original image: © Sergey Nivens - Fotolia.com
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一枚のシートにたくさんの文字やグラフィックを詰め込んだパワーポイントをよく見かけます。なるべく枚数を少なくしたいのだろうと思われますが、残念ながら「何がいいたいのかさっぱりわからない」資料になっていることがほとんどです。これは文字情報よりは間(ま=何もない空間)のほうが意味を提供している、ということを理解していないからです。間(ま)それ自体がメッセージなのです。
さらに、文章それ自体は「単にアタマの中で論理的になぞればよい」のですが、グラフィックは視覚で「解釈」する必要があります(この解釈力は個人の過去の記憶や体験への依存度が強いような気がします)。「感覚的に理解する能力を前提としている」パワーポイントは判りやすいのですが、「アタマの中で文章をなぞる」ことが前提になっている資料は当然ながら「図解」でもなんでもありません。
官僚や役所が作る資料が判りにくいのはそういう理由です。「(なぞっていただくことを前提とした)論理的な文章構造」を、ワープロにではなくパワーポイントという「図解前提のプラットフォーム」にはめ込んでしまったことで、ユーザーが混乱しているのです。
さて、私たちの脳は「(上下左右などの)場所(=ポジション)によって意味が違うはずだ」という前提をベースに眼がサーチ活動を起動させています。つまり、あるオブジェクト(図形や文字など)が上下左右のどこに置いてあるか、ポジショニングされているか、そして二つのオブジェクトがどの程度(距離的に)離れて置いてあるのか、ということ自体に強い意味を感じます。
そこでグラフィックベクター(複数の類似図形の位置がつくる線的な並び)にインデックスベクター(矢印などの方向と力を持つ表現)を加え、適切なところに配置することで、理解が進む、ということになります。場合によってはオブジェクト自体が動くことによる視線誘導(ムービングベクター)を利用することもあります。
これを簡単に実現することができるのが実は「ポストイット(Post-it)Ⓡ」です。あれは単にメモを書いて貼っておくものではない、ということが案外理解されていないかもしれません。ポストイットが革命的なのは「それ自体がひとつの情報の引き出しフォームとなっていて、かつその位置を勝手に動かすことができる」という点にあるのです。実際にやってみると、ポジション自体がメッセージになっている、ということが誰にでも理解できるはずです。
加えて、私たちが様々な現象や状況を理解しようとするときの基本的な行為が「比較」だということに留意してください。例えばいろんなアイデアをもちよってブレーンストーミングするときなど、そのアイデアの断片をポストイットに記入し、ボードに貼ってああだこうだ、という議論をした経験がある方もいらっしゃるでしょう。そして意識しなくとも「似たようなものは似たところに集めるべく貼り直す」ということを繰り返しているはずです。これを「サークルマップを生成する」と言います。これが比較の基本になります。そうこうしているうちに、似たもの集団としてのいくつかのクラスターが出現し、今度はそのクラスターごとの関係性や距離感などをイメージして、また動かしてみたりします。
それぞれのクラスターには共通する点があったり、決定的に異なる点があったり、ということが発見できます。そこで「バブルマップ」を作り、それを並置して「ダブルバブルマップ」にするとさらに理解が深まり、比較という行為に深みがでてきます。「深みのある比較」ができるとそれが実は課題の発見、そして新しいアイデア、新規事業の創出につながったりするわけです。
12月22日、「実はカンタンな図解の技術」というタイトルで行う講義は、この「ダブルバブルマップ」の作り方を中心に展開します。実に簡単なのですが、うまくやるための、ちょっとしたコツがあったりするので、そのあたりを実際に体感していただくことで、ご自身の「使える道具」としてお持ち帰りいただけるのではないかと思います。
SCHOLAR 第12回「実はカンタンな図解の技術」
スピーカー:今泉 洋(武蔵野美術大学・デザイン情報学科教授)
「全体構想」や「頭の中のイメージ」を正確に伝えるのに、文字に比べて圧倒的に有利な「図解」を上手に使いこなせている人はほとんどいません。情報伝達能力と発想力を飛躍させる図解の「コツ」をお伝えします。
【開催日時】2015年12月22日(火) 19:00-21:30(開場18:30)
【会場】devcafe@INFOCITY(渋谷区神宮前5-52-2 青山オーバルビル16F)
【受講料】5,000円(税込)
▽イベントの申込・チケット購入はこちら
http://peatix.com/event/131600
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登録はこちら1951年生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科教授。武蔵野美術大学建築学科卒業後、建築の道を歩まず、雑誌や放送などのメディアビジネスに携わり、'80年代に米国でパーソナルコンピュータとネットワークの黎明期を体験。帰国後、出版社でネットワークサービスの運営などをてがける。その後、フリーランスとなり'99年デザイン情報学科創設とともに着任。新たな表現や創造的コラボレーションを可能にする学習の「場」実現に向け活動している。