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ロボットと法を考えよう 

2015.12.16

Updated by ロボット法研究会 on December 16, 2015, 07:30 am JST

読者の皆様の中にも、お掃除ロボットを「飼っている」方がいるかもしれない。もしかしたらPepperを購入して家でロボットのコミュニケーションを楽しんでいる人もいるかもしれない。あるいは昔から飼っているAIBOのメンテナンスに頭を悩ませている方もいるだろう。

お掃除ロボットやペットロボットをはじめ数多くのいわゆるサービスロボットと呼ばれるロボットが我々の生活の様々な場面で活躍し始めている。そして大手自動車メーカーが2020年をめどに自動走行車の投入を宣言するなど、ロボット技術が身近になりつつある。日常生活以外でも、災害現場の探索や遠隔操作での手術など、その活躍の場とその可能性は今後飛躍的・劇的に拡大することが見込まれるといえるだろう。

他方で、ロボットが我々人間と接する局面が増大することは、生活が便利で豊かになる一方で、その分様々なリスクが増大することを意味する。あるロボットはセンサーやカメラから常に何かの情報を取得し、それを利用する。そこには人のプライバイシーに関連する情報も含まれるだろう。あるロボットは搭載された人工知能により自律的に状況を判断し行動する。製造事業者や利用者が思ってもみない行動をとるかもしれない。またあるロボットは異国の地から誰かが操縦している。その者がテロリストだったらどうだろうか。

実際、ロボットや関連する技術に起因する事故は起き始めている。例えば、オーストリアでは、「ロボットが焼身自殺を図った」と話題になったある事故が起きた( REBECCA POCKLINGTON “World's first robot SUICIDE as family return to find cleaning gadget had turned to ash” Mirror Online, 13 NOV 2013)。この事故の主人公はお掃除ロボットで最も有名なルンバであり、電源をオフにしていたはずなのに、なぜかスイッチがオンになってクッキングヒーターに突入し焼身自殺をしてしまったらしい。

他にも次のような例がある。日本での事例だ。今年の10月に名古屋市で、名古屋大学が研究を進める自動運転車が公道実験中に、自損事故を起こしていたという(「自動運転車、公道実験中に事故 運転席にTVリポーター」朝日新聞、2015年11月5日)。

しかしながら、これらの事故を法律の問題と絡めて考えるときには少し気をつけなくてはならないことがある。たしかにこれらの事例は、ロボット技術が社会に浸透するにあたって生じた問題だ。他方で、前者はそもそもキッチンの台の上で使用するのが通常の使い方なのか、なにかユーザーの操作に落ち度がなかったか、など様々な疑問はつきないし、単純に機械の誤作動なのだからあまり通常の電化製品の事故とは変わらないかもしれない。それに比べて後者は、自動走行車で生じた事故については誰に責任があるのか、これが実験ではなく製品として販売されるとしたら公道を走行して良いのかなど今までの自動車では考えられなかった問題があるように思われる。

ロボットなどの新しい技術と法という問題を考えるにあたっては、どうしても「法律がおいついていない」というイメージで語られがちであるし、実際にそうである場合も多い。他方で、本当にそうなのか疑問であるところも多いように思う。現代までに我々人類が、そして日本人が築いてきた法体系でどこまで対応できるのか見極めないと、必要以上の規制を課してしまうことになるかもしれない。

例えば今年4月に首相官邸に墜落した事件をきっかけに大きな話題になったドローンだが、航空法が改正され使用が厳しく制限されるに至った(国土交通省「無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール」)。あのような事件があって、まさに航空法という空のルールに関する規制がおいついていなかったのだから、規制が強化されることは当然と思うかもしれない。しかしながら、実はこのような事件がおこるはるか2年前に、小林正啓弁護士が現行の道路交通法の解釈によってドローンを規制できる可能性について言及しているのだ(小林正啓「セコムの自律型の小型飛行監視ロボットと道交法について」花水木法律事務所ブログ、2013年2月20日)。

このように、ロボット技術が人間社会に浸透するにあたって様々な問題が生じることは考えられ、そして現行法でも十分に対処可能なこともありえる。また、新しい法が必要だとしても、現行法との兼ね合いで過剰な規制になってしまわないか、誰かの便益が著しく害されていないか考える必要がある。

こうした問題を考えるにあたっては、法学者や弁護士などの法律関係者が現行法ではどこまで対応可能か、どういった法がありうるのか議論する必要は当然あるとして、それだけではなく、技術の研究開発を行っているもの、ビジネスに利用しようとするもの、そして一般のユーザーがどのようなルールならロボットによる恩恵を受けられるのか、どういった規制なら受け入れられるのかを議論する必要がある。筆者はそのような議論を行うためのプラットフォームとなるべく、ロボット法学会設立準備会なる名前で活動をはじめ、本年の10月12日にその第一回の研究会を開催した。この準備会では、将来的に学会を設立するために、今後数回にわたって公開・非公開含めた研究会を開催していく計画である。

本連載においては、身近になってきたロボットと法の問題について、このロボット法学会設立準備会の活動に参加・賛同する研究者や実務家から解説する記事が掲載されることになる。新しい問題に対する知的好奇心を満たすためにも是非読んでいただきたいところではあるが、それと同時に今後我々が直面するかもしれない問題として考えるきっかけにしていただければと思う。そしてその考えをロボット法学会設立準備会の開催する研究会にフィードバックしていただければなお幸いである。

 

文・赤坂亮太(慶應義塾大学SFC研究所上席所員/ロボット法学会設立準備会事務局)

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情報ネットワーク法学会の分科会として、人とロボットが共生する社会を実現するための制度上の課題を研究しています。本稿は、ロボット法に関心のある有志によるものです。