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ITACHIBA会議

ラクして他人の暗黙知をパクる〜第7回ITACHIBA会議から

2018.02.27

Updated by Takeo Inoue on February 27, 2018, 12:00 pm JST

先ごろ開催された「第7回ITACHIBA会議」において話された「10年後を生き抜くためのIT営業のキャリア」についての知恵をお届けします。目まぐるしいビジネス環境の変化に対し、IT業界の営業マンはどう対応すべきなのか?会議では、アシスト社長室長の新本幸司氏がメンター役を務めた。

▼アシスト 社長室長 新本幸司氏
アシスト 社長室長 新本幸司氏

前回から続く

個人の暗黙知をパクれ!

今回の会議で、新本氏は「現在から未来へ〜10年後に必要とされる営業とは?」をテーマに、自身の経験をもとにした営業手法を紹介した。営業のミッションは「売上を一時的に増やすことでなく、増やし続けることが重要」だ。、そのために「自分なりの普遍的な営業モデルをつくる」「ラクして他人の暗黙知をパクる」「弱い紐帯を多数構築したCHO(Chief Happiness Officer)」という3点が重要であるという。

2つ目の「ラクして他人の暗黙知をパクる手段」というのはこういうことだ。「登山に例えるなら、いち早く頂上(顧客獲得)に辿り着くには、近道を見つける、体力をつける、登山用品(新兵器)を使う、という3つが大切。これを営業活動に対応させれば、短中期売上を拡大させる“量的マネジメント”や、個人の暗黙知(スキル)を模倣する“質的マネジメント”、営業支援システムの施策として“IT活用”の3つが求められる、ということだ」。

▼営業活動を登山に例えて説明。近道を見つけることは量的マネジメント、体力をつけることは質的マネジメント、新兵器を使うことはICTの活用に対応するイメージだ。
営業活動を登山に例えて説明。近道を見つけることは量的マネジメント、体力をつけることは質的マネジメント、新兵器を使うことはITCの活用に対応するイメージだ。

このうち“質的マネジメント”では、「SECIモデル」(Socialization, Externalization, Combination, Internalization)を取り入れるとよいという。これは暗黙知と形式知を繰り返しながら、知が進展する考え方を基にしたモデルだ。暗黙知を模倣する「共同化」(Socialization)、暗黙知が文字・図表化される「表出化」(Externalization)、その暗黙知が形式知に体系化される「連結化」(Combination)、共通の形式知を自身に取り込む「内面化」(Internalization)というプロセスのサイクルを回すもの。

「優れた営業スキルを模倣するためにPDCAを回すのは当然だが、十分にできていないことも多い。そこでは、日々の営業活動の意識を変えることが重要だ。静的あるいは動的な情報(案件がどう動いたか)を分け、動的情報をSNSなどで共有化し、他者を引っ張り込んでいく。すると改善案が出て、次の作戦になる。他人の暗黙知を利用し、ナレッジを表出する。こういった“インナーサイクル”の場が組織を強くする」(新本氏)。

このインナーサイクルは、個人的な営業活動であり、PDCAのD(Do)内の活動に当たる部分だ。さらに会社全体の大きなサイクルでみると、営業活動を効率化するための“アウターサイクル”がある。こちらのPDCAを回すこととで、組織をより強化できるのだ。

▼体力をつける質的マネジメント。PDCAのDにSECIモデルによるインナーサイクルをつくり、暗黙知を形式知として利用。さらに全体で営業活動を効率化するアウターサイクルも回す。
体力をつける質的マネジメント。PDCAのDにSECIモデルによるインナーサイクルをつくり、暗黙知を形式知として利用。さらに全体で営業活動を効率化するアウターサイクルも回す。

人を幸せにし、自分も幸せになる営業テクニックを持つ「CHO」になろう!

