iPhone 4Sの発表で、iPhoneの品揃えがこれまでになく多様になった。これにより、初めて「ポートフォリオ」と呼べるものができたという見方については議論の余地もあるだろう。私は1年ほど前「n-1」--nというモデルから、何かの要素を差し引いたものを、本物の代替選択しというよりは「まやかし」と呼ぶべきと主張したことさえあった(訳者注:iPhone 4と平行して販売されていた先行モデル iPhone 3GSのことと解釈できる)。
だが、先週のiPhone 4S発表ですべてが変わった。オリジナルのiPhone投入以来はじめて、アップルのスマートフォンに関する製品ポートフォリオができた。現在iPhoneには、5つの異なるモデルがあり、価格設定は10通りにもなる。国によって価格設定やオプションの違いはあるが、ここでは私は米国での例(下図)を採り上げて議論を進めてみる。
[米国市場でのiPhoneの製品ポートフォリオ - 価格順]
こうしてすべての値段を並べてみると、とても規則的な間隔で値段が上がっていくようになっていることがわかる。一時は50ドルから500ドルまで50ドル刻みになっていたこともあるiPodのパターンとよく似ている。こうした価格設定の背後には、「どんな懐具合のユーザーにも、iPhoneを使ってもらいたい」という考えがあるのだろう。無論、どんな買い物をする時にもそうだが、どの値段のモデルにもそれぞれのトレードオフがある。製品の性能やオプションの価値など、購入時にはさまざまな点を検討しなくてはならない。
そこで、話を簡単にするために「SIMロックの有無」でモデルを大別してみることにする。それを示したのが下のグラフ。
[米国市場でのiPhoneポートフォリオ - 上がSIMロック有りの価格設定、下は無しの価格設定]
これでわかるのは、SIMロックがかかっていないモデルにどれくらいのプレミアムが上乗せされているかという点(あるいは、ユーザーがある携帯通信キャリアからほかのキャリアに変更できる自由を手放すことと引き替えに得る割引額の大きさ、とみることもできよう)。
さらに、上の2つのグラフを組み合わせたのが下に示すグラフで、モデルごとにSIMロック有りと無しのモデルが重ねてある。
[米国市場でのiPhoneポートフォリオ - 同一モデルごとの比較]
このグラフをみると、SIMロックなしの機種は、SIMロック有りの機種にくらべて、いずれのモデルでも450ドル高くなっていることがよくわかる(グラフ中の白色の部分がプレミアム分を示す。ただし、3GSモデルだけは差額が375ドル)。この値段の違いは、ユーザーが通信キャリアを自由に使い分けられることに支払う差額と考えられる。
だが、このグラフから判ることはそれだけではない。SIMロックの無い機種の値段は、アップルがiPhoneを直接消費者に販売する際の値段でもあるが、こうした製品の多くは世界中の中古機市場で販売されることになるだろう。アップルがその国や地域の携帯通信キャリアと販売契約を結んでいない場所もあるが、そうしたところで売られるiPhoneの多くが、このSIM無しバージョンである。アップルには流通チャネルの違いによって価格の差が生じることを避ける必要があり、そのためにSIMロック無しの製品に、自社の流通チャネルに流す時よりも安い値段をつけることができない。その結果、このSIMロック無しの機種の値段は携帯通信キャリアがアップルに支払うのとほぼ金額にならざるを得ない(ただし、ボリュームディスカウントによる割引分は除く)。
アップルではiPhoneの販売平均単価(Average Selling Price:ASP)を公表しているので、それをみればこの想定が正しいかどうかを確かめられる。3番目のグラフに入れた縦線は、アップルが今年4-6月期(2011CQ2)に記録した実績値をしめしているが、この線がほぼ真ん中付近にきている点に注目(訳者注:「真ん中」とは4S 16GBモデルの「649ドル」--5段階に分かれた価格のなかで中間にあたるもののこと)。
もうひとつ、このグラフから推測できることがある。それは、新しい製品ポートフォリオになっても、全体のASPは以前とそう変わらないと仮定できるということ。アップルは今回の発表で、(SIMロック無しの)3GSモデルを375ドルに値下げしたが、同時により高価な4S 64GBモデルも追加している。そのため、3GSによるASPの低下分は、4S 64GBの売上で相殺される可能性があると考えられそうだ(とくにはじめのころには)。
(執筆:Horace Dediu / 抄訳:三国大洋)
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