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IT業界35歳定年説は本当か?

original image: © dusanpetkovic1 - Fotolia.com

IT業界35歳定年説は本当か?

Is it true that 35 year old is tech industry's retirement age?

Updated by 谷本 真由美 on March 30, 2019, 12:09 pm JST

谷本 真由美 mayumi_tanimoto

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

日本のIT業界でよく出てくる話題に「35歳定年説」というのがあります。

大半のSIerや類似する業態の企業(派遣企業を含む)は、ごく一部の元請けを除き、激務でデスマーチが当たり前なので、体力的にもたないというのがその背景であります。また35歳をすぎると管理系のポストに上がっていないと居場所がなくなってしまう、というのもありますね。

前回の記事で富士通の45歳以上リストラの件を取り上げましたが、これがまさにそうで、年功序列でスライド式人事、能力や専門別になっておらず、年齢で人件費が上がるので、一定以上の年齢は一掃してしまおうとなるわけです。

前回指摘したように、IT業界が知識産業だということを考えると、戦略も先見性もない雑な人事に日本のIT凋落の根源があると私は考えております。

35歳定年説も45歳以上リストラも根は同じです。

個人個人の知力や能力を無視して、同じものさしを当てはめてしまうという大雑把すぎる理論なのですが、これがまかり通ってしまうのは、そもそもIT業界で重要な知能やスキルが何なのかということが、科学的な視点で議論されてないことにあるのではないでしょうか?

そもそも人間の知性には結晶性知能(crystallized intelligence)と流動性知能(fluid intelligence)があります。

結晶性知能は、個人が長年にわたる経験、教育や学習などから獲得していく知能で、高齢になるほど高まる知性です。

年をとると記憶力は衰えるが、語彙や推論能力は高まるので、システム構築や運用、インシデント対応、プロジェクト管理などは、年齢が高い方が、様々な事柄を関連付けて推論することが上手なので有利なことがあります。

高齢期における知能の加齢変化

The rise and fall of cognitive skills

例えばこれは、実際に私がいた現場で起きたことです。

新しく導入した会議用のWi-Fiがなかなかつながらず、遅延やエラーだらけで実用になりそうにありません。デバイス自体は業務用の最新式で高スペック、設置手順も設定も間違っておらず、ネットワークも問題がない。

はてどうしたものかと若手で考えていた時に、サーバー運用担当の超ベテランの方が通りかかり、ぱっと状況を見て「おい、壁と角度だな。壁は素材がこれ古いコンクリだから。君らは知らないだろうけど。これとこれをこうしな」とおっしゃる。

はい、一発で解決です。

ベテランの方は壁の素材、厚み、ビルの構造、デバイスの設置位置、距離等から問題を推測し、解決策を提示してくれました。

この方、元々電気工学専攻ですが、若い頃は大学の必修で素材科学の勉強もやり、建築の勉強もかじり、サーバー周りだけではなく、様々なインフラ系プロジェクトに関わってきたので、パッとみるだけで問題がわかったわけです。

これはまさに結晶性知能の発揮ですね。Wi-Fi設置をやっていたのは20代若手ばかりで幅広い知識がない。こういう勘を働かせることができませんでした。

レガシーシステムの運用、設計書が消えてしまったスパゲティ状のシステムの解読、微妙にうまくいかない設定、芳しくないテスト結果をどうにかする方法、何がやりたいのかわからないお客さんから要望を聞き出して戦略図に落とす方法等ベテランの結晶性知識こそ重要な場面がIT業界にはかなりあります。

特に上流工程やPM、値段交渉など人が関わる場面では、ある程度年齢がいった方の対人能力や感情を読む力がものすごい威力を発揮します。

ITは人間の知能を扱う世界だからこそ、最も重要な「資源」である人材を、単に年齢で分類するのではなく、年令による得意不得意や成熟度、個人個人の能力で判断することが合理的だということを理解するべきでしょうね。