アップル(Apple)の手元流動資金(現金および売却可能な証券類)の額が世間の注目を集めるようになったのはしばらく前のことだが、この9月末にはその合計額が816億ドルに達した。これを発行済み株式数で割ると、1株あたり86ドル80セントとなる。そうして、現在(原文公開10月24日)の株価393ドルからこの額を差し引くと1株あたり306ドルとなるが、これは過去12ヶ月間の利益の約11倍にあたる。
816億ドルの内訳は下図の通り。
[現金および現金同等物の推移/縦軸:単位は100万ドル]
直近7-9月期の増加額は54億ドルで、全体の3分の2が米国以外の国でプールされている。また長期の証券類(主に債権--棒グラフ、オレンジの部分)が占める割合も、3分の2に達している。上図のとおり、いずれの比率もこの1年間に大きく伸びている。この理由については、CFOの戦略変更の結果とも考えられるが、実はそれ以外にもうひとつ、最近になって劇的に変化した別の資産項目もある。この別の資産の推移をみることで、流動資金の割当に起こったある変化の理由がわかるかもしれない。
[不動産、のれん代、無形資産の推移/縦軸:単位は100万ドル]
先日の記事のなかで、アップルの固定資産(Property, Plant and Equipment:PP&E)が劇的に増えていると記した。だが、それと並んで「買収した無形資産」("Acquired intangible assets")という項目が、とくに7-9月期には大きく増えているのは、上図が示す通りである(棒グラフ、青の部分)。なお、約23億ドルに上るこの増加分の大半は、ノーテルから買収した特許に関するものと考えられる。
こうした資産をアップルによる「投資」と見なすこともできる。その場合、株主にとっては、資本調達コストを上回る利率でのリターンが期待できるもの--ただし、確実にそうなるという保証はないもの、ということになる。アップルの資金運用に対しては、「膨大な額の現金を遊ばせたままにしている」と指摘する声も多く聞かれるが、ここで説明したような「無形資産」の増加ぶりをみれば、同社が資本の一部を「有効に使っている」("put to work")ことがわかる。アップルは特許や企業や知的財産を買い続けている。その金額はすでに120億ドルに達している。
こうした買い物が結果的に「よい投資」になるかどうかはまだわからない。しかし、現金などの伸びを上回るペースで、それ以外の資産が増えている。その金額は1年前に比べて倍以上、2年前と比べれば4倍以上に増えているという事実がある。
(執筆:Horace Dediu / 抄訳:三国大洋)
【原文】
・Putting capital to work
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