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ゼロから市場をつくる 実践型マーケティング

Market it

2015.04.16

Updated by Ryo Shimizu on April 16, 2015, 20:08 pm JST

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今日は朝からMMD研究所主宰のセミナー「ゼロから市場をつくる 実践型マーケティング」を実施してきました。

平日の朝だというのに50名近い参加者があり、わずか1時間と15分という短い時間でしたが、私が考えるマーケティングというものについて実体験を交えながら解説させていただきました。

普段、経済学部で教えているのですがマーケティングに関して誤解したままの学生が散見されるため、一度きちんとした形で私なりのマーケティング理論についてまとめておきたいと思っていたところだったので今回のお話を頂いた時は渡りに船でした。

私が「マーケティングと言う言葉が誤解されている」と感じるのは、学生達は「マーケティングを仕事にするためには、広告代理店に入社しなければならない」と考えていることが多いからです。

マーケティング活動というのが、広告・宣伝を含むPR活動の一貫であるという誤解です。

確かに、広告・宣伝はマーケティング活動の重要な一部を成しています。

しかし、実際にはマーケティング活動にとって最も重要な部分ではありません。

ではマーケティングにとって重要な部分とは何か?

それは、製品開発そのものです。

いわゆる「マーケティング」の話をするとき、「プロダクトアウト」か「マーケットイン」かということがよく議論されます。

この二つは対抗概念として良く扱われます。

しかし本当にそうでしょうか。

ある製品を作ろうとするとき、マーケットを完全に無視しては作れません。

また、別の製品を作ろうとする時、プロダクトを完全に無視しては作れません。

この二つの言葉は、製品開発という同じ現象の異なる側面を示しているに過ぎません。

むしろ重要なのは、マーケットインかプロダクトアウトか、ということではなく、プロダクトがマーケットに適合していることと、プロダクトが適合するマーケットを創り出すことの両方をバランス良く、しかも同時に行わなければならないということです。

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私がマーケティングを開始するときにまず意識するのは上図のようなマトリックスです。

ニーズが大きいか小さいか、競合は多いか少ないか、その軸で作戦の立て方を判断します。

ニーズが大きくて競合が多い場所は、通常、レッドオーシャンと呼ばれます。
レッドオーシャンで戦って勝つのは資本もエネルギーも必要です。難しくはないですがほとんど不可能です。ですから規模が小さい会社はレッドオーシャンは狙うべきではありません。また、レッドオーシャンで勝ち上がると、常に誰かの後追いをすることになります。

典型的なレッドオーシャンの例は、スマートフォンゲームの市場です。

レッドオーシャンとなった市場は資本力さえあればいつか成功することができる可能性が高まります。

どんなゲームがヒットするかは誰にも予想できないので、ただただ試行回数を繰り返せるだけの大資本があればいいのです。
その結果、どの会社も一本のヒット作に財政を頼り切る、いわゆる「一本足打法」になりがちであるという欠点があります。

業界の流れを注意深くみると、ソーシャルゲームで大ヒットを出し続けるのはとても難しいことが解ります。

たとえば最初にヒットしたソーシャルゲームはDeNAの「怪盗ロワイヤル」でした。次にヒットしたのはGREEの「釣りスタ」でした、次にヒットしたのはAQインタラクティブの「ブラウザ三国志」で、その次にヒットしたのはコナミの「ドラゴンコレクション」、次がガンホーの「パズル&ドラゴンズ」、mixiの「モンスターストライク」となっていきます。

大ヒット、を連発した資本はなく、中ヒットを積み重ねながら資本力にものをいわせて大ヒットを狙うことしかできないマーケットになっています。

そしてヒットを当ててるのが全て大資本であることも特徴です。

反対にニーズが大きく、競合相手が少ない、または存在しないマーケットはどうでしょうか?

