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RIMの本当の危機とは

2011.06.20

Updated by Michi Kaifu on June 20, 2011, 17:30 pm JST

昨日6月16日、ブラックベリーを提供するRIM(リサーチ・イン・モーション)社が四半期業績を発表、予想を下回る業績で株価が暴落。同社は人員削減を含むリストラを発表した。(参考記事

アメリカで一世を風靡したブラックベリーの急激な凋落のニュースは、ウォール・ストリートに衝撃を与え、「いよいよRIMも終わりか!?」といった印象を与えたが、実際のところどれほどの深刻な問題なのだろうか? 携帯業界の視点からもう少し分析してみよう。

ブラックベリーの本当の「敵」は誰だ?

業績発表を読むと、RIMの四半期売上は49億1000万ドル前年、同期比16%増で、それほど悪いわけではない。純利益は確かに下がっており、前年同期比-9.6%であるが、問題はブラックベリーの出荷台数が予想も前四半期実績も下回る1320万台であったことだ。ユーザーの目から見ても、「自分の身の回りでブラックベリーを使っている人が減った」というシェア低下の印象は明白だ。

一時はアメリカのスマートフォンの半分近いシェアを誇ったブラックベリーだが、最近のComscoreの発表によると第三位に落ちている。RIMの砦であった企業ユーザーにおいても、かつてはブラックベリーを支給されていたのが、iPhoneを持ち込んで企業サーバーに統合するといったやり方が徐々に容認されるようになっている。

「スマートフォン」の象徴である「iPhone」にやられたのだろう、というのが直感的な印象だが、数字で見ると必ずしも「宿敵」はiPhoneではない。

2010年からのスマートフォンOS別シェアの推移をグラフにすると、下記のようになる。

▼米国スマートフォンOSシェア推移
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出典:Comscore

アップルのシェアは見事に安定しており、Androidが圧倒的に独り勝ち。ただしiPhoneではなく、RIMとマイクロソフトを食っていることがわかる。

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これより古い数字はあまりまとまったものが手元にないが、このようになる。

▼米国スマートフォンシェア推移(06-09)
201106201730-2.jpg

出典:Nielsen

アメリカのスマートフォン市場は、2005年にブレークし、当初ブラックベリーとパームが成長を支えていた。iPhoneは2007年に発売されたが、RIMとアップルが一緒になってパームのシェアを食い、RIMの「ビジネスユーザー+ローエンド消費者ユーザー」対iPhoneの「ハイエンド消費者ユーザー」と、うまく棲み分けた。

2008年に発売されたAndroidが、そのバランスを崩したわけだ。アップルのブランド力が強みのiPhoneは、アップルストアやウェブサイトでの販売も多いと思われるのに対し、ブラックベリーとAndroidは従来の携帯端末同様、キャリア・ショップ系の販売が中心と推測される。

こうした背景から想像すると、極論すれば、2009年のクリスマス商戦で、ベライゾンが重点端末をブラックベリーからAndroid中心に移行したところから、ブラックベリーの凋落が始まったと言えるかもしれない。iPhoneをかつぐAT&Tへの対抗として、ベライゾンはそれまでブラックベリーの消費者バージョンを中心機種としてきたが、この時点でAndroidに鞍替えした。毎年行う「一台買うと家族用にもう一台は無料」といったキャンペーン対象も、ブラックベリーからAndroid端末に移行した。前述の「棲み分け」でいえば、「ローエンド消費者ユーザー」の部分で、RIMとAndroidが競合するようになったのだ。「メール機能」という意味でも、Androidにはブラックベリーの代わりとなる、キーボードつき端末もある。

つまりブラックベリーの本当の宿敵は、iPhoneではなく、どうやらAndroid端末群なのではないかと筆者は考えている。「iPhone対Android」の対決構図が面白おかしく取り上げられる中、実はAndroidはiPhoneでなくブラックベリーをいじめていたのだ、ということになる。

