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人口問題から考える、世界的大キャンペーンの危うさ

2024.06.25

Updated by WirelessWire News編集部 on June 25, 2024, 11:50 am JST

温暖化問題や多様性の包括など、世界的に展開される大キャンペーンは、長い目で見てみると危うさをはらんでいることがある。今「絶対に正しい」と思われていることが、そうではない可能性があるということだ。過去に展開された世界的大キャンペーンの例をみてみよう。

人口問題は本当か?

近年、日本社会の将来をめぐる話として、老齢化と人口減少という話を聞かない日は少ない。実際、話は本邦でのあまり芳しくない未来に止まらず、西洋諸国や、東アジアの近隣諸国でも事態は深刻だという。他方、今後活躍が期待される諸国は逆に、その経済の成長が人口の増大傾向と密接に係わるという話らしい。

こうした話を聞くたびに、その論調に対しある種の感慨(そこには疑問の念もある)を覚えるのは、4半世紀以上前に経験したアジアの村落での体験があるからである。

80年代半ば、インドネシア・ジャワの農村で2年間ほどフィールド調査を行ったが、その時期のインドネシアには、現在見るような経済的な活気や、世界の舞台で活動する、Ruangrupaのようなアーティスト集団といった話はまだその姿を現していなかった。戦後、スカルノ体制末期の政治的混乱を収めるという大義名分によって、いわゆる「新体制」(Orde Baru)がスハルトによって築かれた時期である。スカルノ時代の放埒な政治活動とその悲惨な結末への反省からか、政治活動は大きく制限され、国の方針も経済を含めた「開発」(pembagunan)に大きく重点が置かれていた。

政策に批判的な導師も「家族計画」を語った

実際、ジャワ島ですら村落レベルでは電気がまだ通っておらず、室内の明かりは、いわゆる空気圧縮型のランタンか、あるいは大河ドラマに出てきそうな灯油を使っている家もあった。後者だと室内がまるで西洋絵画のド・ラ・トゥール(G.de La Tour、 科学論ではない)の絵のような、闇と光の対比が鮮烈という印象になることもあった。大河ドラマでの夜のシーンがすべて明るすぎるのは、製作者にこうした闇の経験がないからかもしれない。滞在していた家は、村では富裕な層に属しており、街にバッテリーを運んで充電し、そこにテレビをつないでいた。ただし、当時の番組はインドネシア国営放送(TVRI)一択で、しかも村ではテレビを持つ家そのものが少なかった。

そうした村落の日常だったが、時に賑やかになることもある。筆者が寝起きしていた村落は、政治的には穏健な保守系イスラーム組織の牙城の一つで、どちらかというと歌舞音曲の類は抑制される傾向もあった。そんな中、村中にランタンが並び、ちょうど夜祭の様な雰囲気になる機会があった。その一つがコル(khol)と呼ばれたイスラーム導師による野外講和会である。講和会といっても、堅苦しい説法というよりは、面白可笑しく、子供でも楽しめるような能弁でイスラームの教えを語るという感じの内容であった。近隣にはこうした人気の導師が数名いて、そうした人が来るとなると住人は浮足だっていた。

他方、彼らが所属する組織は当時公的に作られた野党の一つに属しており、基本的にはスハルト体制に批判的な意見を持つものも少なくなかった。そうした政府批判をやれば村民には受けただろうが、政府側も反政府的発言がないか、常にモニターしていたという。中には過激な導師もいて、警察沙汰になりかけたという話を聞いたこともある。とはいえ、政府の政策に協力する話も盛り込むのがこうした講話会の常であった。その代表例が、いわゆるKB(インドネシア語でいうとカーベー)、つまり「家族計画」(Keluarga Berencana)の話である。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の前半部分です。
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