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情報共有の未来

情報共有の未来

Bitcoin Is Dead. Long Live the Blockchain!

2015.02.02

今回は時間がないので短めに。タイトルはWired の5年前の特集のパロディなので、怒らないでください。

さて、およそ1年前に「2014年はビットコインの年になるか?(別にならんでいい)」という文章を書きましたが、昨年2014年は暗号通貨ビットコインにとって、どこそこで支払いに使えるようになったというその利用の拡大を示すニュースも多かったものの、ありがたくない話題も多かったように思います。

世界最大級のビットコイン取引所だった Mt.Gox からビットコインが「消失」してしまった事件が代表的なところですが、薬物などの不法販売を手がけ、その取引にビットコインを使っていた闇サイト Silk Road の黒幕がその Mt.Gox の元 CEO だったというかなり強引な説が最近になって報じられるなど、ビットコイン並びにそれを扱うものにうさんくさいイメージがついてしまったことは否めません。

またビットコインの「発明者」とされるサトシ・ナカモトなる人物の正体を特定したとする Newsweek のスクープも、当のドリアン・ナカモト氏が後に報道内容を完全否定するにいたり、後味の悪い結果となりました。

「テック界隈の諸行無常──2014年の振り返りと2015年の予測」でも MIT Technology Review が2014年を代表する失敗の一つにビットコインを挙げていることに触れましたが、そうした中、1月末にオライリーが(正確に書けば、オライリー社のブログ O'Reilly Radar が)Bitcoin & the Blockchain というイベントを開催しました。

ここで注目すべきは、イベント名でビットコインの名前と同格に、それを支える公開台帳の仕組みであるブロックチェーンの名前を掲げているところです。

「テック界隈の諸行無常──2014年の振り返りと2015年の予測」におけるフレッド・ウィルソンのコメントにもあるように、ビットコインに関してはブロックチェーンの仕組みを使って次バージョンを作るほうにステージが移っているようで、たまに聞く Bitcoin 2.0 なるキャッチフレーズもおそらくはそのあたりを指していると思います(個人的には、いまどき「2.0」を使われるだけで身構えるというかうさんくさく感じてしまいますが......)。

201502021500-1.jpgオライリーのイベントは、「ビットコイン――と、その背後にあるブロックチェーン――が生み出しつつある新たなビジネスモデル、複雑な課題、未だ知られていないチャンスの探求」が掲げられており、昨年末に出たばかりのビットコイン(とブロックチェーン)の決定版と言える解説書『Mastering Bitcoin』の著者 Andreas M. Antonopoulos なども当然ながらスピーカーに名前を連ねていますが、ビットコインに懐疑的な投資家を含め、ビジネス層の巻き込みを目指したようです。

本文執筆時点でほとんど発表スライドなど公開されていませんが、イベントに先立って O'Reilly Radar に投稿されたビットコイン関連のエントリを見ると、意図しているところは想像できます。

それは例えば件のイベントのプログラム共同議長である Lorne Lantz による「Bitcoin is just the first app to use blockchain technology(ビットコインはブロックチェーンの技術を使った最初のアプリに過ぎない)」を見ても明らかで、暗号通貨ビットコインの(評価や相場の)上げ下げに留まらないブロックチェーンの技術的重要性を訴えたいのだと分かります。

「ブロックチェーンこそ、すべてを書き換える新しいデータベースだ」とぶちあげるブロックチェーンの詳しい解説「Understanding the blockchain」を書いた起業家 William Mougayar の「The 3Ps of the blockchain: platforms, programs and protocols」などもっと露骨で、暗号通貨とその基盤技術の組み合わせが、ビットコイン+ブロックチェーンに留まらずいろいろ可能であることを示しています(が、ワタシには正直 Bitcoin currency + non-bitcoin blockchain という組み合わせの意味がよく分からないのですが......)。

おそらくは目指すところは暗号通貨が次世代インターネットを支える第5のプロトコル層となる未来なのかと思います。ブロックチェーンに便利なメタデータ層をつけて多様なアプリケーションを可能にする試みあたりもそれにいたるプロセスに思えますが、確かにモノのインターネット(Internet of Things)あたりもこの新たなプロトコル層で暗号通貨と高度に統合されたインターネットを想像すると面白そうです。

上に名前を出した Lorne Lantz は、ビットコインとブロックチェーンに対する懐疑的な意見を聞くと、90年代のはじめにインターネットに対して同じような議論をしていたのを思い出すと書いていますが、しかし一方で、ビットコイン(とブロックチェーン)をそこまでインターネットと並べて語ってよいのかと少し躊躇するところがあります。

ちょうど伊藤穰一が「Bitcoin とインターネットの類似点と相違点」というそのあたりについての文章を書いており、一読に値します。

Emailがインターネット黎明期のキラーアプリであったのと同様に、僕は Bitcoin がブロックチェーンにとっての最初のキラーアプリだと考えている。eBay、Amazon および Google に相当するものが発明されつつあるのだ。ブロックチェーンは銀行業、法律そして会計業にとって、メディア、商業および広告業にとってのインターネットに相当する変化をもたらす気がしている。ブロックチェーンはコストを削減し、ビジネスの様々なレイヤーでの中抜き効果をもたらし、摩擦要素を軽減することだろう。そしてご存知のように、ある者の摩擦は他の者の実入りになるのだ。

ここだけ読むとただブロックチェーンについて肯定的なように読めますが、実際にはインターネットの成功にインターネットが分化しなかったことが大きかったことと比べて、ビットコインに関してはその対抗馬がイノベーションを起こす可能性、それと同時に技術的互換性とネットワーク効果や信頼性の恩恵が失われる危惧もちゃんと触れられています。

現段階は僕らがイーサネットやトークン・リングについて議論していた頃によく似た状況に思える。一般ユーザーにしてみれば、相互互換さえ確保できていれば結果的にどちらが採用になっても別にどうでもいいわけだ。しかし今回事情が違うのは、影響を受ける先が多くあり、動きが非常に早いため、失敗した場合のその様相とコストが我々がインターネットを編み出そうとしていた時よりはるかに手痛いものになる可能性があることで、これらの動きに注目している人の数も格段に多いことだ。

yomoyomo
雑文書き/翻訳者。1973年生まれ。著書に『情報共有の未来』(達人出版会)、訳書に『デジタル音楽の行方』(翔泳社)、『Wiki Way』(ソフトバンク クリエイティブ)、『ウェブログ・ハンドブック』(毎日コミュニケーションズ)がある。ネットを中心にコラムから翻訳まで横断的に執筆活動を続ける。
ウェブサイト:http://www.yamdas.org/
Twitterアカウント:@yomoyomo

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