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Githubに主戦場を移した世界のIT人材獲得競争

Githubに主戦場を移した世界のIT人材獲得競争

The software, be open or die

Updated by 清水 亮 on January 8, 2016, 07:00 am JST

清水 亮 ryo_shimizu

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

 今後、おそらくもはや疑いようもないことは、数少ない例外を覗いては、ソフトウェアはオープンソースでなければ生き残れないということです。特にプロが使うものほどそうです。

 2015年はそれが決定的になった年でした。

 昨年はPFI(Preferred Infrastructure)社のChainerや、GoogleのTensorFlow、Facebookのtorch7といったディープラーニング(深層学習)向けのフレームワークがオープンソースになりました。

 筆者らが開発したディープラーニング用のGUI環境、DEEPstation(https://github.com/uei/deepstation)を同様にオープンソースソフトウェアとして無償公開したのも、オープンソースでなければソフトウェアは生き残れないという判断があるからです。

 オープンソースでなければ生き残れないというのはどういうことでしょうか。

 例えば従来なら、筆者らが所属する株式会社UEIのようなソフトハウスにとって、DEEPstationのようなGUI環境はそれだけで飯の種でした。

 ディープラーニングに興味のある企業に営業して、いくばくかのライセンス料と保守費用を頂戴してビジネスを展開する。これはこれで堅実なビジネスです。

 かつてのミドルウェアビジネスとはまさしくそのようなものでした。
 しかし現在は事情が大きく異なってきています。

 結局、そのやり方で儲けられるケースというのがどんどん減ってきているからです。

 従来、ミドルウェアとは囲い込みのビジネスでした。
 一度顧客を掴んだら、顧客が他のミドルウェアへスイッチするコストが高ければ高いほどこちらは利ざやを多く稼ぐことが出来ます。

 しかし当然ながら、そんなことをすれば最終的には顧客が損をします。
 顧客が損をすることが前提のビジネスというのは基本的に不健全なわけです。

 ビジネスとは営業、開発、製造のあらゆる局面で局所最適化が起きます。
 そして局所最適が全体最適であるとは限らないというのが最適化という問題全体の重要なポイントです。

 営業レベルでいえば、一度掴んでしまった顧客が離れ難くすること、すなわちスイッチングコストを上げることは局所最適化されています。

 しかし開発レベルでは、他社のスイッチングコストが高い技術は自社でもスイッチングコストが高い技術になり、ビジネスが拡大した際に新しい技術者を雇用したり教育したりすることにコストがかかってしまいます。つまり営業部単体では最適化されているように思えても、会社全体としては最適化されているとは必ずしも言えないのです。

 営業マンからすれば「開発者の育成や教育が間に合わないのは開発部と人事部の責任」と逃れることができるので、しわ寄せはそちらに行きます。

 開発部からすれば、教育コストの高い自社の専用ミドルウェアよりも、(他社でも使っている)教育コストの低い汎用的なオープンソースのミドルウェアを使いたいと考えるのが普通です。

 かつてはソフトハウスのミドルウェアは独自性が高ければ高いほど良かった時代があります。
 それはミドルウェアとしてのアイデアそのものよりも、泥臭いノウハウが凝縮されていることの方が重要な場面では特にそうでした。

 例えばスマートフォン以前の携帯電話サイトや、金融、会計関連のミドルウェアなどです。

 ところが今やスマートフォン向けのサイトはオープンソースのミドルウェアで十分作れるようになりましたし、特殊なノウハウも必要ありません。

 ソフトハウスの差別化は、ますます難しくなっています。
 
 するとソフトハウスはどのようにして差別化していかなければならないのでしょうか。

 筆者が考えるソフトハウスの差別化要因は以下の点です。