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ノキア「Connected Future」

Nokia Connected Future(1)社会が新しいネットワークアーキテクチャを求めている

2016.12.27

Updated by WirelessWire News編集部 on December 27, 2016, 17:00 pm JST Sponsored by NOKIA

12月13日、ノキアはカスタマー向けプライベートイベント「Connected Future」を開催し、ノキアの事業戦略とビジョン、5G、IoT、クラウドをはじめとした次世代ネットワークに向けた技術について、講演とデモンストレーションで紹介した。その模様を4回に分けてレポートする。

<Nokia Connected Future>
(1)社会が新しいネットワークアーキテクチャを求めている(本稿)
(2)現実のものになったIoT時代のセキュリティリスクの対策とは
(3)次世代のネットワークアーキテクチャをクラウド/仮想化で実現
(4)360度のリアルタイム映像を大勢が視聴するとき「5G」が必要になる

人間の可能性をテクノロジーで拡張

ノキアソリューションズ&ネットワークス株式会社代表取締役社長のジェイ・ウォン氏は、開会の挨拶として、「次世代ネットワークの先にあるビジネスを求めて」と題したプレゼンテーションを行った。

ジェイ・ウォン氏

まず初めにウォン氏は、テクノロジー分野でのグローバルメガトレンドとして、6つの視点を挙げた。

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これらの要素は相互に複雑に絡み合っており、テクノロジーに対する要求はどんどん膨れ上がっていく。たとえば高速大容量でエッジコンピューティングへの低遅延なアクセスを可能にする技術、プログラム可能なネットワークと認知システム、あらゆるものに対応する動的で強固なセキュリティといったことである。

ウォン氏は特に「人とマシンの相互作用」に特にフォーカスし、「過去20年間、どのような技術革新が、主に人とマシンのインタラクションの改善をもたらしたか」について考察した。ブロードバンドとタッチスクリーンの普及が、現在の4Gネットワークに対する要求をもたらした。ではVRとARがどのような要求をもたらすだろうか。

ひとつは「ギガビット単位のネットワークアクセス」だ。常時、すべてのユーザーに必要とされるようになる。「2022年のワールドカップ決勝の中継をVRでやっていたら、皆同時に見たくなるはず。待ってくださいとはいえません。現在のインフラではサポートできず、本当に1人1Gbpsのアクセスが必要になるのです」とジェイ氏は分かりやすい例を挙げた。

もうひとつが、クラウドのレスポンスだ。クラウドが満足に使えるのは、高速な帯域幅があり、かつ、遅延が低い時であり、それはピーク時でも実現されなくてはいけない。「人間のせっかちさがキラーアプリケーションになる」という表現で、常に高レスポンスなクラウドを提供するために、「新しいインフラ、新しいネットワークが必要」であるとした。

こうした変革が必要とされる中で、ウォン氏はノキアの役割を「グローバル・ナーバス・システムのイノベーターとなり、将来のテクノロジーを開発し、私たちの社会・生活をより豊かにすること」と定義した。

「将来のテクノロジー」として、ノキアのベル研究所は「Future X」というビジョンを描いている。「私たちは何がメガトレンドを追伸しているかわかっているので、ビジョンの実現をサポートできる。その能力を持っている」とウォン氏は述べた。同時に不確実性に対しても、ノキアは常に新たな技術を作り、イノベーションを起こしてきたことを強調した。「紙パルプ業で創業してから今のネットワークを中心とした事業へとシフトしてきたように、これからはVRやデジタルヘルスにも対応していく」とした。

日本は技術革新の最前線

ノキアは日本を技術革新の最前線として位置付ける。「日本におけるノキアのプレゼンスは強力です。三大通信事業者様にLTE、3Gを提供しており、LTEアクセスマーケットでは1位のシェアを持っています。キャリア向けIPネットワークや光伝送も納品しています。また川崎にはR&Dセンターを開設しており、日本で5G専任チームを編成しています。2017年にはIoTラボ、アドバンスドテクノロジーセンターを設立します」とウォン氏はノキアが日本に対して投資をしてきたこと、また今後もしていくことを強調した。

ノキア「Connected Future」

「日本のお客様との対話を通じ、トレンドを見逃さないように心がけています。グローバルにE2Eソリューション提供が可能な世界唯一の企業として、人間のテクノロジーによる可能性を拡大するという目的を持ち、常に努力しています。世界の将来の神経システムを日本で構築していきたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いします」とあいさつを締めくくった。

