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そもそもピープルアナリティクスとは何か?

そもそもピープルアナリティクスとは何か?

What is People Analytics

2018.05.25

Updated by 特集:採用と活躍の技術 on May 25, 2018, 09:55 am JST

ピープルアナリティクス(People Analytics)のはじまりは、2007年にGoogleのHR部門(人事部)の組織名が「ピープルオペレーション(People Operations)部」と名付けられたことがきっかけであると言われている。HR部門で分析をすれば、HR分析(人事分析)と呼ばれるが、ピープルオペレーション部で分析をすれば、それが「ピープルアナリティクス」となる(※1)。

その後、2013年にHumanyze社のCEOであるベン・ウェーバー(Ben Waber)氏の著書『People Analytics:How Social Sensing Technology Will Transform Business and What It Tells Us about the Future of Work』(邦題は『職場の人間科学: ビッグデータで考える「理想の働き方」』千葉敏生訳)が世界中で大ヒットし、一気に「ピープルアナリティクス」という言葉が広がり、いまでは、MIT(マサチューセッツ工科大学)やWhartonのMBA(ペンシルバニア大学)で「ピープルアナリティクス講座」が開設され、また世界各地でPeople Analytics Conference(※2)が開催されるようになっている。

ピープルアナリティクスがカバーする領域は、「HRM(人的管理)」、「行動科学」、「テクノロジー」、「数学」の4つすべてが重なる領域である(※3)。

そもそもピープルアナリティクスとは何か?

・HRM×テクノロジー=HRIS(人事システム)
・HRM×行動科学=組織行動デザイン
・テクノロジー×数学=ビッグデータ(データサイエンス)
ということになるわけだがこの3要素を全て兼ね備えているのがピープルアナリティクスというわけだ。

類義語として、HRアナリティクス(人事分析)、タレントマネジメント、Human Capitalアナリティクス(要員分析)などがあるが、それらもまた発展段階、ということも含め、ピープルアナリティクスの定義自体まだまだ変動的なところが多い。

とはいえ、ピープルアナリティクスとそうでないもの(主にはHRアナリティクス)には取り扱うデータも含めて大きな違いがいくつかある。

HRアナリティクス(人事分析)が扱うデータはアンケート結果であり、また人材に関する問題を人事的観点で集めて解決(例えば評価データなど)することに主眼を置く。一方、ピープルアナリティクスが扱うデータは主には行動データであり、ビジネスに関わるさまざまな問題をデータを使って解決することを主眼に置く。

ピープルアナリティクスが扱うデータには以下4つに分類される。

■人に関するデータ(いわゆる人事データ)
・デモグラフィックス(性別、年齢など)
・業績・評価データ
・アンケートデータ
・健康診断結果

■デジタルデータ
・メールデータ
・カレンダーデータ(会議データ)
・チャットデータ
・コンピュータの使用量や使用記録

■施設関連データ
・会議室の入退室記録
・エレベーターの使用量や使用記録
・電力などのエネルギー消費量やその関連記録

■行動データ
・センサーバッジ(誰と誰が会っているかを記録するバッジ)
・ウェアラブルデバイス(主にヘルスケア関連商品でスマートウォッチなどがある)

筆者自身は、ピープルアナリストとして仕事している中で、よく使うのは「人に関するデータ」と「デジタルデータ」である。これまでHRアナリティクスでは「人に関するデータ」のみを扱った分析であったが、ここに「デジタルデータ」が加わるだけでも、かなりの発見があるのは経験的に実感している。「施設関連データ」や「行動データ」は、日本においては、総務部の協力が必要だったり、従業員に取り付けてもらうための政治的な御膳立などが非常に大変だったりすることもあり、依頼主の企業内にそれをうまく対処できる立場や能力の持った社員がいないとなかなか実現が難しいといった課題がある。

次の記事では、個人情報も含め、分析するにあたり、気をつけるべきことをまとめてみたいと思う。

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※1:What is People Analytics?
https://www.linkedin.com/pulse/paqa-what-history-people-analytics-mike-west

※2:参考までにWharton主催のPeople Analytics Conferenceを以下紹介する。筆者は2017年、2018年と参加したが、取り上げられるテーマはHRや人事だけにとどまらず、スポーツ選手や医療現場における患者の行動観察など、とにかく「ヒト」をテーマにした研究が紹介されていて面白い。また、日本でも有名なサイエンスライターであるマルコム・グラッドウェル氏(『急に売れ始めるにはワケがある』など多数)や、ビジネス著者であるダニエル・ピンク氏(『ハイコンセプト』や『モチベーション3.0』など多数)が登壇したりもして刺激的である。
https://wpa.wharton.upenn.edu/conference/

※3:What is People Analytics?
https://www.linkedin.com/pulse/paqa-what-people-analytics-mike-west

※4:What is NOT People Analytics?
https://www.linkedin.com/pulse/paqa-what-people-analytics-mike-west-6056058137042051072

※5:アメリカでは、法律が緩いこともあり、「施設関連データ」や「行動データ」は、日本に比べ比較的容易に取得し、分析が行われている。

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特集:採用と活躍の技術

社員の行動データを収集・分析し、業務効率化・業績向上、人事に生かす手法として注目されているピーブルアナリティクス(People Analytics)に代表される人事関連技術(Human Resource Technology)は人工知能関連のアルゴリズムが導入され始めることで本当に効果があるのかどうかが試され始めた。一方で“働き方改革”による労働生産性向上は国を挙げての喫緊の課題として設定されている。この特集では全ての人たちに満足のいく労働環境はどのように実現できるか、そのために人事関連技術はどこまで貢献できるのかを考えていく。データサイエンティスト/ピープルアナリストの大成弘子(おおなり・ひろこ)とアナリストの緒方直美(おがた・なおみ)を主たる執筆者として展開。

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