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NFTアートで儲けたければ、投資は人にするべき理由

2024.01.23

Updated by WirelessWire News編集部 on January 23, 2024, 07:32 am JST


つつましいコレクションが大注目を集めたヴォーゲル夫妻

今から10年以上も前の話だが、現代アートのコレクターとして知られる或る老夫婦に密着した「ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人」というドキュメンタリー映画が公開され、ちょっとした話題になった。ほんのさわりだけ紹介しておこう。

郵便局員のハーブと図書館司書のドロシーのヴォーゲル夫妻は、ニューヨークの片隅でつつましく暮らしているが、この老夫婦には現代アートのコレクションという共通の趣味がある。作品購入に当たって夫婦で儲けたルールは、

1.自分たちの給料で買えることと
2.自宅マンションの中に収まること

の二つ。当然、そのコレクションもつつましいものだったが、1975年に初めてのコレクション展を開催したのを機に、その質の高いコレクションは徐々に注目を集めるようになっていく。ある日のこと、作品を売ってくれという各所からの申し出を断り続けてきたヴォーゲル夫妻の下に、コレクションの寄贈を呼び掛けるナショナル・ギャラリーからのオファーが届き、夫妻はこれに応じることにする。

この映画を見た多くの人は、アートコレクターに対する見方が大きく変わったに違いない。アートコレクターといえば、豊富な財力にものを言わせて多くのアート作品を蒐集していた王侯貴族をルーツとする存在である。その本質は現在でも変わりなく、個人の趣味や道楽で、もしくは将来的な値上がりを見越した投機的な目的で、高額なアート作品に触手を伸ばすセレブ、という印象が強い。

実際、ロマン・アブラモビッチ、ヘレン&ベルナール・アルノー、フランソワ・ピノー、ジェフ・ベゾス、パトリシア・フェルプス・デ・シスネロス&グスタボ・A・シスネロスといった著名な世界的コレクターはいずれも大富豪ばかりである。

それに対して、この映画の主役であるヴォーゲル夫妻は、高額な作品を購入する資金も、大型の作品を保管できる倉庫も持たない、ごく普通の公務員である。当然、購入できる作品は手頃な価格の小品に限られていたが、長い時間をかけて集められたコレクションは、資産価値の面からも高く評価されるようになった。これは一体どういうことなのだろうか?


少ない元手で大きな財産を築くことができる現代アート

ここで大きなポイントとして挙げられるのが、ヴォーゲル夫妻のコレクションの対象が現代アートであったことだろう。映画の中でも説明されているが、現代アートは不安定な「生モノ」である。作品の評価が定まるまでに長い時間がかかるため、ちょっとしたきっかけで作品の価値が急騰したり、逆に暴落したりといった事態が常に起こり得る。

評価の定まった近代以前のアートでは、そんなことはまず起こらないし、そもそも作品が高額なので一般のサラリーマンにはとても購入できない。若くてキャリアの乏しい作家の作品は総じて安価で、一般のサラリーマンにも十分に購入可能なため、作家の将来性を見抜くことができれば、結果的に少ない元手で大きな財産を築くことができる。

ヴォーゲル夫妻のコレクションも、まさしくこういう性格を備えていたわけだ。もっとも、作品の売却を断り続けていたことからもわかる通り、当のヴォーゲル夫妻に投資という意識は皆無で、愛着のある作品を手元に置いておきたかっただけのようだが。

良質なコレクションを形成するにあたっては、コレクターの眼が何より重要である。夫のハーブは自らも抽象画を描いていたことがあり、また若い頃に図書館で多くの美術書を読破して独学し、遅れて進学したニューヨーク大学でも、西洋美術だけではなく中国や日本の美術についても学んだ経験があるという。このような経験も、彼の作品を見る眼を培ったのだろう。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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