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Big Boys' Game

さて、そのパームについてである。筆者の考えでは「近代スマートフォン」の系譜というのは、1998年に発売されたHandspring社(パームのスピンオフ)のVisorに始まる。

「スマートフォン」の定義についてはいろいろ言われるが、業界へのインパクトから言うと、「携帯電話」の機能に加え、(1)「パソコンと同じメールを、転送でなくそのまま使える」(携帯キャリアのアドレスでなく、何でも使える)、(2)OS仕様を公開しており、誰でもその上でアプリを開発することができる(アプリ開発者の「エコシステム」を形成する)、の2つの要件を備えているものというのが筆者の考える適切な定義である。

その要件を備えた初めてのスマートフォンが、Visorであった。当時、ブラックベリーはメール対応ページャーであったが、その後音声電話ができるようになり、Handspringはパームに再統合されて、2000年代半ばには「ブラックベリー対パーム」の構図となった。上記2つの要件のうち、(1)「メール機能」が強く、文字での即時連絡が必要な東海岸の弁護士やバンカーに人気なのがブラックベリー("文系のブラックベリー"1)、(2)アプリケーション開発者が商売できるという、西海岸・シリコンバレーの「エコシステム」に強く支持されたのがパーム("理系のパーム"2)であった。

ちなみに、今回のニュースがウォール・ストリートでやたら話題になるのは、上記のようなワケで、ウォール・ストリートにはブラックベリー・ファンがたくさんおり、特にファイナンス系ライターなどは重症の中毒だった人たちばかりで、相当に感情移入しているからではないかと筆者は感じている。

さて、筆者はシリコンバレー人として当然パーム・ユーザーであったが、2006年にブラックベリー初の「消費者向け廉価モデル」パールが発売されたときにブラックベリーに移行してしまった。その理由は、「パームのOSメンテナンスの遅さ」への不満と、デザインのダサかったブラックベリーがかなり良くなったことのバランスである。

アプリ開発者を多く抱えるOSをどんどん改良していくのは、大変な人的リソースを要する。パームは当初から、使っている最中に勝手にリブートしてしまうとか、電話周りの機能が弱いなどの問題があり、最初のうちは「まぁ仕方ないよね、だんだん良くなっていくはず」と思っていたものが、いつまで経っても解決されない。ブラックベリーがカメラ搭載の廉価版消費者版を出して売上が急加速した当時、パームはOSのバージョンアップがほとんど止まっていた。

結局、その後パームは凋落し、2010年4月にHPに買収されたが、買収直前の売上規模は四半期で$150mil.(1億5000万ドル)、年間ペースで1billion(10億ドル)に達しない規模だった。スマートフォン自体が「ニッチ」市場であった間は、中堅規模の会社でもよかったのだが、スマートフォンの急成長に合わせてOSを維持するだけの人数と会社規模はパームにはなかったのだ。

  1. もともと弁護士だったオバマ大統領が「ブラックベリー中毒」であることはよく知られていた。
  2. その後、シリコンバレー系"理系のiPhone"がその代わりとなった。

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RIMはこの時点で「規模の壁」を乗り越えることに成功した。「エコシステム」よりも「メール機能」を中心としており、性能が安定していたことや、企業ユーザーでは端末だけでなくサーバー(Blackberry Enterprise Server)とセットでセキュリティや管理ができるため、深くはいりこんでいる、といった強みを持っていたからだ。

現在、四半期で50億ドルの規模に達し、年間ペースで200億ドルの「二桁ビリオン」クラブに属するRIMであるが、今度の相手はさらに大きい、アップルやグーグルである。OS開発だけでなく、製品デザインの改良や、世界中のキャリアや「エコシステム」開発者とのつきあいも含め、A・G両社ほどのリソースを持たないRIMは、苦しい戦いを強いられている。昨日の業務報告でも、主力モデル「Bold」の次期バージョン発売が遅れると発表され、売上見通しが下方修正されている。

