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スマートフォンメーカー各社の「企業価値」と、アップルの現金残高の比較 - Asymco

2011.11.28

Updated by on November 28, 2011, 19:55 pm JST

6月のなかばに、アップル(Apple)の流動性資産(現金残高)と、スマートフォン分野の競合他社の企業価値(Enterprise Value:以下、EV)とを比較した記事を書いていたが、今回の話はその続編ーアップデートにあたるものである。

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[アップルの流動性資産vs. 競合各社のEV/左:Q2末、右:Q3末/ 縦軸単位は10億ドル]

前回の分析から変更のあった点は次の通り:

  • ソニーエリクソン(Sony Ericsson)のEV評価額については、ソニーによる買収(エリクソンからの持ち株取得)金額をもとに算定した。あの買収発表以前は、ソニーエリクソン単体での株式取引はなかったので、EVを知るすべがなかった。そのため6月に試算した際には過去12ヶ月間の利益を14倍して、30億ドルという数字にたどり着いた。その後に発表されたソニーによる完全子会社化では、ソニーエリクソン株式の50%に10.5億ユーロという評価額が示された。これにより同社の評価額が28億ドルということがわかった。EVはこの評価額よりわずかに低いはずだが、ここでは評価額をEVとイコールとして取り扱うことにする。
  • モトローラ(Motorola Mobility)はグーグル(Google)に125億ドルで買収されることに合意した。その結果、同社のEVは約86億ドルに急上昇した。
  • RIMの株価は崩壊し、同社は現在約73億ドルのEVで取引されている計算になる。
  • ノキア(Nokia)の株価も下落し、同社のEVはいま130億ドルほどになっている。
  • HTCは先ごろ株価が大幅に下落したため、現在のEVは約150億ドルとなっている。
  • LG電子の携帯端末部門では依然として赤字が続いているため、EVの算出は難しい。11月に入って同社は8億9000万ドルの資金調達を実施する意向を明らかにした。この資金の使途は、スマートフォンを含む新たな取り組みとされている。この新株発行による株価希釈が嫌気され、同社の株価は14%低下。6月の時には、私は同社の携帯端末事業に100億ドルというEVを付けていたが、いま思うととても甘い評価だったと思える。そこで今回は、最近の出来事を加味して、90億ドルとしてみる。
  • サムスンのEVは増加した。6月の試算では、過去12ヶ月間の利益を14倍していたが、今回は業界全体の環境変化を考慮して13倍することにした。その結果、得られたEVは780億ドルで、アップル以外のスマートフォン・メーカー全社をあわせた金額よりも多くなる。またこの780億ドルという数字はノキアの約6倍に相当する。
  • アップルの現金および流動性資産や投資は、6月に比べて約120億ドル増加し、10月の時点ではあわせて820億ドルほどになった。

6月時点ではアップルの流動性資産の合計額は、競合するスマートフォン・ベンダーのEVをあわせた金額の約53%に相当した。現在ではその割合が61%に高まっている。アップルは手元の資金を使って、サムスンを除くすべての主要なスマートフォンメーカーを買収することができ、しかも250億ドルものおつりがくる計算になる。

この分析は主にアカデミックなものだ。こうした買収が実際に起こると言っているわけではない。グーグルによるモトローラの買収で示されたように、支配権にはプレミアムが付くし、個別の買い手は市場全体の場合ほど「合理的」ではない。ただ、私がこの分析を通じて示したいのは、携帯電話(端末)業界全体がある種の危機的状況にある、ということだ。携帯電話機メーカー各社の企業価値は総崩れし、2つの大手ブランド(モトローラ、ソニーエリクソン)は別の会社に吸収されて、姿を消す可能性がある。

それと同時に、いまこの市場への新規参入をねらう各社のビジネスモデルは、先行組とはまったく異なるものだ。アマゾン(Amazon)、フェイスブック(Facebook)、バイドゥ(Baidu)、アリババ(Alibaba)はそれぞれ、携帯電話機自体の販売から利益を得るのではなく、非対称型のビジネスモデルを可能にする手段として価値を持つ端末もしくはプラットフォームを売り込もうとしている。また、アップル自体が売っているのは、ハードウェアに何かをプラスしたものであり、このハードウェアの上にのる付加価値の部分が増えている、との見方もできる。付加価値の部分が大きくなっているということは、ハードウェア自体のコモディティ化が起こっているということであり、つまりいまではスマートフォンのビジネスでさえ、価値の圧縮がかなり進んだ状態に達している、というふうにみえる。

そのいっぽうで市場全体の成長は続いている。以前に各社間の利益分配比率の変化について採り上げたことがあったが、あの結論で私は各ブランドが苦しんでいると記した。しかし株式市場の反応から判断すると、携帯電話機メーカー各社の置かれた状況はさらに悪化しているようだ。2012年には携帯電話機業界で不可避かつ劇的な変化が生じる可能性が高まっているようにみえる。

(執筆:Horace Dediu / 抄訳:三国大洋)

【原文】
Apple could buy the mobile phone industry | Updated

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