これこそが真のマーケットインです。

「欲しい」という顧客がいて、競争相手がいないのならば、そこに向けて商品を提供すべきなのです。
ここで勝つためには大資本は要りません。

ここ数年の例で挙げるとすれば、「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」のような立食形式で高級料理をサーブする新業態が挙げられると思います。

ブルーオーシャンであるうちに一気に畳み掛けるように出展して、追いすがる競合を圧倒することで勝利を収める戦術です。

もちろんニーズがあるのに競合が居ないなんていう都合のいいポジションがそう簡単におちているわけはありません。

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これを見つけるためには、業界の情勢を正確に把握し、時代の流れの変化から生じる隙間をキャッチするセンスが必要になります。

その隙間にスパッと入るような製品を設計できれば、マーケットインかつブルーオーシャンという、非常に勝算の高いビジネスを始めることができます。

 

次に、競合がいて、なおかつニーズが少ない場所。
これはさらにこまかいジャンルを創り出すつもりでひたすらニッチを狙うしかありません。

私の経験でいえば、ハンドル付き独自OS搭載タブレットのenchantMOONはこの領域です。

ニッチ商品で成功するために必要なのは、ひたすらニッチに振ることです。

ニッチさを研ぎすませるためには、ひたすらその「ニッチ」がどのようなものを求めているかを研究します。

ハンドルがついているのも、「他にはない外見的特徴」を満たすためですし、独自OSに拘るのも「他にはない特徴」を際立たせるためです。

 

最後に、ニーズが少なく、競合相手もいない場所。
ただ作りたいから作るというもの。

それこそが真のプロダクトアウトです。

競合がいるということは、ニーズが少なかったとしても、少なくとも市場はあるわけです。
しかし競合が誰もいない、そうしたものにお金を支払う素地や市場が全くないところに向けて製品を出すというのは一大冒険です。

従ってプロダクトアウトで勝利を掴むのは非常に難しいのですが、仮に上手く行けば誰も真似できない製品市場を創り出すことができます。

たとえばニコニコ動画です。

ドワンゴがニコニコ動画を開始したとき、そもそもドワンゴが動画配信サービスを開始する必然性は全くありませんでした
当時のドワンゴは着メロサイトで充分な利益を上げていたからです。

それどころか全くブランドの通用しないWebサービスをゼロから立ち上げると言うのは、無謀とも言えるものです。

しかし、ドワンゴはニコニコ動画を立ち上げたいという強いモチベーションがあり、勝算もありました。

勝算があり、予算がある以上は、やってみるしかありません。

 

そうして立ちあがったニコニコ動画は、全く新しい市場を創出しました。

マーケティングを簡単に4タイプに分類しましたが、これらを複合的に組み合わせている非常に高度なマーケティングの結果産まれたのがiPhoneです。

iPhoneはその前身にiPodという音楽プレイヤーがあります。

iPodは、当時既にソニーが完全に勝利を収めていた音楽プレイヤー市場というレッドオーシャンに対し、MP3プレイヤーという、まだ需要の産まれていないニッチ商品市場を掛け合わせた市場に殴り込みました。

まずMacユーザの音楽ファンというニッチ市場をとり、足場を固めたあとは、本丸の音楽プレイヤー全般に攻勢を仕掛けます。そこでレッドオーシャンの市場を一気に奪い取り、それを背景としてタッチスクリーンのスマートフォンという、やはり全世界の誰も必要としていなかったプロダクトアウト型の商品をぶつけます。

しかも、スマートフォン市場は既にニッチ市場として競合が存在しており、画面の大きいiPodが欲しいというニーズも既に存在していました。しかもこのニーズは、iPodに映像再生の機能を入れることでAppleが意図的に産み出したニーズなのです。

そうしてお膳立てをしたiPhoneは、完全なプロダクトアウト商品でありながら、既存の市場のルールを奪い取るマーケットインな商品でもありました。

こうしてiPhoneは4つの象限全てを奪い取ったのです。

 

こんな感じで、マーケティングの実際について分析と解説を加えました。

時間が短かったので、もしかしたら続編もあるかもしれません。

そのときはまた告知させていただきます。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。