「とりあえずオープンデータ」から真の情報活用へ。GitHubは日本のオープンガバメントを進化させるか?[前編]
Information is meant to be used by everyone
2015.07.03
Updated by Yuko Nonoshita on July 3, 2015, 06:30 am JST
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Updated by Yuko Nonoshita on July 3, 2015, 06:30 am JST
自治体のオープンデータへの取り組みが日本国内で広がる中で、情報公開の手段としてアプリ開発などに使われている”GitHub”(ギットハブ)を活用しようとする動きが始まっている。
GitHubとは、アプリ開発などでバージョンを管理するために使われているGit(ギット)と呼ばれるシステムを、さらに使いやすくするクラウド・サービスの一つである。初心者でも使いやすいグラフィカルなユーザーインターフェイスで、無料登録できることからまたたく間に人気を集め、さらに複数で制作した文章やデータ管理などでコラボレーションツールとしても使われるようになり、現在の利用者は1000万人を超えている。日本はGitHubが設立された2008年以降、アクセス数が常に上位10カ国内に入るほど利用者が多く、この6月にGitHubにとって初めてとなる海外法人ギットハブ・ジャパンも設立されたことから、さらに利用が拡がると見られている。
特に今年2月に、和歌山県が日本の公的機関としては、国土地理院らに次いで3番目、自治体としては初めてGitHubの公共アカウントを取得したことから、「GitHubはオープンデータのプラットフォームとして使えるらしい」という認識が広まりつつある。そうした現場からの期待に対し、大阪のイノベーションハブで開催された「第3回自治体オープンデータ推進協議会(関西会議)」では、GitHub本社の行政担当エヴァンジェリストを迎え、世界の公共機関でのGitHubの活用事例を紹介する講演を実施。参加者の多くが自治体関係者で占められており、後半には和歌山県、滋賀県、大阪市、神戸市からそれぞれのオープンデータへの取り組みも紹介され、国内外のオープンガバメントの実情を知る貴重な機会となった。
今回、来日したGitHubのBen Balter氏は、GiHubの活用事例の紹介にあたり、「政府や自治体のオープンソース活用」と題したスライドを用意し、オープンデータに必要なオープンソースという考え方についてあらためて説明するところから話をはじめた。
オープンソースとは、OSやソフトウェア、アプリなどを開発する際に制作されるソースコードを公開し、誰もが開発に参加できるようにする手法を意味する。広く知られるプロジェクトとしてLinux OSの開発があり、Linuxをベースに開発されているAndroid OSもオープンソースで開発されている。そして、オープンデータはオープンソースよりもさらに幅広く、アプリやオンラインツールの開発や運営、サービスに使えるコンテンツを使いやすい形で公開することである。つまり、オープンガバメントにはオープンソースやオープンデータへの取り組みがベースにあり、不可欠なものであるというわけだ。
▼GitHub本社で行政担当エヴァンジェリストのBen Balter氏はオープンデータやオープンガバメントの背景として、世界で広がるオープンソースの流れがあることを解説した。右は通訳を務めたギットハブ・ジャパンの堀江大輔ジェネラルマネージャー。
「今や多くの企業がオープンソースに取り組んでおり、Appleが先日開催された開発者向け会議WWDCでオープンソースへの取り組みをわざわざ宣言するほど大きな流れになっている。Microsoftも.netのフレームワークをオープンソースで公開しており、IBMやSAP、Twitter、Adobe、Netflixらも自社の開発リソースをGitHubでオープンソースとして公開し、共有している。大事な企業の資源をどうして公開するのかと思われるが、オープンソースで公開したからといって情報に対する権利まで放棄する必要はなく、こうした誤解がオープンソースへの取り組みをためらわせてきた。情報は選んで公開されており、より多くの開発者が参加することで改善のスピードが上がり、ユーザーが求める方向へと進化させることで、企業にとってもユーザーにとっても望ましい状況になるものである」とBalter氏は説明する。
▼オープンソースは大企業でも急速に浸透しており、Appleが開発者向けイベントで取り組みを発表したほか、IBMやSAPなどでも採用されている。ちなみに日本ではDNAやGREEがGitHubを採用している。
▼オープンソースは全ての情報を公開し、権利まで放棄する必要はなく、オープンコラボレーションには有効な手段と考えられている。
オープンソースのメリットは、様々な課題解決方法を検証された状態で使えることなので、前例を重視する行政の方が取り入れやすいといえる。また、公共機関に求められる透明性が確保される上に、作業の効率化と予算の軽減ができることから、ホワイトハウスをはじめ、約450の公共機関が様々な情報を公開するのにGitHubが使用されている。そこでは、開発を行うためのオープンソース、情報を共有し活用するためオープンデータ、開かれた政府のために政策の立案ができるオープンガバメントという、3つのオープンな使い方があり、それぞれの活用事例が紹介された。
オープンソースでは、米国国家地球空間情報局(NGA)が地理空間情報をクラウドソースとして利用できるソフトウェアを公開する「Geo-Q」があり、災害や復興の現場で利用されている。米国のオープンデータ公開ポータルサイト「data.gov」も開発段階からすべてオープンに行ない、一般からのコメントも受け入れるオープンソースで運営されている。オープンデータでは、ペンシルバニア州フィラデルフィア市や米国政府の公共出版物を扱う「US GPO」で活用され、日本の国土地理院ではデータの活用事例も合わせて公開されている。オープンガバメントでは、連邦情報テクノロジー調達改革法という各庁舎のポリシーを実施するためのガイドラインの草案をホワイトハウスが作成する際に使われ、下院議員からプルリクエスト(修正提案)が採用されるなどGitHubの機能がうまく使われている。
▼Balter氏は公共機関では情報をオープンに活用する方法として、オープンソース、オープンデータ、オープンガバメントの3つがあると説明する。
▼米国のオープンデータ公開ポータルサイト「data.gov」はアップデートの頻度まで視覚化されるなど完全なオープンソースで運営されている。
▼GitHubのメニューは英語のみだが、国土地理院では日本語でもデータが公開されている。
ただし、いきなりオープンソースを運用するのは難しく、最初は組織内から始め、次に組織間、それから公共へというように徐々にスケールを拡大することが成功と継続につながるという。「最初は近所のオススメのお店紹介やレシピなど、失敗してもいいような手軽な内容からトレーニングを始めて、組織全員が参加して、一緒にオープンソースの文化を育てていくという意識を持つことが大事である」とし、行政機関に対しては、完全な形で情報が公開されることが求められるが、そうした意識も共に変えていくことがこれから必要になるだろうとBalter氏はコメントしている。
こうした世界の流れに対し、日本の自治体ではどのような形でオープンデータ化が進められているのか。すでにGitHubを活用している和歌山県をはじめ、滋賀県、大阪市、神戸市での取り組み事例が紹介されたが、そちらについては後編で紹介する。
【参照情報】
・第3回自治体オープンデータ推進協議会(関西会議)
・GitHub
・ギットハブ・ジャパン
・Geo-Q(GitHub)
・data.gov
・US GPO(U.S. Government Printing Office)(GitHub)
・国土地理院(GitHub)
※修正履歴
・日本の公的機関におけるGitHubのアカウント取得状況について、記述を修正いたしました。(2015/7/3 19:00)
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登録はこちらフリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。