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人が社会的な生き物だなんておこがましい。アリが生きる世界はより高度に社会的である

2023.05.09

Updated by WirelessWire News編集部 on May 9, 2023, 06:20 am JST

すでにブロックチェーン型社会を生きているアリ

アリの社会には人間社会の未来を考えるためのヒントがたくさん詰まっている。

まずは基本的なアリの社会をみてみよう。アリの社会のベースはメスによって構築されている。産卵に特化した女王アリは、長いものでは20年も生き、基本的には巣の中の構成員全てを生み出す。

一方で働きアリは労働を司り、女王アリが産んだ卵をとりあげ、幼虫になったら食事や体の掃除、寝かしつけ(のように見える行動)、育ってきたら適宜部屋を移動させるなど、ありとあらゆる子育てを担当する。また、巣の中の掃除、増改築、防衛、食料調達、などなど日常生活に必要な労働の全てを担当する。まさに働くアリだ。この働きアリも、実はすべてメスである。オスは何をしているのか? これはいずれ紹介する。

皆さんの中には、アリの社会が女王アリによって完全にコントロールされたトップダウン型組織の究極型と考える方もいるかもしれない。しかしながら、それは間違っている。アリの社会における意思決定のほとんどは働きアリが行う。最大数百万個体が個別に自由に情報を取り入れながらそれに反応し、その反応が蓄積することで最適化が起こる。まさにブロックチェーン型社会の究極型といえる。女王アリはその中で単に産卵に特化した個体に過ぎないのだ。

人間よりもはるかに「多様性」のあるアリ社会

例えば、卵の運命を左右するのも働きアリで、女王アリではない。女王アリが産んだ卵は、その時点で女王アリになるのか、兵隊アリになるのか、普通の働きアリになるのか、その運命は決まっていない。幼虫の段階で、お姉さんである働きアリから配分される食料の量によって決まる。つまり、働きアリが多めに食料を与えれば女王アリになり、それよりちょっと少なめに与えれば兵隊アリに、そしてあまり与えなければ働きアリになる。平均的に、女王アリと普通の働きアリのサイズは重量比で約0.1%-70%となり、働きアリはそれだけ軽い負担で増殖できるが、女王アリや兵隊アリにするにはそれなりの投資をしないといけない。

0.1%のサイズ比は、流石におかしくないか? と思われた読者もいることだろう。僕が研究しているハキリアリの女王アリと一番小さな働きアリを比較すると、女王アリの体重は約450mgなのに対し、小さな働きアリの体重はなんと0.45mg! 約1000倍もの違いがあるのだ。ここはぜひ驚いてほしい。お母さんと子どもの体重差が1000倍ですよ! 人間社会では考えられない。

実をいうと、「多様性」というのはこういう状態も指すのだ。どうしても人間の想像力には限界があり、「多様性」という単語の持つ意味をせいぜい肌の色や考え方、ハンディキャップ、ジェンダーの違いくらいにしか認識していないのだが、本質的にはありとあらゆる環境の変動に対応できるような特徴をきちんと残していることを「多様性」として尊重しよう、それこそが我々が取りうる最善の手段ではないのか、ということである。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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