[MWC2016]5GやLTEの拡張技術が着実に進化、IoTが1つの柱に――MWCななめ読み「5G、IoT編」
2016.03.14
Updated by Naohisa Iwamoto on March 14, 2016, 10:25 am JST
2016.03.14
Updated by Naohisa Iwamoto on March 14, 2016, 10:25 am JST
通信業界の最大の国際展示会「Mobile World Congress 2016」(MWC2016)が、2016年2月22日~25日にかけてスペイン・バルセロナで開催された。204カ国から約10万1000人(2015年は200カ国、約9万3000人)という記録的な来場者を集めたMWC2016の展示会から、前回の「端末編」に続き「5G、IoT編」のトピックを紹介する。
2015年の3GPPで標準化作業が正式に始まった「5G」。もちろんまだ標準化作業そのものはスタートラインに着いたところだが、MWC2016では機器ベンダーやキャリアー各社のブースで5G時代を見通す展示が相次いだ。
その1つが、5Gのユースケースを紹介する展示。5Gの標準化では、「高速大容量通信の実現」、「大量のデバイスへの対応」「低遅延、高信頼のネットワーク構築」の3つの方向性が示されている。その中で、4G(4.5G)以前と5Gとの違いをわかりやすく紹介できるものとして「低遅延」の効果を見せるデモが多く行われていた。LTEでは数十ミリ秒ある遅延が、5Gでは1ミリ秒程度まで少なくなることで、ユースケースが広がることを説明するためだ。
▼ノキアのブースで示された5Gとそれ以前の遅延の比較デモ。スマートフォンのカメラの前に下ろした手が、右側の5Gのディスプレイでは追従して画面下部に表示されているが、左側の4G以前のディスプレイでは遅れてまだ上部にある
ノキアでは、4G以前と5Gの遅延の違いを、カメラで撮影した手や動くボールなどを伝送したデータを再生するデモで示した。4G以前では、再生した映像が実際よりかなり遅れて映るのに対して、5Gではほとんど遅れを感じることなく再生される。
エリクソンでは、モバイルネットワークを介して遠隔地の映像を見ながら機器を操作するデモを実施。5Gの低遅延の性能があれば、遅れることなく遠隔地の機器を操作できるだけでなく、機器からの感触のフィードバックなども的確なタイミングで得ることができることを示した。ドイツテレコムでは、落下する球の動きを捉えたカメラの映像を5Gの低遅延で伝送することで、ロボットアームが球を捉えるデモを行っていた。高速、広帯域といってもなかなかピンと来ないが、低遅延がもたらす効用はわかりやすく、5Gのメリットを知らしめることにつながっていそうだ。
▼エリクソンのブースでは5Gの効果を示すために遠隔操作のデモを行った。5Gの低遅延性能があれば、遠隔地の画面を見ながら、手元の機器でスムーズな操作が可能になる
無線インタフェースでは、センチメートル波帯やミリ波帯といった高い周波数帯を使った高速伝送のデモが行われた。エリクソンのブースでは、エリクソンとNTTドコモが共同で開発したマルチユーザーMIMOのデモが行われていた。15GHz帯の電波を使い、基地局側には合計512素子のマッシブMIMOのアンテナを採用。ビームフォーミングをすることで複数の端末と適切な通信が可能になるマルチユーザーMIMO(MU-MIMO)により、2つの端末の合計で25Gbpsを超えるスループットを実現した。端末の1つは動き続けており、動く端末に対してビームフォーミングが継続でき、高速データ通信が可能なことをアピールした。
▼エリクソンのブースでデモがあった5G マルチユーザーMIMO。2つの端末(UE)のうち1つは移動し続けていながら、最大で25Gbpsを超えるスループットが得られていた
ノキアのブースでは、15GHz帯を使った5Gのデモを実施。ノキアが今後提供する基地局装置の新製品「AirScale」を使ったデモで、商用の機器を使って約5Gbpsの通信が可能なことを示した。デモでは、2つの部屋にそれぞれVRゴーグルを装着した被験者が入り、VRゴーグルの映像だけで3Dの共同作業を行った。デモ環境では1ミリ秒以下という5Gの低遅延性能によって、同じオブジェクトを2人がつかむといった共同作業が、モバイルネットワークを介してできるということだ。
▼ノキアのブースの5Gのデモ。商用の新製品「AirScale」によって、5Gで採用が想定される技術により5Gbpsといった高速通信が可能なことを示した。遅延も1ミリ秒を下回る
ファーウェイのブースでは、5Gの新しいプロトタイプとして、6GHz以下の帯域と、6GHz以上の帯域を合わせて40Gbpsのスループットを得るデモを行った。5Gで利用する帯域がどのように決まっても大丈夫なように、高い周波数だけでなく既存の周波数帯も含めた双方の対応が可能なように製品開発を進めているとの説明があった。
