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DXと物理的セキュリティの意識

DX and physical security

2021.12.22

Updated by Mayumi Tanimoto on December 22, 2021, 07:00 am JST

大阪のメンタルクリニックで大勢の患者さんが放火により犠牲になる、という痛ましい事件がありました。

このところ日本では、物騒な事件が続いていますが、ビジネスとテクノロジーについて考える際に、「物理的セキュリティ」の必要性からDXを進めるという観点が日本にはあまりないように思います。

欧州は日本よりはるかに治安が悪く、人口当たりの犯罪数も日本とは比較にならないほど多いので、 日本に比べますと普段から物理的なセキュリティというものに非常に敏感です。これは、私が12月8日に出版した「世界のニュースを日本人は何も知らない3」(ワニブックスplus新書)という本にも詳細を書きました。日本との違いに驚かれる方が多いと思います。

欧州では一般の人でも、道を歩く際には周りに目を配っています。また意外なことなんですが、欧州の女性はファッショナブルな格好よりも実用性がある服や靴を着用することが多いのです。街中でそれだけリスクが高いということを意識しているからです。

事件が起きたりスリに襲われたりした際には、踵が高い靴では走って逃げられませんから、 外出する際はスニーカーだったり底が平らな靴がを履く人が多く、ヒールの人はさほど多くありません。ブーツの底が厚くて注射針を踏んでも大丈夫なようなものを履いている人もかなりいます。それだけ麻薬中毒の人が多いからです。

日本に比べるとスカートの人が非常に少なく、特にロングスカートの人はほとんどいません。ロングスカートは足に引っ掛かっていざという時に走って逃げられません。

一般の人でもこのような感覚ですから、ビジネスも物理的なセキュリティというものに非常に気を遣っています。オフィスに入る場合に身分確認をきちっとすることも少なくありませんし、日本に比べると監視カメラだらけのところが少なからずあります。

また、不特定多数の人が来るようなビジネスの場合は、従業員と来訪者が接触する機会を極力減らして、オンラインやリモートで業務を処理できるようになっています。例えばイギリスの場合、市役所の窓口というものがほぼありません。ほとんどの手続きや作業は、郵送やオンラインで処理できるようになっています。相談がある場合は電話での受付のみ、ということが多いのです。運転免許の申請や更新も郵送。確定申告はほぼ100%オンラインで完了します。対面で相談に乗ってくれる税務申告の窓口はありません。

なぜこんな風になっているかというと、遠隔地のリモートオフィスや外注先に作業を発注すればコストを下げられるというのもありますし、不特定多数の人が来る業務では従業員が危害を加えられたり刺されたりするという可能性があるからです。物理的セキュリティを確保するためなのです。

例えば市役所の場合は、生活保護や住宅手当を申請して却下された人が逆恨みする場合もあります。運転免許や税務申告の場合も同じです。入国管理局も申請のほとんどが郵送でありますが、対面での処理を希望の場合は、30万円を超える高額な手数料を取られ、空港並みのセキュリティを通過しなければ待合室に到達できません。

このように厳重になっている理由は、イギリスは過去にIRA(Irish Republican Army)のテロで政府の様々な建物が爆破された経験があるからです。だから、デジタル時代になってDXが真っ先に進んだのです。リスクの高い仕事は従業員の確保が大変ですから、デジタル化で安全な環境が確保できれば、それだけ優秀な人に来てもらえます。DXは要員管理という面での課題への答えでもあるわけです。

日本でも、DXを進めるに当たっては、これまでに起こったテロや凄惨な事件を教訓として、働く人の安全を確保するために業務のデジタル化を進めてほしいものです。コロナ禍ですから、感染症対策としてもDXは進めなければなりません。日本の行政や会社には、働く人の安全を守るという視点が欠けています。

「本当のDX」を考えるウェブメディア『Modern Times』創刊「本当のDX」を考えるウェブメディア『Modern Times

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。