January 23, 2026
岩元 直久 Naohisa Iwamoto
WirelessWire News編集長。日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。ITジャーナリスト、フリーランスライターとしても雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。
「ワット・ビット・コネクトフォーラム」(主催、総務省・経済産業省、2026年1月13日に開催)の第1セッション「ワット・ビット連携の今後」では、通信、電力、データセンターという3つの立場から、AI時代のインフラがどこへ向かうのかが議論された。モデレーターを務めたのは東京大学大学院 情報理工学系研究科教授の江崎 浩氏。NTT 常務執行役員 技術企画部門長の海老原 孝氏、東京電力パワーグリッド 取締役副社長執行役員の岡本 浩氏、さくらインターネット 取締役の前田章博氏が登壇し、「連携」を超えた次の段階を見据えた議論が展開された。
東大の江崎氏は「ワット・ビット連携の今後について、通信、電力、データセンターの3人の専門家から話を聞く。連携はもちろん、連携の先の話をしていきたい」と問題提起した。その中で、AIブームとエネルギー消費の現状について江崎氏は、「まだAIは社会全体の10%ほどのデータしか利用していないが、それでも電力消費に大きなインパクトを与えている。さらにAI活用が進むようになるとエネルギー問題が顕在化する。一方でITは集中と分散の歴史を繰り返していて、データセンターも大規模集中型から分散へと舵を切り始めている」と、集中から分散の流れが、インフラ立地や国際競争の構図を変える「デジタル地政学」に影響を及ぼし始めていることを指摘した。

NTTの海老原氏は、通信事業者の立場から通信トラフィックの増加と消費電力について語った。「AIの利用が、検索型からAIエージェントによるリアルタイム処理へと進化する中で、1カ所のデータセンター内だけでなく、分散環境で連携して動かすためには大容量で低遅延の通信が必要。そこではNTTが提唱するIOWNのAPN(オールフォトニクスネットワーク)が有効になる」(海老原氏)。APNは通信のすべてを光技術で実現する方式で、伝送容量を125倍、エンド・ツー・エンド遅延を200分の1にしながら電力消費を100分の1に抑えることを目指す。APNにより通信の電力消費を激減させると同時に、「実証では、GPUのサーバーを分散配置して低遅延のAPNでそれらを結ぶことで、サーバーが1カ所にあるときと遜色なく動いた。電力がたくさんあるところでビットの処理をするワークロードシフトに貢献できる」(海老原氏)と通信の新技術とワット・ビット連携の関係を語った。
「ワット・ビット連携」という言葉の生みの親と紹介があったのは東京電力の岡本氏。エネルギー側からの課題とワット・ビット連携による取り組みのステップを語った。「ワットは電力の単位であると同時に熱の流れも示す。いずれの観点からもコンピューティング基盤は分散したほうがいい」(岡本氏)。現在の東京電力管内のデータセンター託送申し込みは1200万kWを超える。一方で発電のポテンシャルゾーンは太陽光発電が盛んな北関東にあり、データセンターの電力需要とズレが生じている。季節的にも、電力の需要と供給にはズレがある。岡本氏は、「空間的、時間的に電力の生産と消費のズレを、ワット・ビット連携によって埋めていく必要がある」と語る。さらに電力とデジタルインフラについて、「通信が神経なら、電力は血管で、密接に関わり合っている。また、熱を使うことで長時間のエネルギーの保存ができる。半導体で消費したエネルギーは熱に変わるので、冷やすことを考えるのではなく地域で使える熱源として考える発想の転換も必要」(岡本氏)とデータセンターの分散配置の新しい価値を説いた。

データセンター事業者の立場から登壇した前田氏は、さくらインターネットの実践を紹介した。GPUクラウドの急拡大に伴い、電力消費は指数関数的に増える。「日本でAIとクラウドを社会基盤として発展させるには、データセンター、AI、クラウドの3つを一体で考えなければならない。通信インフラと電力網のどちらに投資するかと考えたときに、通信インフラのほうが距離あたりの投資効果が高い。ワット・ビット連携でワークロードをシフトする考えは腹落ちする概念だ」(前田氏)。実際にさくらインターネットでは北海道・石狩にデータセンターを開設して、冷涼な気候と再生可能エネルギーを生かした運用を進めてきた。さらに前田氏は、電力の地産地消や排熱利用、水冷のコンテナ型データセンターといった新たな取り組みを紹介しながら、「AI時代をキャッチアップしてデータセンター投資をしていく。コンピューターの分散と集中を通信網で有機的につないだ2030年以降のサステナブルなデータセンターの形を模索していく」と語った。
3方面からの話題提供を受け、江崎氏は「電脳の連携ではなく、融合が求められる。どうすればきちんと融合できるかが課題」と方向性をまとめた。海老原氏は、「それぞれのプレーヤーが真面目に実装していかないと絵に描いた餅になってしまう。海底ケーブルやグローバルのデータセンターの融合をどういう形にしていくのかは、知恵がいると思う」と指摘した。岡本氏は、「ワットよりビットのほうが動かしやすいが、それよりもデータのあるところに演算器を近づけたほうがいい。ビットすらもその場で処理したほうがエネルギー消費が少なく効率がいい。アーキテクチャそのものを考えるときに来ているのでは」と発想の転換を求めた。前田氏は、「北海道では今日も雪が降っている。データセンターの排熱を利用してロードヒーティングに使うようなエネルギーの使い方もある。熱やエネルギーをふんだんに使う米国流に対して、データセンターの省エネ化に日本チームが取り組むことは意義がある」と語る。
江崎氏は、「アメ車対日本車のように、APACを中心にした勝ち方はあるだろう。現在のアーキテクチャの次世代について皆さんが考えていることで、ワット・ビット連携の今後の姿が見えてきた」と、セッションを締めくくった。
