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拝啓 テクノロジー様、ファッション業界を救えるのは貴方です

Amazing is always on the other side of yes.

2015.07.13

Updated by Eri Hosokawa on July 13, 2015, 17:32 pm JST

ソフトバンクが感情機能を搭載したパーソナルロボット「Pepper」の発売を一般ユーザー向けに開始したが、こんなにも早く、そしてなんとも意外な場所でお目にかかれるとは思ってもいなかった。先ごろ開催されたファッションとテクノロジーを繋ぐイベント「Decoded Fashion Tokyo Summit 2015」の会場内に設置されたファッションブランド、ユナイテッド トウキョウの商品が並べられたブースの入り口に立っていたのはPeppertだった。

来場客とコミュニケーションを取る感情を持ったパーソナルロボット「Pepper」

来場客とコミュニケーションを取る感情を持ったパーソナルロボット「Pepper」

Pepperはカメラやタッチセンサー、加速度センサーなどから得た情報を「内分泌型多層ニューラルネットワーク」で処理することで類似的に感情を生み出すことが出来る。日本におけるこのような人間型ロボットの開発が著しい理由として、1人世帯の増加に伴う孤独感などをロボットによって解決しようとするためであると、韓国メディアYTNは分析している。しかし、知っている人がいると安心し、褒められると喜ぶといった感情機能は孤独感を埋めるだけにとどまらず、常にさまざまな付加価値をつけて顧客の満足度向上を考えているファッション業界の課題を解決するテクノロジーとして、需要が高まっていくかもしれない。

これまで人の表情や言葉、周囲の状況に応じて臨機応変に対応できるのは感情をもつ人間だけであり、生身の人間だからこそ対人間との信頼関係を築くことが許されてきた。擬似的な感情で深い信頼関係を築けるとは思わないが、付加価値により他店舗との差別化を図るという役目は十分に果たすことができるだろう。

ファッション×テクノロジーと聞くとウェアラブルデバイスを想像しがちだが、両業界はそのフェーズをすでに越えている。双方の業界を革新、進化させることに重きを置いたとき、テクノロジーが取り組むべき課題はスタイリッシュなデバイスを開発することではなく、ファッション業界が抱える問題をテクノロジーによって解決することである。

Decoded Fashionは、テクノロジーが解決可能なファッション界の問題を探るため、これまで交わることのなかった二者の出会いの場を提供する。Wiredのインタビューでは、創設者のリズ・バセラー氏がテクノロジー企業のPRディレクターとして活動していた頃、スタートアップの起業家たちから「ファッションに使えそうな面白いアイディアがあるんだ」ともちかけられたことをきっかけに、デジタル革命がファッションの世界でも起こせるかもしれないと直感したことがDecoded Fashion創設に至る契機であったと語っている。

Decoded Fashionはニューヨークを皮切りに、ロンドン、ミラノ、パリをはじめ世界の12都市で開催してきた。そしてついに『VOGUE JAPAN』、『GQ』、『WIRED』などを発行するコンデナスト・ジャパンが主催者となり、日本での開催が実現。有識者によるカンファレンス、メンターシップ、スタートアップで構成され、東京サミットにはBusiness of Fashion創設者、イムラン・アーメド氏、Farfetchチーフグロースオフィサー、タリーブ・ノールモハメッド氏、Google USファッション部門トップ、リサ・グリーン氏など、蒼々たるメンバーが集結した。

三越伊勢丹グロープ CEOの大西洋氏(左)と、Business of Fashion創設者のイムラン・アーメド氏(右)

三越伊勢丹グロープ CEOの大西洋氏(左)と、Business of Fashion創設者のイムラン・アーメド氏(右)

WIRED JAPAN編集長の若林 恵氏(左)と、Origami創設者兼CEOの康井義貴氏(中央)と、FARFETCHチーフグロースオフィサーのタリーブ・ノールモハメッド氏(右)

WIRED JAPAN編集長の若林 恵氏(左)と、Origami創設者兼CEOの康井義貴氏(中央)と、FARFETCHチーフグロースオフィサーのタリーブ・ノールモハメッド氏(右)

双方の理解を深めるだけでなく、実際にアクションを起こせる場となるのもこのイベントの見所だ。同イベントのプログラムの1つ、スタートアップ・コンペティションでは各企業に8分間のプレゼンテーション時間が与えられた。内容はもちろん、その新たなサービスがどのようにファッション業界に革新をもたらすのかなど、審査員によって厳しく査定され、優勝者には三越伊勢丹ホールディング傘下の株式会社三越伊勢丹が運営する百貨店、伊勢丹とのコラボレーション権利が与えられるという夢のようなプログラムだ。

世界初の3Dプリンティングを使用し、わずか$2からの服作りを実現したElectroloomや、顔認識機能やヒートマップを使用することで世界レベルのおもてなしを目指すABEJAなど、テクノロジーはここまで進化しているのかと、終始感心させられるプレゼンテーションが続くなか、優勝を勝ち取ったのはMemoMiが開発する「メモリーミラー」だった。

従来のバーチャル試着は大掛かりな設備が必要だったが、メモリーミラーは通常の鏡と変わらないサイズ感のため、実店舗へも何の問題なく導入できる。気になる服を試着して鏡の前に立ち、前、側面、背後と8秒間で全てのアングルを録画する。気になる服が何着かある場合、全て試着、録画することができるため、最終的に比較が可能になるというのも録画機能がもたらす大きな利点だ。もちろん、録画された動画をデバイスに転送し、家族や友人とも共有できる。試着した服に色のバリエーションがある場合、全ての色を鏡上で試着でき、ピクセルで表示されるため非常に鮮明に反映される。何を試着し、何を購入したか、などの顧客データから独自のアルゴリズムを利用することで、新たなコレクションや店舗に未入荷のアイテムまでオススメしてくれる。

MimeMoは過去2年にわたり、ファッションブランドのラルフローレンやルイ・ヴィトン、アメリカの高級デパート、ニーマンマーカスなどで試験的にメモリーミラーを導入している。鏡だけではなく、ショーウィンドウやエントランスなど、違ったシーンにも活用できることを考えると、さらに進化が期待できる。三越伊勢丹グロープCEO、大西洋氏が同イベントの中で、「テクノロジーはこれからの経営改革としてのツールであり、企業としての最優先事項だと捉えている」と発言していることからも、MimeMoの優勝には納得ができる。

テクノロジーが進化すればするほど、人間関係が希薄になると懸念されてきた。しかし、テクノロジーこそ対人間との関係性を深く築くためのツールであるとこのイベントを通して改めて感じさせられた。同イベントに参加したファッション関係者は全体の80%に対し、テック関係者はたったの20%だった。この数値からもファッション業界のテクノロジーに対する関心の高さが伺える。テクノロジーと真逆に位置していたファッション業界がいま、最も必要としているのはテクノロジーなのだ。

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細川 依里(ほそかわ・えり)

1986年大阪府大阪市生まれ。映画「天使にラブソングを2」をきっかけに外国に憧れを抱き、15歳で渡米。高校はユタ州、大学はカリフォルニア州立大学にてグラフィックデザインを専攻。在学中にはフリーマガジンのインターンシップを経験。帰国後、女性ファション誌に編集者として携わる。趣味:ファッション、旅行、映画鑑賞。