新たなニーズに対応したビジョン「Future X」

基調講演では、ベル研究所の描くビジョン「Future X」について、ノキア リサーチ&テクノロジー部門(ベル研究所)バイスプレジデントのラウリ・オクサネン氏が紹介した。

ラウリ・オクサネン氏

まずはじめに、オクサネン氏は、「テクノロジーを使ってより良い世界を実現する」ための新しいニーズであるVR、シンプルなセンサー、IoTなどがネットワークに要求する仕様について、横軸に遅延、縦軸に帯域をとった図で整理した。

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今後新たなサービスを提供するにあたり、広帯域・低遅延のネットワークが求められるが、特に重要になるのは「遅延」である。「パワーグリッド制御や自動運転などのアプリケーションは、より低遅延のネットワークでなくては大きな被害をもたらします。またVRの世界でも、触覚まで感じられるようなものはより低遅延なネットワークが要求されます。現在のネットワークアーキテクチャではない、新しいアーキテクチャが必要になります」とオクサネン氏は述べた。

Future Xは新しいアーキテクチャの全体像を提示する。図の下はデータの流れであり、その上に存在しているのがクラウドの機能だ。

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アーキテクチャの最も大きな変化は「エッジクラウド・コンピューティング」であるが、これが必須となる理由は数字で考えるとよくわかる。光ファイバーの中を光が進む速度は秒速20万kmだが、これを1000で割ると1ミリ秒に光が進むのはわずか200メートル。すなわち、わずか200m離れたところに光ファイバー経由で信号を伝送するだけで1ミリ秒の遅延が発生するのだ。したがって、ミリ秒単位の遅延を実現するためには、中央処理型のクラウドではなく、処理する「場所」をユーザーに近づけるエッジクラウド・コンピューティングが必須となる。エッジクラウドは端末を効率的に接続されることで有効に活用できる。それを実現するのが「スマート・ネットワーク・ファブリック」だ。

クラウドの機能を構成する要素としては、5つが挙げられている。ユーザーはさまざまなアクセスで接続されるが、それらに対して同じセキュリティとサービス品質を提供する「ユニバーサル・アダプティブ・コア」、NFV/SDNで動的にネットワークを最適化し、サービスを提供する「プログラマブルOS」、ネットワーク経由で外部のリソースとも連携して分析・学習を行う「拡張認知システム」、そしてそれらから新たな価値を創造するアプリケーションを提供する「デジタル・バリュー・プラットフォーム」、そして新たな信頼やエコシステムによりこれらを守る「動的データセキュリティ」である。

階層型クラウドと柔軟なデータ集約が構成するプラットフォーム

大規模アクセスネットワークについては、VRコンテンツのリアルタイム提供を視野に、超小型・超近接アクセスノードにより、最終的に1平方kmあたり1Tbpsのキャパシティ密度の提供を目指す。エッジクラウドについてはメトロエリア、ローカルエリア、コアエリアのそれぞれにデータセンターを置き階層的に集約する「集中型エッジクラウド」のアーキテクチャを提案する。「すぐに実現するのは難しいが、今後は固定網も低遅延サービスもエッジクラウドに接続される形で統合されていくでしょう」とオクサネン氏は述べた。

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「スマート・ネットワーク・ファブリック」は、これらの階層型クラウドを効率よく接続するための柔軟な光伝送を提供する。全てのリソースはプログラム可能なキャパシティプールとして構成され、1Tbpsでコアルーターを接続するルーティング技術、スイッチが実装される。

サービス側では、これまでセルラー網と固定網で別々だったコアネットワークを共通化することにより、すべての接続に対して同じサービスを提供することができ、共通のデータ管理アーキテクチャを提供する。プログラマブルネットワークOSは、将来的には異なるオペレータ間での連携を可能にすることで、E2Eネットワークのプログラムを促進する。アナリティクスレイヤでは、共通化されたデータベースを活用してネットワークのデータを自由に引き出し、外からのデータと組み合わせることでさまざまな自動制御が可能になる。

こうしたものをパズルのように組み合わせた上にあるデジタル・バリュー・プラットフォームは、さまざまなアプリケーションがもつ新たなニーズを実現する。

「VRのプラットフォームや制御プラットフォームはまだ実現していないが、ここに新たなビジネスの可能性があるかもしれません」とオクサネン氏は述べた。

「信頼」の実装がセキュリティの鍵に

新たなネットワークを守るためには、新たなセキュリティが必要となる。既にIoTデバイスの脆弱性をついた攻撃によりネットワークがダウンするケースなどが出てきており、攻撃を検知して自動的に対応する動的セキュリティの組み込みが求められている。

