9月にベータ公開されたアマゾンの「Amazon Explore」というバーチャル旅行プラットフォームだ。こちらは現地のツアーガイドによる1対1のライブ配信を通して、バーチャル旅行体験を提供するもので、すでに「京都の街歩き」や「コスタリカでの工芸品ショッピング」、「メキシコでのクッキング・レッスン」といった多様な体験が提供されているという。

新型コロナウイルスによる大打撃、業界支援策のGoToトラベルをめぐる混乱など、受難が続く観光産業は、どこよりもデジタル・トランスフォーメーション(DX)を迫られている業界だ。

とはいえ、個人的にはライブ配信やVRコンテンツでよりリアルな体験が実現するからといって、近い将来、バーチャル旅行が流行するようには思えない。顔認証によるチェックインなど、旅行客の安心・安全を高めるようなデジタル技術の導入がより現実的な方向性ではないだろうか。

一方でVRに関しては、一度訪れた場所を再訪するという旅行後のさらなる楽しみという意味では相性が良いかもしれない。というのも、以前に行った場所であれば、現地の空気や匂い、喧騒などの要素を想像力が補ってくれるからだ。「Oculus」プラットフォームに、グーグル・ストリートビューの360度視点の中を自由に移動できる「Wander」というアプリがある。以前にこのアプリで子供時代の通学路を歩いたり、かつて旅行した街を訪れてみたりしたことがあるが、画面遷移の不自然さなどは多少あるものの当時の記憶がありありと蘇ってくる素晴らしい体験だった。そういう意味では、パーソナライズしたVR旅行というコンテンツには、一定の需要があるかもしれない。

・参照記事
Coronavirus: Is virtual reality tourism about to take off?

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中村 航(なかむら・わたる)

1985年生まれ。福岡県福岡市出身。翻訳者。テクノロジーやファッション、伝統工芸、通信、ゲームなどの分野の翻訳・校正に携わる。WirelessWire Newsでは、主に5G、セキュリティ、DXなどの話題に関連する海外ニュースの収集や記事執筆を担当。趣味は海外旅行とボードゲーム。最近はMリーグとAmong Usに熱中。