同氏は、人間関係を円滑にし、つながりを最大化するヒューマンスキルについても触れた。これは弱いネットワークを多く構築し、自分がCHOになるという考え方だ。ネットワークには社会的に強いものと弱いものがある。同僚や家族は絆で結ばれる強いネットワークだ。一方、友人の友人や、SNSで緩くつながる関係は弱いネットワークだ。

▼営業に活用できるネットワーク理論。組織としての実行力を発揮する強いネットワークと、アイデアを創出する弱いネットワークの合わせ技が重要だ。
営業に活用できるネットワーク理論。組織としての実行力を発揮する強いネットワークと、アイデアを創出する弱いネットワークの合わせ技が重要だ。

「強いネットワークは、環境や生活スタイル、価値観が共有されるが、方向性が同じなのでアイデアも似たものになりがち。一方、弱いネットワークは、そこからいくつかホップすれば、異なるアイデアを持つ人に辿り着く。そこにイノベーションが発生しやすい。両方のネットワークを利用することが大切だ」(新本氏)。

弱いネットワーク同士の場合、それぞれがつながりを持たないことも多い。それが「ストラクチュアル・ホール」(構造的隙間)になるが、両者をつなぐことでイノベーションを起こせるチャンスになる。

▼弱いネットワーク同士に発生する「ストラクチュアル・ホール」(構造的隙間)を発見し、両者をつなぐとイノベーションを起こせるチャンスになることも多い。
弱いネットワーク同士に発生する「ストラクチュアル・ホール」(構造的隙間)を発見し、両者をつなぐとイノベーションを起こせるチャンスになることも多い。

「このストラクチュアル・ホールを見つけ、両者をつなぐことが重要だ。たとえば、A氏が安い宿泊を探し、B氏の部屋が空いている。両者をつないだのが“Airbnb”だ。また安く車に乗りたいA氏と、いつも空車を転がすB氏をつないだのが“Uber”だ」(新本氏)。

このように強いネットワークだけでなく、弱いネットワークの関係を上手に結びつけると、新しいビジネスが生まれる。彼らの橋渡ができる営業になれば、両者に感謝される。その活動がすぐに自分の利益にならなくても、将来チャンスが回ってくる可能性もあるだろう。これが営業がCHOになるということだ。

営業自身が変わり続けなければならない

新本氏のレクチャーを受けたあと、参加者によるグループセッションが行われた。テーマは「これからの営業はどのように変わらなければならないのか」「私はこれで将来を生き抜く」(自分なりの生き抜く力を考える)。ITACHIBA会議では、これが正解という結論を導くことはない。議論のなかで、参加者が問題意識を持ち帰り、答えを出していくスタイルだ。

▼新本氏の2つのレクチャーを受けて、参加者によるグループセッションが行われた。各20分間という短い時間だったが、各人が自分なりの考えを持ち帰った。
新本氏の2つのレクチャーを受けて、参加者によるグループセッションが行われた。各20分間という短い時間だったが、各人が自分なりの考えを持ち帰った。

最後に各グループが議論した声の一部を参考までに紹介しておこう。

「将来は営業が二極化していく。MAツールやインサイドセールスで人が不要になる仕事も出るが、逆にハイスペックな営業も求められる。我々が生きぬくためには、何か突き抜けた強みをつけなければならない」

「競合他社を知り、引き出しを多く持ち、信頼感を得ることが大切。オンラインツールなどを駆使し、自分の営業スタイルを確立する。単純な数値でなく、人脈も間接評価する制度にしてほしい。こういった場に参加し、異業種間でのつながりを持つことも重要だ」

「これからの時代は、商品の差異もなくなるので、やはり人のつながりが重要。そこでFacebookなどITの新兵器を使い、細いネットワークで人の絆をつなげる」

「営業はシビアな職種になると思う。今後はB2Bマーケティングなど、別のスキルが求められるだろう。自分が立ち止まると時代から取り残される。また高齢化社会になり、退職後の収入源を得るためのスキルも必要だ」

「これからは技術より人の力だ。魅力的な人間になり、弱いネットワークで求められるCHOを目指したい。楽しく仕事をすれば、他人から自然に頼られる存在になれるはず」

「営業は潤滑油として、ストラクチュアル・ホールを埋めることが大切。ICTもマーケティングの手法も変わった。今後を生き抜くには変化に対応しなければいけない。自社で不可能なことも、社外の人脈を活かせば、できることも増えていく」

「AIができそうにない細かい業務プロセスや案件をみつけることがポイント。顧客と信頼を結ぶのは人間がやることだ。仕組み作りもAIにはできない。最終的にAIでは難しいことをやれる人が生き残っていく」

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井上 猛雄 (いのうえ・たけお)

東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにIT、ネットワーク、エンタープライズ、ロボット分野を中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)などがある。