5Gでは、前述したように多くの要件を満たすネットワークとして想定されていて、ユースケースによって必要なネットワークの性能が異なってくる。4Kや8Kといった動画を伝送するならば高速性が求められるし、IoTのセンサーからの情報を収集するならば低消費電力が、自動車の制御に使うならば低遅延や高信頼性が求められる。そうしたネットワークのサービスを、どのように提供するかについても具体的な方策が示された。昨年のMWCでアイデアとして提案されていた「ネットワークスライシング」の考え方が、より具体的な形で示されてきたのだ。ネットワークスライシングは、それぞれのユースケースやユーザーに対する複数のネットワークサービスを、仮想化によって1つの物理的なネットワーク上で提供する概念。SKテレコム、エリクソン、ドイツテレコム、ファーウェイなどのブースではそれぞれネットワークスライシングの効果を示すデモを行い、複数の「スライス」がそれぞれの負荷の変動で相互に影響を与えないことを示した。
▼エリクソン、SKテレコムの、3つのスライスを構築したネットワークスライシングのデモ。1つのスライス(緑の線)でトラブルがありスループットが落ち、パケットロス率が上昇しても、他のスライス(赤と青)に影響を与えていない
NTTドコモもネットワークスライシングのパネル展示を行い、サービスの提供時のイメージを示した。ネットワークスライシングによって、それぞれのユーザーが必要とするサービスはネットワークの要件を入力することで将来的にはほぼリアルタイムで提供できるようにするというもの。ネットワークサービスを利用するには、現状では開通までの時間がかかるが、5Gでネットワークスライシングを採用した場合には、即座に「サービスが払い出され」「必要に応じてリアルタイムに要件を変更できる」ことで、ユーザーのビジネスのスピードを高められるという。
▼NTTドコモのネットワークスライスの構想。まずサービスローンチまでの時間を現行の数カ月から即日へ、現行では不可能なスライスのスイッチを数秒にする。2020年以降のコアネットワークでは、サービスローンチまでの時間を数分、スライスのスイッチを数ミリ秒へと飛躍的に短縮する
5Gでは高速データ通信や、IoTへの取り組みが含まれるが、それらのユースケースは5Gの標準化や商用化を待ってくれるわけではない。4Gまでの技術をベースに、機能や性能を拡張する動きも活発だ。
ファーウェイでは、LTE-Advancedの拡張版であるLTE-Advanced Proの提供領域を、「4.5G」と名づけて技術開発などの対応を進めている。ファーウェイのブースには「4.5G」の世界を模したジオラマが設けられ、高速データ通信やIoTへの対応を4.5Gで進めることを示していた。
▼ファーウェイのブースに展示された「4.5G」が実現する世界のジオラマ。ギガビットクラスの高速大容量通信と、NB-IoTによる大量デバイスの収容、公共安全ネットワークの取り込みなど、5G商用化以前にLTEの拡張で多くのユースケースに対応できることをアピールする
クアルコムとエリクソンはLTEの拡張で1Gbpsの高速データ通信が可能な方式を開発、クアルコムが「X16モデム」としてチップを製造することで、実用化への足がかりをつかんだことをアピールした。20MHz帯の3帯域のキャリアアグリゲーションで、そのうち2帯域は256QAMの変調でそれぞれ400Mbps弱を、1帯域は64QAM変調で200Mbps弱の伝送速度を持ち、合計で約1Gbpsのスループットを達成する。
▼クアルコムのブースでは1GbpsのLTEに対応するX16モデムと、その高速通信の原理が説明されていた
IoTに向けたLTEの無線方式では、LTE-MとNB-IoTの展示が多く行われた。いずれも3GPPのリリース13で標準化が進められている方式。LTE-Mは1Mbps程度の通信速度を必要とするIoTデバイスを収容することを想定した規格で、帯域幅は最大1.4MHzと考えられている。一方のNB-IoTは、狭帯域を示すナローバンド(NB)のIoT向けLTE。200kHzといった狭い帯域を利用し、同じ信号を繰り返し送信することで到達距離を稼ぐ。
インテル、エリクソン、クアルコム、ドイツテレコム、ノキア、ファーウェイなど多くのブースでNT-IoTの紹介が行われていたのも注目の表れ。インテル、エリクソン、ノキアのブースでは、NB-IoTの効果を示すシミュレーションの展示を行っていた。いずれもレンタサイクルの管理というシーンを設定、自転車が基地局から離れていったときに既存のLTEでは通信が途絶えてしまうのに対して、NB-IoTでは到達する電力が低下しても接続が途切れない様子を示した。障害物を超えても接続を保つことができるため、地下の駐車場などの管理に利用するユースケースも紹介された。
