photo by 佐藤秀明
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気象台に緑が多い理由
仕事柄、横浜地方気象台に何度か訪れたことがある。横浜の山手地区、洋館や外国人墓地の立ち並ぶ観光エリアの中に横浜地方気象台は存在する。昭和初期のアール・デコ調の本館と安藤忠雄設計の新館は一見の価値がある。
敷地内に入ると、思いのほか緑が多いことに驚く。庭にはたくさんの観測機器が設置された芝生の露場があり、その周囲にはよく手入れされた木が植えられているのだ。そして、見上げれば解放感いっぱいの広い青空。かつてはここで職員が空を目で見て観測を行っていた。素敵な建築と自然豊かな庭を見ると、心が洗われる。横浜地方気象台は、無料で見学できる山手散歩の穴場スポットなのである(ただし、現在はコロナ禍ということもあり、一般公開は中止されている)。
なぜ、地方気象台にはやたらと緑が多いのか。それは、生物季節観測を行っているからだ。気象庁で観測するのは気温や降水量だけではない。さくらやあじさい開花、いちょうやかえでの紅葉など、生き物がその年初めてどうなったのか、何をしたかも記録しているのである。それは、植物の開花や紅葉が、気温や降水量などと密接に関わっているからだ。
ただ、生物季節観測を行ってはいるものの、気象庁は今は桜の開花予想を行っていない。予想を出すのは、民間気象会社だ。各社の予想には、桜の開花が予想される日が線で結ばれている。これが桜前線である。
計算式で割り出せる開花日
なぜ、気象会社が開花を予想できるのか。それは、桜が開花するメカニズムがそれなりに明らかになっているからだ。桜の花は、前年の夏には花芽が形成される。そして、晩秋から初冬あたりで花芽は成長を止めて休眠に入る。真冬になるとその寒さで花芽の休眠が打破され、その後気温が上昇するのに従って花芽は再び成長するのだ。こうして気温の積算の値が一定値を超えるといよいよ開花だ。
このように開花には冬の寒さと春先の暖かさが重要なファクターとなる。「今年は暖冬だから桜は早く咲くかな?」と思っても、真冬の休眠打破がうまくいかないと、開花が意外と遅くなるうえ、だらだらと少しずつ咲き始めて、満開にならないうちに葉が出てしまうこともあるのだ。ソメイヨシノなのに葉桜だなんて、興ざめである。
桜の開花にはざっくりとした法則があり、2月1日からの日々の平均気温を足して、400℃を超えると桜が開花するという「400℃の法則」や、2月1日からの日々の最高気温を足して600℃になる頃に桜が開花するという「600℃の法則」がある。ただし、民間気象会社は各社で独自に開発した数式を使って、もっと精度の高い開花の予想を行っている。
桜の開花予想に使われるソメイヨシノという品種は、種からではなく、挿し木や接ぎ木で増やすため、全国のソメイヨシノは同じ遺伝子を持つクローンである。だから、計算式で開花日が割り出しやすいのだ。
※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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