また、もうひとつの課題としてオクサネン氏は「信頼」を挙げた。セキュリティインシデントの共有、複数プロバイダのクラウドリソースへのアクセスなどの実装には、いかに互いを「信頼」するかが重要となる。「安全な形で情報を使いたい時は、新たな共有の信用を埋め込まなくてはいけません」(オクサネン氏)例えばビットコインは、仮想通貨だけでなく、分散契約すべての信頼性を担保するための技術としても利用できる。

「とてもエキサイティングだが、全てこれから起こることの話です」とオクサネン氏は述べた。

2020年東京オリンピックのデータトラフィックは1万TBを超える?

基調講演の後半は、「リオからの教訓を受けた2020年オリンピックに求められるもの」として、ノキア リサーチ&テクノロジー部門 無線システムパフォーマンス特別研究員 ハリー・ホルマ氏がロンドン、リオのデータをもとに、2020年の東京オリンピックではどのようなデータトラフィックが発生するかを予測した。

ハリー・ホルマ氏

オリンピック会期中を通して、2012年ロンドンオリンピックでのデータトラフィック量は約1150TB、2016年リオオリンピックでは約3250TBだった。つまり4年間で3倍になった。「単純に計算すると、東京オリンピックではおそらく1万TBをはるかに超えるトラフィックに対応する必要があります」とホルマ氏は推測する。

特にトラフィックが多い開会式の時間帯を取り出してみると、ロンドンでは0.7TB程度だったトラフィックがリオでは1.6TBと2倍以上に増えている。「東京では5TB以上のトラフィックに対応する必要があります」とホルマ氏は推測した。

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次に、オリンピック中のメディア使用率については、ロンドンに比べてリオではテレビの使用率は15%減少しており、代わりにストリーミング視聴が増えているというデータが紹介された。ストリーミングは33億分、そのうちライブストリーミングは27億分見られており、ロンドンに比べて3倍に増加している。スクリーンとして使用されているのは61%がスマートフォン、19%がタブレットで、モバイルデータトラフィックはますます増加することになる。

アップリンクトラフィックに対応するNokia C-RANソリューション

次に、大規模イベントの特殊性についてホルマ氏は説明した。データトラフィックは下りと上りの間で非対称であり、通常は下りと上りの比率は10:1程度だが、大規模イベントでは1:1から1:3と上り優位に逆転する。また、通信時間も、通常は音声が長いが、イベント時にはデータが長くなる。「リオでの経験を踏まえると、東京オリンピック開会式で予想されるアップリンクトラフィックは0.6から2.1TB。上りのキャパシティをどのように増やすかが大きな課題」とホルマ氏は述べた。

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実際の例として紹介したのがマドンナのコンサート時のトラフィックだ。マドンナがステージに登場した瞬間から、写真や動画をSNSにアップロードする観客によって、ダウンリンクとアップリンクの比率が逆転する。

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アップリンクのキャパシティを増やすにはセルの数を増やす必要があるが、セルをやみくもに増やしてはアップリンクの干渉が増加する。ノキアがスタジアム最適化ソリューションとして提供してきたのがNokia Centralized RAN(C-RAN)ソリューションである。

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サッカースタジアムの事例では、C-RANがオフの時に比べてアップリンクのデータ量が2倍に増加したにもかかわらずリソース使用率は40%減少した。すなわち、キャパシティを3倍以上増やせることになる。

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「複数のセルで同時に電波を受信し、その後合成することによって、干渉を建設的な信号に変え、アップリンクパフォーマンスを改善します」とホルマ氏は説明した。

2018年平昌冬季オリンピックで5G機能をトライアル提供

モバイルエッジコンピューティングを活用したライブビデオ配信は、リアルタイムの新たな体験をもたらす。5Gネットワークの整備によるキャパシティの確保も必要となる。

2020年東京の前に、2018年平昌冬季オリンピックが開催される。ノキアは、5Gの機能をトライアルとして提供することを検討中だ。VRや即時リプレイなどの新たなコンテンツに向け、大容量低遅延のネットワークが必要となる。28GHz帯を使ったソリューションの提供を想定している。セキュリティ領域(警備、治安)への応用も計画中であることを紹介した。「ノキアはロンドンとリオの両方をサポートした唯一の無線ネットワークベンダー。東京でも良いスタートができると思います」とホルマ氏は講演を締めくくった。

