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研究の毛細血管を干上がらせる「選択と集中」への熱狂

2023.04.20

Updated by WirelessWire News編集部 on April 20, 2023, 07:07 am JST

交流空間の喪失はコロナ禍の重篤な副作用

近年のコロナ禍の副作用として、大学教育における授業形態その他が大きく変化したのはいうまでもない。現在、数回に及ぶ流行の波のために、人が密集しやすい教育現場ではオンライン授業が導入されており、対面授業の制限が緩和された現在でも、特に必要がない限り、オンラインを続行すると宣言する教官も少なくないようだ。もともと人づきあいがいいとはいえない研究者という特殊人種にとって、オンライン技術は、めんどうくさい対面活動を忌避するための絶好の口実になっているという側面もある。

しかし正直言って、特に学生側にとってその副作用は甚大である。人が特定空間を共有することは、そこに思わぬ交流が生まれることも意味する。特に少人数の授業では、ちょっとした質問や雑談は授業後に行われることが多い。対面形式では、教官と学生、あるいは学生同士が三々五々集まってしゃべる空間が自然発生するが、オンラインでは、会議が終わればみな退出してそれで終わってしまう。

しかし、教育や研究は、単に必要な情報を伝達して終わり、というものではないだろう。こうした交流空間の喪失による損失は思いのほか大きい、というのが私の偽らざる印象である。

研究者が他の研究者のもとにふらっと立ち寄って、気楽な雑談をしているうちに、面白いアイデアが浮かんだ、という経験をした研究者も少なくないはずだ。『仏教の正統と異端 パーリ・コスモポリスの成立』は、上座仏教の歴史を仏典の言語面(サンスクリット語、パーリ語等)から分析した興味深い著作であるが、そのあとがきで、自分の研究室にふらっと立ち寄る同僚との会話が、この研究のアイデアに大きく貢献したと記されていた。現在、禁煙がうるさく言われるので、喫煙者は小さな喫煙用ブースに押し込まれる場合も多いが、そこでの気楽な雑談が、重要な情報交換の場になっているという話も聞いたことがある。

食堂で交わした会話は30年後もよく覚えている

歴史的にみれば、こうしたちょっとした交流の場というのはあらゆるところに姿を現す。西洋史においては、ロンドンのコーヒー・ハウスで市民が様々な情報を交換したというのは有名な話である。これが「公共性」という概念そのものを生んだという議論すらある。

またフランス文化のファンは、パリのカフェにおける様々な文化的、知的交流の様子を多くの歴史研究書を通じてよく知っているだろう。気が向いたらぶらっと立ち寄ると、そこに誰か知りあいがいて、といういわば安定した開放性が重要なのである。

京都出身の友人は、東京と違って京都は狭いので、終電を気にせずゆっくり交流できるという点をよく自慢していたが、最近サードプレイスという、ちょっとした息抜きの空間の重要性が、都市研究等で強調されるのも、こうした交流の条件についての別の表現ともいえる。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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