写真:Anya Newrcha/shutterstock
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技術面から考えても無理のあった、地球観測データの商業化
前回 書いた通りアメリカは1980年代、地球観測衛星「ランドサット」シリーズの商業化にあたって「ランドサット4/5」から新たに搭載されたセンサー「画像用放射計(Thematic Mapper、TM)」の解像度30mに合わせ、「商業販売できる地球観測データの解像度は30mまで」という政策を打ち出した。これは、それ以上の高解像度データは偵察衛星の領域に入るので、一般向けに販売した場合に外国政府に利用される可能性があると考えたからだった。
が、実際には民間のニーズはより高い解像度のデータにあり、ランドサットの商業化は迷走を繰り返した。さらにもうひとつ、ランドサットの商業化が進まなかった理由がある。当時のコンピューターの演算速度では、地球観測データを満足な速度で処理するためには莫大な投資が必要だったのだ。
一例としてランドサットTMのデータを考えてみよう。TMは7つの波長で地表を185km幅でスキャンしていく。30m解像度で一列6160画素だ。一方、光の強さは各波長ごとに256段階、すなわち8ビットで記録される。ここで、可視光域の波長データ3つを使って、185km×185kmの正方形の土地のデータを処理してカラー画像を生成するとしよう。するとデータのサイズは、6160×6160×8×3で、約9億1070万ビット。おおよそ100Mバイトとなる。
「なんだ、大したことない」と感じるのは、我々が2022年に生きているからだ。ランドサット4は1982年7月に打ち上げられたが、その3ヶ月後、日本電気は最新の16ビットパソコン「PC-9801」を発売した。インテルの16ビットCPU「8086」互換の「NEC μPD8086」を採用し、主記憶は128Kバイトで、640Kバイトまで拡張可能。外部記憶装置の5インチ・フロッピーディスクドライブ装置(容量320Kバイト)はオプションで価格29万8000円(消費税はまだない)である。とてもではないが、100Mバイトの画像データを処理できる仕様ではない。
当時は地球観測衛星のデータを処理するには、可能な限り演算速度の速い、強力かつ高価な大型コンピューターに、思いきりメモリを載せ、しかも財布が許す限り大容量のストレージを接続することが必須だった。データの保存は磁気記録テープで行われた。もちろんデータの交換もネットワーク経由ですぐに、というわけにはいかない。物理的にテープを送付することで行う。地球観測データでビジネスをするためには、これだけの道具立てが必要だったわけだ。これで、「地球観測データを民間に売って商業化を」というのは初めから無理があった。
※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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