3年ほど前、リサーチ・イン・モーション(Research In Motion:RIM)の株価は現在の約6倍、またノキア(Nokia)の株価もいまの4倍も高かった。下のグラフは、2010年第1四半期における主要メーカー各社のデーターをまとめたものである。
このグラフではタテ軸(単位:ドル$)が端末の平均販売価格、ヨコ軸が出荷台数(単位は100万台)で、棒グラフの面積の大きさが各社の売上を示している。またそのなかで、薄いグレイがかかった部分は製品原価および営業経費、そしてクリアな部分は営業利益を示している。
その後、各社の売上・平均単価・営業利益はどう変わったか。それを示したのが次のグラフで、左側が1年後の2011年第1四半期、右側が2012年第1四半期の様子をそれぞれ示している。
こうして見るとアップル(Apple)とサムスン(Samsung)の面積=売上や利益が増えていることが一目瞭然だが、同時にこの1年でRIMやノキアでは売上縮小や出荷台数減少により、赤字に転落したことがわかるーーモトローラ(Motorola:図中では"MOT")とLGはその前から赤字だった。
スマートフォン市場の変貌ぶりについてはこれまで何度も記してきた。だが、こうした大きな変化がごく短期間に起こったことは何度でも繰り返して言うべき重要なポイントだと思う。1番目のグラフと3番目のグラフとの時間的隔たりはわずか2年ほどでしかない。市場参加者の「形」はそれほど変わっていないが、この間に「ティッピング・ポイント」(転換点)があったーー破壊的イノベーションによってかつての優位性を打ち負かされた参加者のなかには、回復不能なほど深刻なダメージを受けたところも出てきた、ということだ。
ところで、このティッピング・ポイントはいつあったのだろうか。われわれがいま目にしているデータは、この2年あまりの間に各社で下された何百もの決断や何千ものアクションの積み重ねの結果に過ぎない。おそらく、ある特定の時期にシフトが生じた、あるいは特定の判断によりそうしたシフトが起こったとは考えられない。同時に、破壊的イノベーションにより打撃を被った側が、何らかのアクションでそれに対抗することが可能だったとは考えにくい。
この変化的な変化をもたらした原因(とそれへの対抗策)は、特定のクションのなかに見いだせるものではない。それはあるプロセスーー企業のオペレーションや考え方の問題といえる。苦境に陥った企業では経営陣にその責任があったのだろうか。答えは常に「その通り」ではあるが、ではどうしてかつては優秀だった経営陣があっという間に愚かになってしまったのだろうか。あるいはある特定の企業(もしくは業界全体)の管理職が共謀して、いっせいに愚かになることにしたとでもいうのだろうか。
日々の業務における意志決定を研究してみると、経営陣は一貫して、過去に成功へと至る過程で学んだ教訓を適用していることがわかる。しかし、こうした教訓から導き出された判断こそが、結局のところ、最悪の結果をもたらすことになった。
このジレンマのもっとも厄介な部分は、「正しいこと」をすることが間違った結果をもたらす、という点にある。わたしは以前、この点について、上場企業の管理者はこのジレンマを解決できないのではないか、とコメントしたことがあった。
株主から責任を託されたプロフェッショナルな管理者を擁する公開企業では、イノベーターのジレンマを解決することは本質的に不可能で、破壊的イノベーションによる攻撃を受ける運命にある、と主張する人もいる。わたしも最近、こうした主張が正しいと信じ始めている。このジレンマを解決する施策を講じようとすると、管理者は必ず価値を破壊する障害に遭遇することになる。社内での自分のポジションを維持しつつ、この障害を乗り越えるということは不可能である。このジレンマを解決しようとした管理者は、自分の地位を失う。そして、後釜に座った管理者がそうした過ちをおかすことはなく、そのことから企業全体の崩壊につながる。
しかし、これと正反対の例も実際には存在する。アップルについて研究すべき理由はまさにそこにあるーー同社がこの問題をどう解決したかを知れば、希望が持てるようになる。
(執筆:Horace Dediu / 抄訳:三国大洋 / 原文公開日:2012年6月1日)
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