メタマテリアル(超越した物質)は教科書をも超越する
Metamaterials transcend textbooks
2021.12.01
Updated by Schrodinger on December 1, 2021, 19:00 pm JST
Metamaterials transcend textbooks
2021.12.01
Updated by Schrodinger on December 1, 2021, 19:00 pm JST
物質の電磁気学的な特性は物質が決まれば自動的に決まる、というのが「教科書的な正解」でした。この物質固有と考えられてきた誘電率や透磁率をナノ構造体を用いることで人工的に制御すると、全く新しい光機能性材料とフォトニクスにおけるブレークスルー技術が創出されます。これは屈折率がゼロ、あるいは負、もしくは何百万といった巨大屈折率物質などの「あり得ない」物質を人工的に作り出すことを意味しており、「メタマテリアル(超越した物質)」と総称されています。
メタマテリアルは、光の波長より細かく作るので、(当たり前ですが)光では観察できません。実際、光(=電磁波)が物質に吸収されると屈折しますが、光学現象は電波が作用する現象しか見ていません。「磁場は無視して良い」が教科書的な答えです。しかし、とてつもなく小さなコイルが作れれば、光でも磁場をハンドリングできます。光の波長よりも短いものを人工的に作る、というところにナノテクノロジーが貢献したのです。
とても面倒な技術に聞こえますが、原理的には「(海の)波を打ち消すためのテトラポットは、波の大きさに比べ十分に小さいので、テトラポットは波に対するナノマテリアルとして機能している」のだそうです。なんだか言いくるめられているような気がしないでもないですが、メタマテリアルはそれを極端に小さくしただけ、と言えるのかもしれません。
この原理を応用すると、最終的にはパーフェクトレンズ(Perfect Lens)、すなわち負の屈折率を持つメタマテリアルで構成されたレンズが作れます。これは論理的には解像度が無限になります(実際には距離に応じた損失が発生するので、この損失をいかに小さくできるかに世界各国の研究者が鎬を削っているようです)。波長の限界を超えれば、自由自在に三次元が観察できるようになります。DNAでネックレスを作ることもできるようになるのだとか。
メタマテリアルで光の限界をブレイクしようと考え始めると、大学生向けの教科書は「ウソが多いことに気付かされる」と田中さんはおっしゃいます。最先端科学は、教科書に書いてあることが真実とは限らない、という世界に突入しています。これからの研究者は教科書(=常識)を疑う癖を付けた方が良さそうです。今回の「シュレディンガーの水曜日 第九夜」は、疑うためのクセの付け方と、メタマテリアルで何ができるの? という二つの話題をご提供いただく夜とさせていただきましょう。
講師:田中拓男(たなか・たくお)国立研究開発法人 理化学研究所・主任研究員
1968年生まれ。大阪大学工学部応用物理学科卒業。1996年同大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)取得。大阪大学基礎工学部助手、理化学研究所研究員,
准主任研究員を経て現職。東京工業大学物質理工学院(特任教授)、北海道大学電子科学研究所(客員教授)、埼玉大学大学院理工学研究科(連携教授)などを併任。研究テーマは、光メタマテリアル、プラズモニクス、ナノフォトニクス、光応用計測など。
・日程:2021年12月8日(水曜)19:30-21:30(予定):19時半からゆるゆると開講します。
・Zoomを利用したオンラインイベント:前日までに参加URLをメールでお送りします
・お申し込み:こちらのPeatixのページからお申し込みください。
「シュレディンガーの水曜日」は、毎週水曜日19時半に開講するサイエンスカフェです。毎週、国内最高レベルの研究者に最先端の知見をご披露いただきます。下記の4人のレギュラーコメンテータが運営しています。
原正彦(メインコメンテータ、MC):東京工業大学・物質理工学院・応用化学系 教授
1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、1983年修士修了、1988年工学博士。1981年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。1985年4月から理化学研究所の高分子化学研究室・研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能(後に揺律機能)などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。現在は東京工業大学教授、地球生命研究所(ELSI)化学進化ラボユニット兼務、理研客員研究員、国連大学客員教授を務める。
今泉洋(レギュラーコメンテータ):武蔵野美術大学・名誉教授
武蔵野美術大学建築学科卒業後、建築の道を歩まず、雑誌や放送などのメディアビジネスに携わり、'80年代に米国でパーソナルコンピュータとネットワークの黎明期を体験。帰国後、出版社でネットワークサービスの運営などをてがけ、'99年に武蔵野美術大学デザイン情報学科創設とともに教授として着任。現在も新たな表現や創造的コラボレーションを可能にする学習の「場」実現に向け活動中。
増井俊之(レギュラーコメンテータ):慶應義塾大学環境情報学部教授
東京大学大学院を修了後、富士通、シャープ、ソニーコンピュータサイエンス研究所、産業技術総合研究所、米Appleにて研究職を歴任。2009年より現職。『POBox』や、簡単にスクリーンショットをアップできる『Gyazo』の開発者としても知られる、日本のユーザインターフェース研究の第一人者だがIT業界ではむしろ「気さくな発明おじさん」として有名。近著に『スマホに満足してますか?(ユーザインタフェースの心理学)(光文社新書)など。
竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人
日経BP社でのインターネット事業開発の経験を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。2010年にWirelessWireNewsを創刊。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997〜2003年)、独立行政法人情報処理推進機構・AI社会実装推進委員(2017年)、編著に『ネットコミュニティビジネス入門』(日経BP社)、『モビリティと人の未来 自動運転は人を幸せにするか』(平凡社)、近著に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス/ミシマ社)、など。
おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)
登録はこちらオンラインイベント「シュレディンガーの水曜日」の運営事務局です。東京工業大学・物質理工学院・原正彦研究室の協力の下、WirelessWireNewsが主催するオンライン・サイエンスカフェです。常識を超えた不思議な現象に溢れた物質科学(material science)を中心に、日本の研究開発力の凄まじさと面白さを知っていただくのが目的です。