スタートアップ支援やドローン市場に取り組むビジョンリーダー達も登壇

ゲストスピーカーとして、Slush Asia CEOのアンティ・ソンニネン氏が、フィンランド発のスタートアップイベント「Slush」について紹介した。

アンティ・ソンニネン氏

2008年ヘルシンキで、手弁当によるスモールプロジェクトで始まったSlushが、フィンランド首相をはじめとした各国首脳や海外の投資家から参加するイベントになった経緯が紹介された。ノキアもフィンランドでは会長をはじめ役員が参加しており、ブースも出展している。

ソンニネン氏は日本にでも最初のグローバルなスタートアップイベントとして「Slush Asia」を企画。「Global」「Open」「Cool」をキーワードに開催したSlush Asia 2016では、2日間で4000名以上が参加している。

また、「ビジョンリーダー」セッションでは、「日本におけるDrone産業の課題と可能性、およびDrone UTMの展望」と題して、日本UAS産業振興協議会(JUIDA) 理事長 鈴木 真二氏が、産業分野におけるドローン利活用に向けた電波政策やライセンス制度の整備状況について紹介した。

鈴木 真二氏

鈴木氏は、「ドローンを社会が活用していくためには、低遅延のネットワークが必要」とし、ドローンの管制システムであるUTMの導入にも期待を示した。

JUIDAは無人航空機システム(UAS)の民生分野における積極的な利活用を推進、UAS関連の新たな産業・市場創造を目的に2014年7月に設立された。国内外の諸団体と連携をはかり、UASに関する情報提供と民生分野におけるUAS開発を支援する。現在はドローンパイロット養成カリキュラムの標準化やドローン飛行支援地図の提供などを行っており、今後は空域管理などにも取り組む意向である。

当日はこの他、「デジタル・サービス・トランスフォーメーション」セッションとしてIoTとクラウドについての取り組み、および「ネットワーク・エボリューション」セッションとして5Gへの取り組みが紹介された。これらについては、関連するデモの情報と合わせ、次回以降詳しく紹介する。

ネットワーク技術展示

上記以外の分野についても、次世代ネットワークに向けた数々の技術が展示された。

Public Safety

災害時などにも確実に通信を確保するための自営通信網として、公共、公益、一般企業市場で、従来の音声中心のシステムに代わりLTE技術を採用したソリューションの導入検討が加速している。当日は、オールインワンのワンボックス型LTEソリューション、バックパック型の超小型LTEネットワークソリューションや各種端末デバイス、さらにはPTT/PTV(Push-to-Talk/Video)などのミッションクリティカルコミュニケーションのデモンストレーションが行われた。

Public Safety

次世代DSL技術 XG-FAST

電話線を使ったブロードバンド技術としてノキアはメタルで1Gbpsの性能を持つG.fastを商用化しており、棟内で光ファイバーを引けない集合住宅でも、FTTHと同等の1Gbpsのサービスを可能にしている。一方で光アクセス技術は既に10Gbpsに移行しつつあるが、ベル研究所はメタルでも10Gbpsの性能を持つ「XG-FAST」と呼ぶDSL技術を開発した。有効距離は100m程度とG.fastの300m程度よりもさらに短くなるが、イベント会場での短距離ケーブルを使ったデモでは上り・下りを合わせて8.9Gbpsで通信できることを示した。

次世代DSL技術 XG-FAST

Matchbox radio for DURAN (Dense Urban Radio Access Network)

これまでRFハードウェアのサイズ縮小は主にフィルターサイズの制限により限界があったが、ノキアは新しいフィルター技術により超小型スモールセル・ソリューション「Matchbox radio」を開発した。小型化することで天井裏への設置やアンテナとの一体化(小型のアクティブアンテナシステム)など設置方法の自由度が増し、さまざまな場所での超高密度ネットワークの構築が容易になる。

Matchbox radio for DURAN (Dense Urban Radio Access Network)

ドローン管制システム ドローンxスモールセル

ドローン活用を進めるにあたっての課題として、複雑な運用ルールに準拠した管制システムの重要性が増している。ノキアは様々なレギュレーションに適合したドローン運用を可能にする管制システム、UTM(UAV Traffic Management)の開発に着手している。またあわせて、将来のスモールセルのコンセプト「F-Cell」とそのコンセプトでのドローンの活用法についても紹介された。

ドローン管制システム ドローンxスモールセル

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