WirelessWire News Technology to implement the future

by Category

自動車 未来 子供 イメージ

自動運転は移動の「価値」を変えるか

2019.02.19

Updated by 特集:モビリティと人の未来 on February 19, 2019, 17:54 pm JST

自動運転が私たちの生活をどう変えるのかを考える際に重要なのは、私たちの生活の中での「移動」にどのような価値があるか考えることだ。目的地まで速く快適に行くこと、ハイキングやウィンドウショッピングのように周囲の環境を楽しむこと、ランニングのような身体を動かすこと、商店街の知人と立ち話をするようなコミュニケーション・出会いが生まれること、ドライブやツーリングのような操作を楽しむこと、必要な物を必要な場所に運ぶこと、アドカーのように多くの人の目に触れさせること。このように、移動には実に多様な価値がある。自動運転は、単なる効率化・コストダウンのためだけではなく、このような多様な移動の価値を高めるための道具にならなくてはならない。

自動運転が一般的になれば、私たちの社会はどう変化するのだろうか。まず考えられるのは交通事故の減少だ。2017年に日本国 内では3694人の方が交通事故で亡くなったが、自動運転によってヒューマンエラーが減れば、これらの事故はさらに減少するだろう。一方で、2018年3月に米アリゾナ州テンピで起きた Uberの自動走行車による事故のように、自動運転車が引き起こす死亡事故がこれからも起きる可能性は大きい。

自動車業界のビジネスモデルも変わりつつある。これまで、自動車は「所有」するものであり、使わない時間には駐車場に置いていた。しかしその自動車が自動運転車であれば、オーナーが使わない時間には他の人を乗せて使用料を取るほうが経済的だ。そのようなシェアリングサービスや「無人運転タクシー」のような移動サービスが増えれば、車を所有する人は減るだろう。多くの自動車メーカーはそのような未来を想定し、自動車を販売する「製造業」から、「モビリティサービス会社」に転換することを宣言している。Google系列のWaymoが、アリゾナ州フェニックスで自動運転車の無料貸出を行っているのも、自動車を売ることではなく、利用者のデータを集めることで提供できるヘルスケアなどの新しいサービスに、ビジネスチャンスを見出しているためだ。世界の自動車メーカーの多くが Uberのような自動車配車サービスに出資しているのも、自動車会社が移動サービスへの転換を視野に入れている証左といえる。

移動サービスのあり方として現在注目を集めているのが、カーシェアやバス、鉄道などを、ストレスなくシームレスに利用できるようにする「MaaS(Mobility as a Service)」だ。現在、公共交通で移動する際には、出発地から駅、駅から駅、駅から目的地という形で別々に移動手段 を手配する必要がある。これをスマートフォンで一括して手配できるようにする試みが MaaS である。自動車業界だけでなく、鉄道や路線バスといった複数のステークホルダーの連携が必要とされている。

自動運転は、車椅子やセグウェイのような、小型のパーソナルモビリティでも実現するかもしれない。これまで移動を制限されていた高齢者や障害者、子供、外国人観光客、飲酒した人などが、それぞれの都合や身体的特性に合わせて自由に移動できるようになることの社会的価値は大きい。

(『序 自動運転車とモビリティ』 須田英太郎)


モビリティと人の未来

モビリティと人の未来──自動運転は人を幸せにするか

自動運転が私たちの生活に与える影響は、自動車そのものの登場をはるかに超える規模になる。いったい何が起こるのか、各界の専門家が領域を超えて予測する。

著者:「モビリティと人の未来」編集部(編集)
出版社:平凡社
刊行日:2019年2月12日
頁数:237頁
定価:本体価格2800円+税
ISBN-10:4582532268
ISBN-13:978-4582532265

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

特集:モビリティと人の未来

自動運転によって変わるのは自動車業界だけではない。物流や公共交通、タクシーなどの運輸業はもちろん、観光業やライフスタイルが変わり、地方創生や都市計画にも影響する。高齢者が自由に移動できるようになり、福祉や医療も変わるだろう。ウェブサイト『自動運転の論点』は、変化する業界で新しいビジネスモデルを模索する、エグゼクティブや行政官のための専門誌として機能してきた。同編集部は2019年2月に『モビリティと人の未来──自動運転は人を幸せにするか』を刊行。そのうちの一部を本特集で紹介する。