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勤務時間外に「つながらない権利」

Right to disconnect

2023.06.30

Updated by Mayumi Tanimoto on June 30, 2023, 12:00 pm JST

コロナ禍以後、リモートワークが導入された組織が増えましたが、その一方で、仕事と私生活の境目が曖昧になり、むしろ超過労働になってしまっている、と訴える人が少なくありません。

イギリスの現行法では、労働者にはリモートワークを含めた「柔軟な労働時間」の法的な権利はありません。同じ雇用主で働いてから26週間後にリモートワークを要求する権利があるだけです。

政府は2021年9月から、雇用初日から全ての労働者に対して「柔軟な労働時間」の要求を可能にする法案を提案しています。

この流れで、イギリスの労働組合会議(TUC)などの労働組合は、もっと過激な提案をしており、「柔軟な労働時間」は、最初から提供されるべきで従業員がリクエストする必要はない、労働時間外である休暇中や自宅在宅中、休み時間などはメールの返信などをしなくて良いという「つながらない権利」(Right to disconnect)を持つべきだと提案しています。

つまりこれは、労働を柔軟にする一方で、労働と私生活をきちんと分けましょう、という提案です。この件で世界の最先端を行っているのがベルギーです。

2022年2月には「つながらない権利」の法律が可決され、公務員が業務外の時間に受け取ったメールやテキスト、電話に対応しなくても良いということになりました。対応しなくても罰則はありません。ただし災害や紛争などの非常事態の場合には連絡が許可されていますし、対応が必要になることもあります。

これは民間企業にも拡大され、現在従業員20人以上の企業は、「つながらない権利」を議論して従業員と会社で交渉する「一般的なフレームワーク(枠組み)」がなければなりません。

例えば、雇用主は「つながらない権利」を実施するための手続きを定め、従業員の私生活を尊重するためのデジタルツールの使用に関するガイドラインを作成し、研修や意識向上を実施する、となっています。

これらは「一般的な枠組みを導入する」だけであるため、手続きやガイドラインの詳細、どんなことを実施するかに関しては、企業の裁量が大きくなっているので、公務員向けほど厳しくはありません。明確さには欠けますが、企業に枠組みを用意せよとした点ではかなり先進的でしょう。

一方でちょっと意外ですが、アフリカではケニアが「つながらない権利」で先を行っています。従業員数が10人以上の企業は、「つながらない権利」について従業員や労働組合と協議する必要があり、勤務時間外や休日のメールや電話対応について交渉することになっています。規則に違反した場合、企業は4,000ドルの罰金が科されることになります。

日本の場合はまだ「つながらない権利」の議論が全く盛り上がっていませんが、日本はジョブ型雇用が徹底していない上に、勤務時間に関してはかなり曖昧で、休日や時間外対応は当たり前という組織も多数存在しますが、子育てや介護と並行して働く家庭も多く、また労働力不足の職場も増えているため、労働環境の改善は重要課題です。

「つながらない権利」は、労働力のリテンション(維持)戦略として重要な課題と考えるべきです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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