original image: © David Crockett - Fotolia.com
位置情報利活用の現状と課題(2)位置情報の利用に対するユーザーの意識差 〜ジェネレーション・ギャップの実態〜
テーマ12:位置情報とプライバシー
2016.02.01
Updated by 特集:プライバシーとパーソナルデータ編集部 on February 1, 2016, 08:00 am JST
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テーマ12:位置情報とプライバシー
2016.02.01
Updated by 特集:プライバシーとパーソナルデータ編集部 on February 1, 2016, 08:00 am JST
(これまでの流れ)
(1)最新事例にみる位置情報活用の可能性
──関本先生にお伺いしたいのは防災や公衆衛生、海外(シエラレオネ)での取り組みです。お教え頂けますか。
関本:はい、私たちは震災ビッグデータ※など、公益の分野で位置情報の活用を模索しています。
位置情報を含めた携帯端末のデータ利用となると、プライバシーリスクへの配慮が必要だったりして、正しく情報の利活用が拡大していくためには、誰かがビジネスで儲けるために利用されるだけでは難しいかな、と考えています。
データの性格上、公益活用も同時に盛り上がることが大事だろうと考え、都市計画・災害・公衆衛生などへの分野での利用を検討しています。計測に必要なコストを下げられる面にも注目しています。
※震災ビッグデータ:位置情報やインタビューの情報から東日本大震災の実態を再現したNHKスペシャルの特集番組の名称。関本研究室では番組の制作に協力している。
──国内ではこの領域の研究は通信キャリアと研究機関がタッグを組んで行っているケースが多いですね。
関本:海外でもキャリアと組んで行うケースは多いですよ。携帯やデバイスを研究者が独自に調達して配布・貸与できるのはせいぜい100台くらいまでです。最近はその数ではサンプルが少ないと言われていて、実際に弊害やバイアスがかかってしまうことも多いので、規模をカバーした研究を行うためにキャリアと組んでの取り組みというのは、妥当な選択だと思っています。
欧米でもオレンジというフランスの通信キャリアが行うイベントD4D(データ・フォー・デベロップメント)など、途上国の交通計画や防災などで使おうという動きがあります。ノキアでもイベント実施などがあり、国際的にもデータ利活用推進の動きは活発です。日本でももっといろいろやれるといいですよね。今年私たちが実施した「アーバンデータチャレンジ2015」というプロジェクト内で行った「1dayチュートリアル」というイベントではナビタイムに情報提供(20箇所分)をしていただくなど、徐々にですが、盛り上がる機運はあると感じています。
──事業者だとアプリを介して情報収集を行うケースが多くありますが、研究でも同様にアプリで位置情報を収集するということはあるのでしょうか。
関本:小規模のものでは事例があります。大学など研究機関が地域のイベント(やおまつり)などでアプリをつくり期間中、数百人の情報を分析するというケースは数件以上あります。
──アプリでない場合には、情報の利用許諾をエンドユーザーから取るかたちではなく、通信キャリアから大規模なデータを提供してもらうというアプローチだと思うのですが本人が直接的には同意していない情報をキャリアから受け取っているということについてはどのように整理されていますか。
関本:例えば、基地局の利用履歴データなどは「モバイル空間統計」などすでに商用化されているサービスの元にもなっているものですが、こちらはキャリアが勝手にやっているというものではなく、総務省のガイドラインにのっとって、データ利用や、ユーザーへの情報提供を行っています。その運用については総務省からも問題ないというコメントを得ています。
永瀬:通信キャリアの立場で少し補足すると、実はキャリアは「端末の位置データ」は持っていないとも言えます。基地局やアンテナなどの測位のためのインフラの位置は正確な情報を持っているので、端末がセッションを張った基地局の情報は正確に分かりますが、個々の端末の位置情報は精度面で保証された情報ではなく、その補正に必要なデータもキャリアが取得できているわけではありません。