もちろん、マイクロソフトやノキアも苦戦していることでわかるように、大きければいい訳ではないが、なにしろ、スマートフォンが世界で「主流」となりつつある中、スマートフォンはいよいよ「Big Boys' Game」の世界に突入したのだ。もはや、RIMの規模でも、このゲームを戦い抜くことは困難なようだ

▼スマートフォンとネットの関連(※画像をクリックして拡大)
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出典:ENOTECH Consulting

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「カナダの誇り」としての悩み

問題は、この危機からの出口をどこに求めるかである。

欧米的には、どこか有力なところに買収してもらうことで、既存のユーザーへのサービスを続けられるようにすることが、最も一般的な解である。

しかし、ここで問題になるのは、RIMはカナダの会社であることだ。カナダはかつて、ノーテルが世界で活躍していたことでもわかるように、高い技術を持つ「テレコム王国」であった。テレコム・バブルの後遺症でノーテルが解体されてしまった現在、「テレコム王国カナダ」の誇りを受け継ぐ最後の砦がRIMなのだ。

一方、現在スマートフォンで成功しているのはシリコンバレーの会社ばかり。過去まで遡っても、上述のパームに加え、前図の上から二番目の「サイドキック」を出したデンジャーもシリコンバレーのスタートアップだ。パームは同じシリコンバレーのHPが買収したのに対し、デンジャーを買収したのはよそ者のマイクロソフトであったが、創業者アンディ・ルービンはその後Android社を設立してグーグルに売却、現在はグーグルAndroidの総帥となっている。いわば、日本企業内で人が異動するのと同じで、会社がなくなっても、人はシリコンバレー内でぐるぐる廻り、脈々とDNAが受け継がれている。

話を戻すと、そういうわけで、RIMの売却先候補として名前があがるのは、シリコンバレーの会社か、マイクロソフトか、少し前にはノキアなど、「外国の会社」ばかりなのだ。カナダ政府やカナダ国民の感情としては、どうも上手くいかないように思う。

同じように業績が悪化し、マイクロソフトが買収するとの噂が絶えないノキアも、同じ悩みを抱える。フィンランドのGDPの3%を生み出す同社を、アメリカの会社に売却するというのは、フィンランド政府・国民としては許しがたいだろう。ノキアがシンビアンを捨て、Windows Phone7をプラットフォームとして採用すると発表した直後に、ノキアの組合が反発し、辞職する従業員が相次いだと言われている。

国籍の話だけではない。前述のデンジャーは、マイクロソフトが買収した後、結局うまく活かすことができず、かつての人気端末サイドキックは消滅、後継となるはずだったKINは、発売してすぐに撤収という大恥をかいて、デンジャーのDNAはもうほとんど残っていない。マイクロソフトが買収した会社がたどる末路の典型であり、RIMもノキアも、そうはなりたくない。しかし、韓国や中国の会社が相手では、ますます文化摩擦が大きい。

実は企業のIT管理者にとっては、今でもiPhoneやAndroidよりも、ブラックベリーのほうがありがたい。すでにサーバーがはいり、業務フローもそれに最適化されている中で、iPhoneやAndroidに対応するのはコストも手間もかかる。セキュリティも心配だ。しかし、従業員、特に偉い人たちは、今や流行遅れになったブラックベリーではイヤで、カッコイイiPhoneを使いたい。

ブラックベリーに対する、根強いニーズは今でも存在する。RIMもそれはわかっていて、新発売のタブレット「Playbook」でも、企業ニーズ対応を中心に据えている。しかし、スマートフォンの大衆化の大波の中で、このニーズにきちんと応えるためには、OSやデザインやマーケティング面でもiPhoneやAndroidに対抗しなければならず、それだけの規模を確保する方法として、適切なパートナーが見つからない。

スマートフォン業界の人もエネルギーもますますシリコンバレーに集中する流れの中で、RIMのDNAをうまく継承して育てる方法が見つからない。RIMの悩みは深い。

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海部美知(かいふ・みち)

ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
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