サムスン(Samsung)は、この何年かの間に「Symbian」「Windows Mobile」「Windows Phone」「LiMo」「Android」「PalmOS」「OPhone」など、さまざまなOSを搭載する携帯電話機を販売してきた。同社が利用できたOSで、端末がリリースされなかったものはほぼ皆無といってもいいくらいだ。
そして現在同社は、私の知る限り、Android、Windows Phone、それに自社開発のBada OSを採用したスマートフォンを販売している。OSプラットフォームの排他性に対するこのサムスンのゆるい姿勢は、ほぼすべての競合他社のそれと見事な対照をなしている。これらの競合他社では、自社の独自プラットフォームの促進もしくは開発コストの最小化を理由に、1つもしくは2つのスマートフォン用プラットフォームを採用している。
何年か前にサムスンは、自社にとってこうしたマルチ・プラットフォーム戦略が正しい理由として、世界のいろいろな地域ごとに人気のあるプラットフォームは異なる、そのためどの市場からも閉め出されたくない同社としては、プラットフォームの違いに左右されないことが最良の方針だと感じると説明していたことがあった。
(モバイル端末用)プラットフォームは普遍的(ユニバーサル)なものではなく、各地域の嗜好性の結果というこの考えは興味深い。そして、これはモバイル関連の市場で「政治力」が大いに幅をきかせていることを認めることである。だが、たとえこの戦略により端末の出荷台数がどれほど増えたにせよ、利益率や価格決定力の高まりという点では、この戦略はまだ成果をあげてはいない。それを示したのが下の図である [世界の携帯電話機メーカー大手8社、端末平均販売単価(ASP)の推移 - 2007年Q2〜2011年Q2]。
そこで思いつくのは、「マルチ・プラットフォームに対応する」というサムスンの考え方がおそらく終わりに近づいているということだ。
その兆候のひとつがサムスンの自前OS「Bada」である。昔からサムスンの動きを追ってきた人たちは、同社が自前のOSを開発すると聞いて大いに驚いたものだった。「自分の街に立派な図書館があるというのに、なぜわざわざ書籍を買ったりするのか?」。喩えて言うと、そんなふうに感じた。
サムスンの会長が、ソフトウェア分野への投資の必要性を繰り返し口にしてきていることも、マルチ・プラットフォーム戦略の終焉を知らせる兆候のひとつだろう。あのサムスンがなんとソフトウェアに力を入れるというのだ!
さらに、同社が今年の研究開発費用として総額93億ドルを投じるという声明を今日(8月30日)発表していたが、このR&D予算の一部はソフトウェア分野に振り向けられるとしていたこともそうした兆候のひとつといえるだろう。
サムスンはこの予算を使って、携帯端末や半導体、ディスプレイ、その他の電子製品といった分野の技術力強化を図ると見られる。またその一部はソフトウェアの開発に割り当てられることになるという。
サムスンがソフトウェア開発に資金を投じる。このことが示すのは、おそらく同社がソフトウェアというコンポーネントに価値を見出しており、その入手に関して外部に依存したくないと考えている、ということだろう。
理屈の上では、供給者の数の減少などにより市場でのインプット(供給側)の力が高まるときには、上流への統合が意味をなす。
ただし、サムスンの場合は、他社へのコンポーネント提供事業も手がけていることから、そうした事業のお得意さんたちも自分たちと同じことを考えていないかどうかを自問する必要がある。
(執筆:Horace Dediu / 抄訳:三国大洋)
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