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AIは裁判の判決を予測できる

AI can predict judicial decisions

2017.10.30

Updated by Mayumi Tanimoto on October 30, 2017, 07:15 am JST

PeerJ Computer Science出版された論文によれば、ユニバーシティカレッジロンドンとシェフィール大学、ペンシルバニア大学の研究者は欧州人権裁判所 (ECtHR) の判決を 、AIが79%の正確性で予測することができたと発表しています(「AI predicts outcomes of human rights trials」)。

ECtHRというのは、EUにある人権に関する裁判所で欧州人権規約に 関する裁判取り扱います。

EU加盟国というのはEUの指令や規約 に従うことになっていますので、欧州人権規約というのは加盟国 全てに適用されます。

これは加盟国にとってかなり重要なことで、例えば国内で雇用差別や性差別が起こったら、場合によっては国内法の他に欧州人権規約に違反しているかどうかということを訴えることも可能なんです。

その他に明らかに国内法違反を犯している人でも、欧州人権規約ではその権利が守られてしまうこともあります。

例えばイギリスだとヘイト スピーチを繰り返す過激派宣教師が、イギリス国内法では国外追放に該当しても、欧州人権規約に違反してしまうため、イギリス国内での滞在を許されているというケースもあります。それだけ欧州人権規約というのは効力があるということなんです。

先程の研究の話に戻りますが、この研究ではECtHR が出版した公的な文書からテキスト抽出し分析しています。公的な文書というのは形式が決まっているので文章の分析が他の分野に比べて比較的楽だと述べています

Predicting judicial decisions of the European Court of Human Rights: a Natural Language Processing perspective

研究者たちは584件のケースから英語のテキストを抜き出し、欧州人権規約の3章6章、8章に関わるケースを取り上げ、そこにAIのアルゴリズムを適用し文章のパターンを分析したのです。また偏見や誤解を防ぐために、人権規約違反のケースと違反ではないケース数は同等にしてあります。

ECtHRの判決というのは法的な事実よりも、むしろそのケースに関わる法的ではない事実に基づいて判決を下していたということが分かっています。つまりこれは法的にいうと、裁判官は「現実主義者」であり「形式主義者」ではないということです。

この研究の研究者たちは、このように AIのアルゴリズムを使用した判決の予測というのは裁判官や弁護士等の仕事を補助する有効なツールだとして いるのですが、法的な文章というものはある程度パターンが決まっており、法的な妥当性が明らかなケースの場合はこのようなツールを使うのは予測の効率化にかなり役に立つでしょう。 また、 AIを裁判に使用することは訴訟にかかる時間を短縮することができ、これまで時間がかかることで訴訟を躊躇していた人たちがもっと裁判を起こすことができるようになるともしています。

このような研究はAIが流行り始める前から行われており、アメリカの別の研究(「The robot judge – AI predicts outcome of European court cases」)では、2004年には統計的なモデルを用いてアメリカ最高裁の判決結果を75%の正確性で予測することが可能でした。ところが人間の学者が予測した場合、その正確性は59%だったのです。

こういった研究はアメリカや欧州では盛んなのですが、なぜこんなに司法の効率化を進めているかというと、アメリカの場合は訴訟社会ということをご存知の方が多いと思うんですが、欧州の場合はEUがあるために国内法とEUによる指令や規制というものが複雑に絡み合っており、思った以上に司法手続きというのは時間とコストがかかるんです。

特に欧州においても、イギリスというのはアメリカのような訴訟社会になっていますので、なるべく訴訟のコストを減らしたいという要望もあります。

さらに、アメリカと同じく欧州の主要大都市というのが日本とは比べ物にならないほど多国籍化と多文化化が進んでいますので、様々な企業や人が紛争に巻き込まれます。ですから、コストを最小限にして紛争を解決するということにインセンティブがあるわけなんですね。

英語圏に比べると日本の司法の世界というのはデジタル化が進んでおらず、今だにFAXや紙で法的な文章をやり取りすることが当たり前です。さらに、データのインプットというのもかなり遅れていますので、日本の場合はAIを適用するという前に、まずは業務のデジタル化を進めるところから始めないといけないでしょう。

ただし、日本はここまで訴訟社会ではありませんし、少子高齢化でむしろケースが減っているので、ここまで効率化を急ぐ必要はないのかもしれません。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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