生体の気持ちをサイバー空間上に正確に展開してみたい
Sensor that understands the (real) feelings of living things
2021.11.17
Updated by Schrodinger on November 17, 2021, 19:00 pm JST
Sensor that understands the (real) feelings of living things
2021.11.17
Updated by Schrodinger on November 17, 2021, 19:00 pm JST
一般にバイオセンサー (biosensor) と呼ばれるものは、酵素やイオンチャネルなどの変化を電気信号に変換する装置として実用化されていますが、それが本当に「生体の気持ち」を表現しているのかと問われれば、現時点では「No」と言わざるを得ません。生体の分子構造レベルでの「言語」が解析できていないからです。センサーを(生体内に)埋め込むという話は山ほどありますが、分子構造まで踏み込んだ形で生体情報を取り込んでいるわけではないのです。
山下先生は、「デバイス表面にサイバー空間と生体互換な界面を作り、サイバー空間の電気信号を生物分子に正確に伝える、あるいはその逆(生体→サイバー空間)を実現したい」とおっしゃいます。信号変換ができる界面をナノデバイスで実現することを目指しておられるのですね。
これができるようになるためには、例えばバクテリアがどのような言語で会話しているのかを知る必要があり、かつそれをトランスデュース(transduce:形態を変換)してサイバー空間が理解可能な形にする必要があります。どうしても、先日の野原先生の講義(11月10日に実施された「翻訳技法としてのアートで物質科学と接続する」 ) との強い関連を想起せざるを得ないわけですが、実世界を充実させるために生命体サイドからサイバー空間をシミュレートする、あるいはサイバー空間の情報や能力を取り込むことで生命体が元気になる、という循環系の実現がゴールのようです。
しかし、例えば細胞に対して「頑張れ!」という信号を送りたい時に、サイバー空間サイドで何をすれば良いのかが実はよく分かっていません。ここを解明しようとするのが山下先生の研究です。平たくいえば「生物の(本当の)気持ちがわかるセンサーを作りたい」ということになるかと思いますが、仮に本当にそんなものができてしまったら、世の中が大混乱するような気もします。
山下先生は、新しい手法によるPCR検査が可能な超ポータブル・バイオ・センサーなどを既に開発されていらっしゃいます。しかしご本人は、「シュレディンガーの水曜日」で話題提供すべきは、実用化されているそのようなものではなく、一見すると荒唐無稽な話、あるいはそこで失敗を繰り返している話のほうが良いのではないか、とおっしゃいます。
というわけで、今回のシュレディンガーの水曜日では、「近い将来実現するかもしれないSFの世界」をみんなで一緒に覗いてみましょう。最近流行りのサイバーフィジカルシステム(CPS:Cyber-Physical System)で展開されている議論がとても薄っぺらなものであることを思い知る一夜になるでしょう。
ようこそシュレディンガーの水曜日 第七夜へ。
講師:山下一郎 (大阪大学大学院工学研究科 特任教授、奈良先端科学技術大学院大学客員教授)
1978年 京都大学院工学研究科修士課程を修了、同年松下電器入社。べん毛を中心とした構造生物学研究に従事したことをきっかけに、バイオ分子のナノテクノロジーを利用した「バイオナノプロセス」によるナノデバイス作製研究を開始。CREST「バイオのナノテクノロジーを用いたナノ集積プロセス」研究代表、文部科学省リーディングプロジェクト「ナノテクノロジーを活用した新しい原理のデバイス開発」リーダーなどを歴任し、現在に至る。専門分野は、バイオナノプロセス、生体超分子、バイオミネラリゼーション、ナノデバイス、マイクロチャネルセンサ、ポータブルバイオセンサーなど。詳細はこちらをご参照ください。
・日程:2021年11月24日(水曜)19:30-21:00(予定):19時半からゆるゆると開講します。
・Zoomを利用したオンラインイベント:前日までに参加URLをメールでお送りします
・お申し込み:こちらのPeatixのページからお申し込みください。
「シュレディンガーの水曜日」は、毎週水曜日19時半に開講するサイエンスカフェです。毎週、国内最高レベルの研究者に最先端の知見をご披露いただきます。下記の4人のレギュラーコメンテータが運営しています。
原正彦(メインコメンテータ、MC):東京工業大学・物質理工学院・応用化学系 教授
1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、1983年修士修了、1988年工学博士。1981年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。1985年4月から理化学研究所の高分子化学研究室・研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能(後に揺律機能)などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。現在は東京工業大学教授、地球生命研究所(ELSI)化学進化ラボユニット兼務、理研客員研究員、国連大学客員教授を務める。
今泉洋(レギュラーコメンテータ):武蔵野美術大学・名誉教授
武蔵野美術大学建築学科卒業後、建築の道を歩まず、雑誌や放送などのメディアビジネスに携わり、'80年代に米国でパーソナルコンピュータとネットワークの黎明期を体験。帰国後、出版社でネットワークサービスの運営などをてがけ、'99年に武蔵野美術大学デザイン情報学科創設とともに教授として着任。現在も新たな表現や創造的コラボレーションを可能にする学習の「場」実現に向け活動中。
増井俊之(レギュラーコメンテータ):慶應義塾大学環境情報学部教授
東京大学大学院を修了後、富士通、シャープ、ソニーコンピュータサイエンス研究所、産業技術総合研究所、米Appleにて研究職を歴任。2009年より現職。『POBox』や、簡単にスクリーンショットをアップできる『Gyazo』の開発者としても知られる、日本のユーザインターフェース研究の第一人者だがIT業界ではむしろ「気さくな発明おじさん」として有名。近著に『スマホに満足してますか?(ユーザインタフェースの心理学)(光文社新書)など。
竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人
日経BP社でのインターネット事業開発の経験を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。2010年にWirelessWireNewsを創刊。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997〜2003年)、独立行政法人情報処理推進機構・AI社会実装推進委員(2017年)、編著に『ネットコミュニティビジネス入門』(日経BP社)、『モビリティと人の未来 自動運転は人を幸せにするか』(平凡社)、近著に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス/ミシマ社)、など。
おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)
登録はこちらオンラインイベント「シュレディンガーの水曜日」の運営事務局です。東京工業大学・物質理工学院・原正彦研究室の協力の下、WirelessWireNewsが主催するオンライン・サイエンスカフェです。常識を超えた不思議な現象に溢れた物質科学(material science)を中心に、日本の研究開発力の凄まじさと面白さを知っていただくのが目的です。