▼インテルのブースのNB-IoTのユースケースのデモ。右下が周波数軸に示した電波の強度で、NB-IoTがLTEに比べて狭い帯域で通信していることがわかる。距離が離れるとLTEは通信が途切れてしまうのだがNB-IoTならば通信が継続できる
LTEの通信方式を通信事業者が持つ免許帯域(ライセンスバンド)だけでなく、Wi-Fiなどに使われる免許不要帯域(アンライセンスバンド)に拡張する技術の進展も見られた。ライセンスバンドとアンライセンスバンドを組み合わせて通信事業者が容量拡大に利用するLAA(Licensed Assisted Access)に加え、アンライセンスバンドだけでLTE通信方式を実現する「MulteFire」の展示が多く見られた。エリクソン、クアルコム、ノキアなどのブースでは、MulteFireをWi-Fiで利用している5GHz帯などに適用することで、通信事業者以外がLTE方式の通信サービスを提供できる可能性を説明した。
▼エリクソンのブースで紹介された「MulteFire」のデモ。アンライセンスバンドでLTE方式により2つの端末(UE)で同時に通信ができることをデモで示した
MWC2016では、「IoT」のソリューションをアピールする展示が目立った。通信機器ベンダーもソフトウエアベンダーも、キャリアーも、こぞってIoTを題目に掲げる。数年前までのスマートフォン、2014年から2015年にかけてのコネクテッドカーといったトピックから、自治体や企業に向けたIoTソリューションがMWCの主要テーマに変化していることを示している。
▼SAPのブースでは農業IoTのソリューションの展示があった。IoTのソリューションは多くの企業のブースで紹介されていた
例えば、エリクソンやノキアでは、これまでに実証実験や導入が進められている大学、公共安全、交通などのIoTソリューションを紹介する。MWCでアピールするのは、技術やハードウエアそのものではなく、ユーザーニーズに対してのコンサルティングやシステムインテグレーション力になりつつあるという説明だ。M2MやIoTで利用される通信モジュールを提供するTelitのブースでも、ハードウエアとしての通信モジュールは紹介しながらも最もアピールするのは「プラットフォーム」。150以上のAPIを用意し、低コストで短期間にユーザーの求めるソリューションをエンドツーエンドで構築できることを紹介していた。
▼Telitのブースで力を入れていたのは「IoTプラットフォーム」の紹介。エンドツーエンドのソリューションを豊富なAPIで容易に構築できることをアピール
国内からの出展企業もこうしたトレンドの中で、IoTへのシフトを鮮明にしている。富士通は前年までのMWCではスマートフォンなどの端末や研究開発の成果を中心にアピールしていたが、MWC2016ではグローバルなIoTソリューションベンダーとしての位置づけを明確にした展示へと方針を転換。RFIDを利用して荷物を管理できる移動する倉庫になるコネクテッドカーや、センサーを利用したヘルスケアや作業員の安全管理、位置情報ビッグデータなど、具体的なIoTソリューションを紹介した。
▼富士通ブースのコネクテッドカーのソリューション展示。このバン自体が通信機能を備え、RFIDで収集した荷物の情報をリアルタイム管理することで「移動するIoT対応倉庫」になる
NECもブースでは無線通信機器やSDN/NFVなどの展示と並んで、公共安全で実際にスペイン・サンタンデールで導入されているIoTソリューションのデモを紹介したほか、世界各地でのトライアルや導入の実績をアピールしていた。日立のブースでも、ワシントンDCで導入されている公共安全のIoTソリューションや、コネクテッドカーのソリューションを紹介するなどIoT一色の様相を見せていた。TOUCHPADシリーズの耐衝撃性能に優れた業務用端末を発表したパナソニックも、ブースには「the IoT Company」の文字を掲げ、監視カメラのソリューションや、IoTデバイスのセキュリティー確保の技術などを紹介していた。
▼NECのブースで紹介されていたIoTのソリューションのユースケース例。グローバルで導入やトライアルが進んでいることを紹介した
「IoT」とは漠然とした概念で、一律の着地点が見えにくいことも事実だ。しかし、MWC2016ではすでにその着地点を見つけた実際の事例紹介や、今後の可能性を感じさせるソリューションの展示があった。さらにNB-IoTのようなIoTソリューションを支える新技術や、その先に来る5Gの着々とした進展を肌で感じると、今後一層多くのモノがネットワークに接続し、そこから新しい価値を生み出す方向に進む可能性が高いと感じさせられるMWC2016だった。
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登録はこちら日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。