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位置情報

位置情報利活用の現状と課題(3)位置情報ビジネスの今後と期待 〜位置情報リテラシー〜

テーマ12:位置情報とプライバシー

2016.02.02

Updated by 特集:プライバシーとパーソナルデータ編集部 on February 2, 2016, 08:00 am JST

(これまでの流れ)
(1)最新事例にみる位置情報活用の可能性
(2)位置情報の利用に対するユーザーの意識差

位置情報を開示したいユーザーのマインド-「つながっていること」へのロイヤリティ意識

──第二回では、研究リサーチ領域における環境の実態と、ユーザーの年代や国別のリテラシーの違いについて伺いました。固定電話を知っている世代と、最初に体験するのが移動端末である世代では感覚が異なるだろうというのは思います。アジアもその辺の体験の差が影響している可能性もありそうです

ソフトバンク株式会社 ITサービス開発本部・サービス推進統括部新規事業準備室室長の永瀬淳氏

永瀬:先のアンケートでも、位置情報を公開することに積極的な人は「その場、その瞬間の面白い情報を逃したくない」という気持ちが強いことがわかっています。また、イベントに参加しようがなかった、という根拠として、自分の位置情報を開示したいというのもあるようです。

これはアジアの話と共通しています。

関本:若者の「ぼっち嫌い」の流れかもしれないですね。

永瀬:実際にコミュケーションに参加していなくても「つながっていた」ことに価値を感じているのではないでしょうか。移動端末の使われ方が「電話」から「データ通信」中心に変わってきていることも興味深い事実です。

──マインドとしては「つながっている安心感」ということを満たすために位置情報を開示したい、情報通信サービスを利用したい、ということですね。

若年層の意識変化の実態はさらに加速している可能性がある。

永瀬:そうですね、それが先に動ける海外事業者の後追いになってしまう点がビジネスの視点ではもったいないですね。先のアンケートの「若い人」は2009年の20代なので、今の10代20代の意識はもっと進んでいる可能性が高いです。

位置情報に対する感覚や意識のギャップみたいなものはたしかにあると思います。それによって受けられるサービスも違うのでさらなる世代間の情報格差が生まれているかもしれないですね。

個人情報ではない「匿名加工情報」としての位置情報

──ここまでは位置情報=個人情報という前提で話してきましたが、統計情報と個人情報の間にある「匿名加工情報」の使い道を伺ってみたいのですがいかがでしょうか。

東京大学生産技術研究所 准教授の関本義秀氏

関本:匿名というときには、IDが匿名化されているケース(いわゆる仮名化)と、たとえば「あるゾーンに滞在する人の数」などのような情報のユニーク性を落としている統計に近いデータと、二方向があると思いますが、私はユニークに近いデータの使い道も存在すると思います。

例えばカーナビのデータは自動的にIDが匿名化されています。実際にエンジンをかける毎に、日時でIDを更新する、といったことを実装していますが、このくらいの個別のデータがあれば使い道があるように思います。

重要なのは「個」より「群」をとらえるデータ

永瀬:特定された人の情報は1to1マーケティングでは有効ですが、私たちの新規事業では実は個のデータは重視していません。

私たちが今重視しているのは、魚群探知のように、群れ(=集団)がどう動くかがわかることです。大きな流れであれば、統計的なデータ分析で理解できる領域が大きいですよね。次の流れを作るアーリーアダプターの動きを把握したいと考えると、「個」の情報がわかることは実は重要ではありません。

関本:なるほど、群れの行動データですか。出店計画などではそういったものが重要だとわかります。一方で自動運転、アマゾンの利用履歴などではパーソナライズされた情報が重要ですよね。

私はパーソナライズされたサービスと、一律提供のサービスの間もあると思っていて、例えば自動運転だと自分の運転の「くせ」に応じて支援するというような個人にフィットすべきですが、ある程度のパターンに分けて、ユーザーの「くせの型」にあった運転支援サービスを提供するというのもあるのではということです。元が統計化してあるデータであれば、開発コストもサービス価格も下がるのではないでしょうか。

