今回の衆議院解散選挙に関して
「どうして解散するんですか」
という疑問を小学四年生が呈するため、Webサイトを立ち上げた、と話題になりました。
それが上のスクリーンショットにあるようなサイトです ( URL)。
ところがこれが嘘だとすぐにバレてしまいました。
みればわかりますが、誰が見ても小学生が作れるようなサイトとはとても思えなかったからです。
しかも、 「why-kaisan.com 」というドメインまで取得し、 twitterにも自称「小学四年生」が登場して色々な人の疑問や質問に答える形式です。
主張したかったことの是非は本稿のテーマではないので良いとして、私が許せないと思ったのは、あまりに人を馬鹿にした、卑劣かつ杜撰な手法だったということです。
わざとらしい黒板、そして真ん中に表示されている数字ですが、これはいかにも「このサイトに賛同しています」という人たちのアクセスカウントがリアルタイムに表示されているように見えますが、実際には乱数で勝手にカウントアップされていきます。
あのね、そもそも小学生が誰かに何かを主張しようとするときに黒板なんてモチーフにしますか ?
これをデザインした人は、もう少し頭を使ったほうがいいと思います。
誰かが不審に思ってこのWebページのソースコードを見ないとどうして思っていたんでしょうか。
見る人すべてを馬鹿にしています。
つまり、プログラミングの知識がない人が見れば、「おお、こんなに解散について怒ってる人がいるんだな」と勘違い (ミスリード )させるようになっているわけです。プログラミングの知識がある人が見れば「こんなに高度な同期プログラミングをするにはサーバ側に相当な工夫が必要だぞ、ソースを見てみよう」と思うのはごく自然な流れで、ソースコードを見たら一発でバレるような偽装をなぜしたのか、本当に全く理解に苦しみます。
さらに頭が痛いのは続く文章です。
なぜ。
なぜノートに鉛筆と消しゴム
そもそも小学四年生は横罫線のノートは使ってません。
そして書かれた文字が明らかに鉛筆の文字じゃありません。
フォントです。バレバレです。
ダサい、そしてわざとらしい。
これを見て、「おお、いまどきの小学四年生でも疑問に思うような理不尽をしているのだな。自民党は許せんぐぬぬ」と思う人がいたとしたらそれ自体がビックリですが、 Twitterではこんな発言もしています。
小学生が「アートができてうれしいな」なんていう、妄想の中にしか出てこないようなしゃべり方をするわけがない、というのは言い過ぎとしても、小学四年生は日本語がもっとヘンです。いろんな言葉が混じってきて、まだ「てにをは」が完璧に使いこなせていません。
これは小学生のふりをしたい妄想が炸裂している大人のやからしたことなのでしょうか。
しかし事態はもっと奇妙でした。
当然、あまりに見る人すべてを馬鹿に仕切ったこのサイトは、「小学生なのにAmazon Web Servicesに契約 してる!」とか、「小学生なのに有料のヒラギノ角ゴ ProN W3を使ってる」とか「why-kaisan .comと同日に取得されたwhy-kaisan.jpのドメイン名が NPO法人によって取得されている」とか様々なところで総ツッコミを受け、結局は首謀者がサイト上で謝罪するということになりました。
首謀者を名乗ったのは慶應大学法学部の青木大和氏で、それを手伝ったのが スーパー IT高校生として知られ、慶應SFCに進学したTehuこと張惺 (ちょうさとる)氏。
つまり、 天才的な10歳児になりすました二人のうち一人は、天才高校生と呼ばれていたわけです。
Tehu氏はそもそも数々のメディアに登場し、発信力がある人なので、自分のブログなりどこかのメディアなりに寄稿すれば意見表明は十分できたはずです。
Tehu氏に意見表明する意図がなく、青木大和氏の表現を手伝っただけ、とするならば、あまりにもやってることが杜撰すぎて、いちクリエイターの仕事としてひどく失望します。
小学四年生を名乗るという手法そのものの卑劣さをさておいたとしても、バレバレの JavaScript、わざとらしい黒板やノート、そして消しゴムと鉛筆の意匠はコミュニケーションデザインとしても決して褒められたものではありません。