単純に言えば端末を作っているのはキャリアではないので、実はボードやチップから外に出ないデータの取りようがない、ということです。それでkm単位のずれのある位置情報でもそのまま上がってきてしまい、補正もできない、というのが現実です。キャリアは本当の個人の生の位置情報というのは実は持っていないのです。
──測位結果の精度保証の標準化は取り組みがはじまったところですね。一方ユーザーの意識に戻ると実は測位した結果が多少ずれているということをなんとなく理解した上で、そこまで精度が高くないデータだから渡してもいいや、と思っている人は多いのではないかということも感じます。ビジネス・学術、それぞれの観点からこのあたりのユーザー意識はどのように見えますか。
永瀬:準天頂衛星「みちびき」を利用した当社の実証実験は2010年よりスタートしているのですが、参入にあたり前年の2009年にユーザーの意識調査アンケートをとっています。少し古い情報ですが、そこで若い人は位置情報を取得されることが「怖い」という感覚が薄いということが分かりました。年代が上がると怖いという感覚がある様子で女性のほうが恐怖心を持ちやすいということもわかりました。
若い人は、危機感なく使っているというよりは、「イマ・ココ」の情報だけを開示しているということを理解しているがために恐怖心が薄いということも分かりました。普段からツイッターなどSNSで位置情報をつけて投稿しているのも若い人が多いです。経験が感覚を変えているという気がしています。
日本のマーケットは位置情報の事業活用に萎縮しすぎな面があるのかもしれません。慎重になってしまうことで、より誠実な企業が海外の大胆にやれるベンチャー企業に出し抜かれてしまうというのはもったいないですよね。
関本:日本で実証実験がやりにくいというのは、感覚的な問題はたしかにありますね。正しく利用が進むためにはユーザーがきちんと理解して利用できることが重要ですよね。
位置情報を提供して精度高く実施するサービスと、精度はそこまで高くはないが利便性向上に位置情報を使っているもの、位置情報を利用しないものを見分けられるかたちでサービスが提供されることが求められているのだと思います。
さらに、気に入らなければオプトアウトでき、それが明示されているということが当たり前に実施されていけば、サービス体験によって徐々に理解は進むものではないかという気がします。
永瀬:通信に関するトラフィックと、信用情報・契約情報に対して責任を持っているキャリアは、いろいろ配慮しながら動いていますが、なんでも知っているという誤解を受けやすいと感じる部分があります。皆さんが思っているほど、全ての情報を関連付けて利用できるかたちで蓄積しているというわけではありません。、国によって定められたガイドラインとコンプライアンスの厳守によって事業が運営されているという実情を理解していただくことも必要かもしれません。
関本:大学で講義を持っていますが、途上国出身の学生さんは、買取型・使い捨てのSIMが中心の市場で育っているので、私たちが当たり前に思い込んでいる「携帯電話=個人情報」という意識があまり強くないというのには驚きました。そういう環境だと携帯電話番号もすぐ変わります。そこの意識は個人情報とSIMの関係の強さに由来しているのかもしれません。
ただ、その分日本ではキャリアによる手厚いサービスを受けられる、という側面がありますね。海外のようにキャリアがサービスをさほど提供していないと期待も異なります。
──なるほど、海外間での地域差もあるのでしょうか。
関本:たとえばFacebookはフィリピン・インドネシアで非常に普及率が高いです。それどころか自分の位置を知らせるためのアプリが流行っていたりするそうです。また相手の電話?番号を入力するとその人の位置が分かる、というサービスもあったりします。留学生に「そのサービス、怖くない?」と聞くと皆、違和感を持っていなかったと言いますね。
自分の位置を知られたくない人がゼロというわけではないのでしょうが、位置を公開しないことによって機会をロスすることのほうが嫌な様子でした。
──Facebookでも最近、近くにいる友人を探すというサービスがリリースされました。
永瀬:日本でもゲームでは近くにいる人とコミュニケーションを取るということは当たり前にありますね。
関本:部分的なブームはありつつ、日本ではこういったものはさほど流行っている感覚はないですよね。面白いですね。
「(3)位置情報ビジネスの今後と期待」に続く
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