これまでにはないクラスタリングが行動ログから実現する

永瀬:なるほど。おっしゃるとおりですね。

今後のマーケティングに「個」はいらないという仮説を持っている中身についてもう少し説明すると、若者向けのRV車は若者向けですが実際のユーザーは50代が中心です。また高速のSAで見かけるハーレーのユーザーには60代以上の方が増えています。

こういった人たちを従来の、年代・性別ではなく、たとえば「ハーレーが好きな人」という従来とはちがうもので束ねられる可能性に注目していて、つまり属性の新しい当て方を開発し、分析したいと考えています。老若男女を問わず「ハーレーが好きな人」がどんな行動傾向を示すかということが分かると非常に面白いことになるはずです。ここで位置情報は極めて重要な役割を担います。

さらに言えば、今後年間3000万人と言われる外国人インバウンドのマーケットを分析するためにはどうクラスタリングをすればよいか。論より証拠で行動からクラスタリングを行い分析できる方がずっと付加価値を上げられるはずだと思います。

分析クラスタというのは「存在するデータをどう体系化するか」なので、存在しないクラスタは分析できません。でも例えば、「ハーレー好きの群」という今までには存在しない、しかし購買力のある群を現在の行動から捉えていくということができると、「群の存在」を捉えるのが早くなりますよね。

行動ログデータは「無色透明なデータ」であり、これまでのリサーチとは別のアプローチを実現する

東京大学生産技術研究所 准教授の関本義秀氏とソフトバンク株式会社 ITサービス開発本部・サービス推進統括部新規事業準備室室長の永瀬淳氏

──防災や都市計画では避難誘導や避難行動の分析では、いままで想定していなかった新しいクラスタの発見はありましたか?個人の属性情報で集計した情報と行動ログから新たな視点が見出されるということはあるような気がするのですが。

関本:具体的にすぐに答えるのは難しいのですが、行動ログの分析からはあらたな視点やビジネス領域が発見される可能性は多いにあります。

アンケートは取る人の調査目的があるので、それにそった結果が得られます。一方、行動ログは、無色透明な情報なので、自分がまったく考えもしなかったことが見える可能性があるということです。
この2つの情報は似ているようでまったく違うものと捉えた方がいいと思います。

永瀬:いまの分類とは異なるクラスタリングが実現することで従来のマーケティング手法である年齢・性別分類や、数種類に分けただけの傾向に対応することから離れ、お客様の「興味」をより盛り上げるマーケティングに変化する可能性があると思います。

──興味深いお話が盛りだくさんとなりましたが、最後に位置情報とプライバシーの重なる領域がどのように変化していくか、という点でコメントをいただけないでしょうか。

希望する個人が情報を売買できたら面白い

関本:情報を売りたい個人が情報を売るということは先々あると面白いのではないかと思います。当然「売りたい」という意思のある人だけができる、という意味での実現ですが。

利活用が進んだ先には、位置情報の利活用に対するモラルが変化していくということも起こる可能性がありますね。

位置情報を活用し、位置と認識を推定するAIエンジンの開発が待たれる

永瀬:まずは、ステークホルダーの理解と利活用が進むことが前提になりますが、当社では「自分の位置を推定するAIエンジン」と「認識の推定エンジンの開発」を目指しています。どちらにも位置情報の活用が極めて重要なテーマとなります。この2つが精度高く実現できればロボットは自律してあるくことができます。

また天気や空間情報など多様なデータを集めて「シチュエーションの評価」が行えるようになることも目指したいポイントです。それを推定(あるいは測定)するためには、位置情報の活用は不可欠です。
いまは位置情報の利用はマーケティング分野が中心ですが、ダイレクトな購買行動とは異なるところに実は大きな可能性があると思っています。

シチュエーションを理解し、行動するロボット開発は盛り上がりそう

関本:Pepperくんが自分のペットのようについて歩くようになる、ということですか(笑)それは楽しそうです。

永瀬:それは、いまだとちょっと気持ち悪く感じるかもしれませんね(笑)。いつでもどこでもPepperくんは話しかけてくれるのですが、もっとシチュエーションが評価できるようになればPepperくんはもっと空気を読むようになるかもしれません。(笑)

──位置情報リテラシーやプライバシー意識は世代や個人差が大きいということは、改めて重要な発見でした。ありがとうございました。

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