仮にこれが広告代理店のコンペで、「こんな小学生のサイトを作る作戦でいきましょう」と言われたら、「そんな小学生いるわけないだろ」とすぐにボツを食らうレベルだと思います。
では彼らはどうすべきだったのか。
そもそも青木大和氏は NPO法人の代表として活動していたわけですから、普通に自分のブログなりで発言すればよかったんです。「どうして解散するんですか。 700億円もかけて解散する理由がわかりません」と。
それならそれで、そういう、いい年になっても選挙の意義を理解できないという、自らの理解力の限界を表明するだけで構わないわけです。
しかし当然ですが、いい年こいた大学生である青木氏が、そんなブログを書いても「法学部にいてそんなこともわからないお前が悪い。もっと勉強しろ」などと言われるだけで、世間の注目を集めるのは難しい。つまり発信力に乏しいと思ったのでしょう。
そこで小学四年生という設定を考えたのではないかと思います。
漢字もわからない小学生なら、「どうして解散するんですか」と問いかけても「もっと勉強しろ」とは言われないはず、という姑息な計算があったのではないでしょうか。
しかし当たり前ですが、小学生に解散総選挙の意義を伝えるのは難しい。というかほとんど不可能でしょう。しかもこの小学生が問題にしているのはあくまでも「学校の先生が減らされること」と「お小遣いが増えないこと」です。いち小学生の家庭の事情 (小遣いが増えないのは教育方針かもしれないし)や教育政策ついてに答える義務はありませんし、理解できるよう説明するのは非常に難しい。仮に時間をかけて説明したとしても子供が本当に理解できるかはわからない。そういう難問なのです。
つまり、自分は小学生という安全地帯に逃げておいて、相手がなにもできないような状態で今回の解散総選挙を行う自民党を批判しているのです。
こんな意見表明の方法が卑劣でなくてなんでしょうか。
今回の件でおおいに失望したのは、本当に着想から実装まで、完璧に卑劣で、一分の隙もないほど姑息かつ杜撰なものを、よりにもよって慶應の学生二人、しかもうち一人は天才とまでよばれたエンジニアが関わっていたということです。
Tehu氏には天才ならもっと頭を使って欲しかったし、青木氏が本当に日本の将来を憂いて活動するなら、こんな姑息かつ卑劣な手段を使わないでいて欲しかったと思います。
また、この炎上が、もともと自身がいつか衆院選に立候補するためのプロモーションとして青木大和氏が仕掛けた可能性についてもネットでは言及されていますが、もしこの炎上が意図的なものならば、青木氏と Tehu氏の謝罪の言葉すら嘘ということになります。真相はわかりませんが、そう思われても仕方のないようなことをしていることは確かです。
青木氏は20歳ですから、法的には立派な成人ですし選挙権もあります。
しかも謝罪文もあまりに幼稚です。謝罪になっていません。一体彼らは何を企図して、どのようなゴールがハッピーエンドだと考えてこの騒動を起こしたのでしょうか。
もしかすると謝罪もまた計算に入っていて、最終的には炎上そのものが目的だったのかもしれませんが、今後、青木氏がどのような政治活動を行おうとも嘘だらけの手法で政治的主張を行ったという色眼鏡で見られることは避けられないでしょう。その意味では今回の事件は、青木氏、Tehu氏の二人とも、国民を舐め過ぎていた、という教訓を胸に刻んで欲しいと思います。
私にしてみれば、こんな若者が、将来の日本を背負って立つつもりになっていると思うと、公立学校の教員が減ることよりも、よっぽど国の将来について不安になってしまいます。
いずれにせよ今後、この二人がなにをするときにも、「あの卑劣な手段で大量の Tweetスパムを送っていた人たちだ」と思われるのは避けられません。自業自得とも思いますが、まだふたりとも若いので、いまのうちに自分の人生について考えていただき、今後の言動に反映させていただければと切に願います。
おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)
登録はこちら新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。