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情報公開の加速で社会はどう変わる?「オープンデータシンポジウム2016」(1)

2016.11.24

Updated by Yuko Nonoshita on November 24, 2016, 06:25 am JST

一般社団法人オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構(VLED)と総務省が2012年から毎年開催しているオープンデータ系イベント「オープンデータシンポジウム2016」が神戸市で開催。「データ活用で変わる社会」をテーマに、世界や国内の自治体の具体的な取り組みが紹介された。会場の神戸市ではオープンデータとの関わりが深いセマンティック・ウェブをテーマにした学会「ISWC 2016 /International Semantic Web Conference」(関連記事)も開催されており、世界的にオープンデータへの関心は高まっている。

総務省からは「データ利活用による地方創生」という切り口で、国が進めているオープンデータの推進と利活用の状況が今林顯一政策統括官より紹介された。今年5月20日にIT本部が策定した「オープンデータ2.0」は、2020年まで集中取組期間とし、「一億総活躍社会」「2020東京オリンピック・パラリンピック」を強化分野に設定している。具体的ニーズがあるデータをオープン化し、法人番号を付記するなどして公開データの利便性を高めるとしている。

国内では200団体を越える自治体がオープンデータを推進しているが、さらなる普及のためにVLEDと協力してガイドラインを作成、公開している。他にも、オープンデータの利活用促進に不可欠なAPIの共通化や、専門家=オープンデータ伝道師の派遣といった具体的な支援も用意されており、先進自治体の活用例も紹介された。

また、データの流通環境を整備するための検討委員会を9月に設立。AIやIoTに関するデータ活用を検討するワーキンググループとあわせて、オープンデータワーキンググループを10月14日から慶応大学の村井純教授を主査に迎えて議論する。それらに加えて、海外でも議論が進むPDS(Personal Data Store)や情報銀行、データ取引市場などの新しい仕組みについてもどのように活用を進めるか検討するとしている。

▼総務省から国で進められているオープンデータ関連の取組みが紹介されたが、政策と密接につながっていることがわかる。
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オープンデータはIoTにとっても重要課題

VLEDの理事長を務める坂村健教授は、「オープンデータが創る未来社会」というテーマで、オープンデータが社会にどのような影響を与えていくかを紹介した。オープンデータは単なる情報公開ではなく、コンピュータが情報を理解できる形にするという点で意義があり、「IoT化を進めていく上でも重要である」と言う。天気予報や交通情報と連動するIoT家電やスマートホームが普及するのにあわせ、より多くのオープンデータが必要となり、オープン化に対する理解やルール作りを考える必要があるとしている。

さらに必要なのはオープン・ガバメントだが、現在国内で公開されているデータセット数は約1万7千件程度にとどまっている。オバマ大統領が就任と同時に推進を宣言しているアメリカでは、行政データを公開するData.govを設けており、当初は47件だけだったのを16万件以上に増やし、行政コストの削減につなげている。その影響で欧州各国でも10万項目の行政データがオープン化され、日本もその影響で取組みを本格化しているようだ。

▼坂村健教授からは理事長を務めるVLEDの活動内容やIoTとオープンデータの関連性などが説明された。
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公共交通から物流データまで意外な情報が宝に変わる

他にも一般のオープンデータへの関心を高める方法として、オリンピックをきっかけにしたロンドンとリオを例に、公共交通などの移動情報を中心に進めることが有用だとの話も紹介された。具体的には公共交通オープンデータ協議会(ODPT)を2015年10月に設立し、坂村教授を会長に理事団体として東京メトロやJR東日本らが参加し、国土交通省らがオブザーバーを務めている。関連データのカタログサイトの公開や、APIやライセンスの整備を進め、将来的にはそれらを元インフラを整備し、高度なアクセスコントロール機能を持つオープンデータマーケットを提供するところまで計画されている。

今後期待される民間のオープンデータとして物流が有望であるといい、物流オープンデータ活用コンテストを例に、どのような情報がオープンデータとして役立つかが紹介された。輸送や配送に関するデータは多岐にわたり、倉庫図面や作業ログなど、外部に公開しても価値がないと思われたデータもアイデア次第で宝に変わる可能性があることから、「メリットを考えるよりまずは公開すること」だと強調する。

▼公共交通や物流データを活用したコンテストは関心が高く、世界から応募が集まることもあるという。
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また、サービス業でもオープンデータは有用で、「ユーザーを識別し、属性情報を流通することで、より質の高いおもてなしを提供するサービス4.0が実現でき、それが日本の価値を高めることにもつながる」と提案している。さらに、「APIエコノミー」という企業が提供するサービスをAPIを通じて意識せずに享受できる時代の経済を指すフィンテック用語を紹介し、オープンAPIが連携するIoS(Internet of Service)社会が到来をすると話でしめくくった。

▼坂村教授の話ではサービス4.0やAPIエコノミー、IoSなどオープンデータに関連する新語が多数紹介された。
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プログラムの後半については、次回に引き続き紹介する。

イベントの模様は各プログラム毎にYouTubeで公開されている。プログラム一覧はこちら

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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。