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文系が弱体化すると国は貧しくなる

Weak humanities, weak economy

2015.06.29

Updated by Mayumi Tanimoto on June 29, 2015, 02:33 am JST

商売というのは、技術力だけでは成り立ちません。その技術をまとめ上げて、市場に送り出す能力が必要です。

具体的には、顧客の望む製品を考え、うまく宣伝して顧客に気に入ってもらい、効率的に組織を回して最低限の資源(資金や労働)で製品を作り上げる、ということです。これをうまくやるには、実は、文系の学問が果たす役割が大きいのです。

例えば古今東西の文学や哲学を深く学ぶことで「人間は本質的には何を求めるか」がわかります。これは、商品企画にも必須ですし、宣伝にも必要です。同じオフィスの人達の気持ち、外部の業者の考えていること、販売店で一日中立ったまま接客している人など、文学や哲学を学ぶと、そういった、様々な人の「求めること」を、想定することができるようになります。

音楽や絵画は、商品企画のセンスを磨くのに役に立ちます。色、デザイン、コドバのセンス、商品を使うライフスタイル。そういったことを発想する種が芸術です。どこかで見た絵画が、ある日突然、技術的課題のヒントになることもあります。

政治学、人文地理学、文化人類学、社会学を学ぶと、商売を展開する異なる地域や、外国の状況を、深く理解するのに役に立ちます。これは顧客の要望を理解するのに必須です。

例えば、インド人がどういう食生活を送っているかを知っていれば、なぜ白い冷蔵庫は人気がないのかがわかります。イギリスの麻薬中毒者や低収入層の生活を知っていれば、なぜ、ギャングの間でBlackberryが大人気だったのかがわかります。台湾のアート系映画や文学に詳しい人がチームにいれば、台湾人消費者の心にグッとくるコピーを書くことができるかもしれません。アメリカ映画の単純さの裏には周到な戦略があることを知っていれば、多国籍市場で販売する電子レンジの操作を単純化しなければならない理由がわかります。チュニジアの秘密警察のことを知っていれば、HideMyAssに需要がある理由がわかります。

かつての中国やソ連、旧東ドイツでは、技術スペシャリストを養成することを重視していました。国のトップ大学には理系の学部が置かれ、文系は軽視されていました。政治家には理系教育を受けたテクニカルエキスパートが少なくありませんでした。表現の自由はなく、ロックも映画も文学も批評もサブカルも、資本主義の国々のように自由に語ることはできませんでした。そして、優秀なはずの人たちが考えた計画経済は大失敗しました。改革解放後には、元国営企業の利権を牛耳った、ごく一握りのコネのある人々が豊かになり、貧富の差が広がりました。

突飛な発想というのは、一見無駄なものがぐちゃぐちゃと存在し、非効率で、わけのわからない議論から生まれることがあります。そういうグダグダの環境こそがが豊かさの根源なのでありますが、それが重要であったことは、失ってからわかるのです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。