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世界銀行、ユニセフ:「子供の早期ケアと教育(ECD)」に向けて全世界で投資拡大を要請

2016.04.25

Updated by Hitoshi Sato on April 25, 2016, 14:07 pm JST

▼ECDセンターで遊ぶウガンダの子どもたち。 (C) UNICEF
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ユニセフ(国連児童基金)と世界銀行は2016年4月14日、全ての幼い子供たちが、健康、栄養状態、学習能力、精神的安定の向上のため、 質の高い社会サービスを受けられるよう「子供の早期ケアと教育(ECD:early childhood development)」を世界規模の政策、プログラム、公共投資の優先事項とすることを目的とした新たな提携を結んだと発表した。

ユニセフ事務局長アンソニー・レーク氏と世界銀行グループ総裁ジム・ヨン・キム氏は全世界のリーダーらに対して、公平な開発と経済成長にとって不可欠な基盤である栄養や「子供の早期ケアと教育(ECD)」のプログラムへの取り組みと投資を強化・加速させるよう共同で要請した。

幼児期の体験は脳の発達に大きな影響

神経科学や最近の経済研究の進歩により、幼児期の体験は脳の発達とその後の学習、健康、成人後の収入に対して大きな影響があることが明らかになっている。栄養や発育が十分でない子供たちや、早い時期に刺激を受けていない子供たちは、学校での学習成果がより低く、成人後の収入もより少なくなる傾向がある。

世界中で5歳未満の多くの子供たちが、可能なはずの発達を十分に遂げることができないというリスクに直面している。5歳未満の4人に1人の子供たち(1億5,900万人)が栄養不良による発育阻害に陥っており、その数はアフリカや南アジアの地域で著しく多くなっている。そして3歳から6歳の子供たちの半数近くが就学前教育を受けていない。特にサハラ以南のアフリカでは80パーセントが幼稚園など就学前のプログラムに通うことができていない。

世界銀行グループ総裁ジム・ヨン・キム氏は以下のように述べている。

「幼児期の発育阻害を、開発と経済における緊急事態として対処する時が来たのです。3分の1またはそれ以上の子供たちが発育阻害に陥っているならば、将来さらにデジタル化が進むであろう世界経済のなかで、各国はどのように競争するのでしょうか。ECDに対する適切な投資を怠れば、多くの子供たちが排除された生活を強いられることになります。私たちは開発の結果を平等にすることは約束できませんが、機会を平等にすることへの追求はできます」

またユニセフ事務局長アンソニー・レーク氏は以下のように述べている。

「身体的に栄養が十分か、精神的に刺激を受けているか、暴力から守られているかなど、子供たちの脳の発達に影響を与えるすべての要素について私たちが学んでいることは、 ECDに関する私たちの考え方をすでに変えつつあります。いま私たちは行動の仕方を変えなければならないのです」

経済発展にも効果あるECD

WirelessWire Newsでも以前お伝えしたが、現在世界には脳の発達に最も重要な7歳までの時期に紛争に晒されている子供が世界中に8,670万人もいる。

紛争の影響下にある国や家庭内暴力の影響を受ける家庭で育つ子供たちが体験するような長期にわたって困難に曝されるという経験が有害なストレスを生み、幼児期の脳の成長のピークを阻害する状態を生み出す可能性がある。

ユニセフと世界銀行グループは、各国政府、開発支援団体、市民社会団体、基金や民間セクターに対して、ECDを世界レベルおよび国レベルの開発の優先課題にするよう呼びかけている。栄養、幼児期の刺激、学習、保護への投資に向けた各国主導の取り組みを支援し、全ての子供たちのために、これら質の高いECDサービスに対する需要を喚起するため、 コミュニティに働きかけることを目的としている。

「子供の早期ケアと教育(ECD)のプログラム」は、貧困や不利な状況に置かれた子供たちにとって特に高い効果があるそうだ。例えば、ジャマイカでの20年間の研究は、不利な状況に置かれながらも乳幼児期に質の高い刺激を与えられる支援を受けた子供たちは、成人後に最高で25パーセント高い収入を得ていることを示しており、その収入額はより豊かな家庭で育った大人と同等になっているとのことだ。

ECDは経済成長への投資にもなる。質の高いECDプログラムへの投資を1ドル追加すると、6ドルから17ドルの利益が得られるそうだ。子供の頃から平和な環境でしっかりとした教育を受けることができたら、それはたしかに経済成長にもつながるだろう。

子供が平和な環境で教育を受けることは日本では常識だとされているが、世界ではまだ教育を受けることが常識でない子供が多数存在している。子供の頃からタブレットやネットアクセスして多くの教材が溢れている日本や欧米と違って、教育を受けることができずに紛争や貧困に晒された子供の脳への悪影響と、彼らの将来が富裕層のそれと比べて明るいものでないことは誰もが想像できる。

根本的な問題解決のためには、貧困や紛争の解決が求められるのだろうが、それは簡単なことではない。

▼ユニセフ教育専門官とともに、 ユニセフのECDキットに含まれている指人形を使って遊ぶ、 シリアの女の子(5歳)。 (C) UNICEF
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【参照情報】
World Bank Group, UNICEF urge greater investment in early childhood development

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。