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うろうろマネージメントと分身ロボット

Management by wandering around

2015.08.29

Updated by Ryo Shimizu on August 29, 2015, 07:15 am JST

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 テレイグジスタンス(遠隔存在)ロボット Doubleを導入して一週間が経ちました。
 

 「また社長の新しもの好きが始まった」

 と、最初は冷ややかな目で見ていた周囲も次第にこの一風変わった存在に慣れてきたようです。
 
 Doubleは、私が当初想像していたよりもずっと効果的にマネージメントを支援してくれます。

 ボスが特に用事がなくても現場に行きスタッフに声を掛けたり、スタッフから声をかけられる時間を作るというマネジメント法を「management by wandering around」または「management by walking around」と呼び、頭文字をとってMBWAと呼ばれたりシます。

 この言葉の起源は、1970年代のヒューレットパッカードだったといいますが、同様の理念は同時多発的に生まれていたそうです。

 興味深いのは、この「management by wandering around」という言葉とともに、英語ではしばしば「going to gemba」という言葉も使われるということです。または「gumbo walk」という言葉もあります(wikipedia)。

 この「gemba」は、もちろん日本語の「現場」に由来します。

 そういうところの意図もあって、私は毎日3つの会社に通っていたわけですが、やはり物理的な移動を伴うと問題もあります。

 それはそれぞれの場所にいる時間が単純に1/3になってしまうということです。

 スタッフにとっては「相談があるんですけど」と声をかけるチャンスが1/3に減ってしまうのでとても勿体無いのです。

 上司にとっても、朝会って顔をあわせたスタッフに「○○してみてはどうだ」と指示したことを夕方「どうなった?」と確認することができるかできないかは大きく違いますが、結局物理的に三社を移動しているとそういうことができなくなってしまいます。

 ところが朝、Doubleで出社して顔をあわせたスタッフに出した指示がどうなっているか、夕方手の空いた時に再びDoubleで出社し、「どうなった?」と聞くと「ここまでできました」と報告を受けることが出来ます。

 これまでは簡単な相談事でさえアポイントを調整する必要があったのですが、今は「あとでちょっとDoubleしてくれますか?」とメッセンジャーやチャットで声を掛けられたら、手が空いた時にDoubleで顔を見せに行き、話をすることができます。

 
 「あとでSkypeして」とか「あとで電話して」というのと何が違うんだ、と思うかもしれませんが、Skypeや電話の問題点は、話しかける前に相手の都合を伺うことができないことです。

 仕事で話しかけるタイミングというのは特に重要で、とりわけエンジニアに話しかけるタイミングは大事です。仕事でノリノリの時に電話をかけるとせっかく高まったテンションがぶち壊しになるからです。

 
 だからこそ、IT企業でああるヒューレットパッカードで「management by wandering around」という単語が生まれたのでしょう。

 
 わざわざSkypeやFacetimeをして、他愛もない世間話をしたり、というのは難しいでしょう。
 しかしテレイグジスタンスロボットの場合、本質的には幽体離脱してそこに行くのと同じですから、相手が手の空いていそうなタイミングを見計らって声をかけることが出来ます。

 「昨日こんなことがあってさー」とか、「アレ知ってる?」とかの他愛もない会話から、思わぬアイデアが飛び出したり、ソレまで見落としていた現場の問題点に気づいたりすることも多いため、使えば使うほど、このDoubleというテレイグジスタンスロボットの有用性が見に染みてくるようになりました。

 LTE回線付きのiPadで食事中に即座にDoubleで会社の様子を見に行くことも出来ますし、気になることがあったとき、以前よりずっと気軽に声をかけることが出来ます。メッセンジャーも手軽ですが、どうしても非同期的なコミュニケーションになりがちです。メッセンジャーは相手の反応が読み取りにくく、意図が充分に伝わっているかどうか確認することが難しかったりします。

 また、文字による言葉だけのコミュニケーションだと、どうしても叱責したりたしなめたりするのに言葉が強くなりがちです。これが無用の緊張をスタッフとの間に産んでしまうこともあります。

 長年テレイグジスタンスを研究されている慶應義塾大学の稲見昌彦教授も、「悔しいけど、本当にこれで充分なんですよ」と都内数カ所に分散している研究拠点の全てににDoubleを導入しているそうです。

 特に大学教授などは研究会や学会などで世界中を常に飛び回っていることが多く、自分の研究室の学生に顔を見せるチャンスが少なくなってしまうのでこうしたテレイグジスタンスロボットで「うろうろマネージメント(management by wandering around)」を実施するのは重要なのではないかと思います。

 短縮された移動時間を利用して、それまで会ったことのない人に会いに行ったり、遠く外国の学会に参加したり、自分自身の肉体の価値をより効果的に活かせる場面に運ぶことが出来ます。

 そこそこよく知っている人とミーティングする場合、会議室にDoubleを持っていけば十分事足ります。

 身振り手振りが重要なプレゼンテーションには向かないかもしれませんが、議論するなら充分です。

 私のチームは進捗会議を100%チャット化しているのでそもそも無駄な時間というのが大幅に短縮されてはいるのですが、Doubleはさらに時間を短縮する効果を持っています。

 余計な時間が短縮されるというのは、要するに最適化されたということです。
 
 プログラマーというのは最適化された時にこそ大きな感動を得ます。
 私も最適化で感動できるところをみると、やはり自分は、生涯いちプログラマーなのだな、と痛感せざるを得ません。

 仕事に関わる最適化といえば、拙書「最速の仕事術はプログラマーが知っている」が早くも第三刷の重版が決定しました。


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 一ヶ月に二回の重版というのは、1500円の本としては相当なことなのでビックリするとともに、世間の方々のプログラマーという人種に対する感心の高さに驚きました。

 というのもこの本は明らかにプログラマー向けではない(プログラマーなら誰でも知っていることが書いてあるだけ)ので、買っていただいているのはプログラマーでない方、ということになります。

 書店でも、ビジネス書、仕事術のコーナーに置かれているのでプログラマーはまず見に来ないところです(プログラマーは普通の人達よりも遥かに効率的な仕事術を知っているので、ビジネス書や仕事術の本など読んでも役に立たないと思っている人が少なくないのです)。

 私も中高生の頃はビジネスマンという言葉にあこがれて、書店や図書館で仕事術の本を読み漁ったりもしたのですが、やっぱりどうにも、まどろっこしいというか、もっと効率的な方法があるのではないか、という印象が拭えませんでした。

 たとえば野口悠紀雄のベストセラー『「超」整理法』はプログラマーから見ると単なるLIFOの変形版です。
 データ構造として表現すると単にスタック構造にしておき、必要に応じて検索するというだけのネタをただひたすら本一冊まるごと書いてるだけです。

 『「超」整理法』では一冊の本でせいぜいひとつかふたつのアルゴリズムとデータ構造しか扱っていません。

 当時の月刊アスキー編集長でプログラマーであり仕事術の達人でもある遠藤諭(現・角川アスキー総研所長)が『「超」整理手帳』を作ったのも偶然ではないでしょう。プログラマーとしての勘が、プログラミングスキルを仕事術に応用することの面白さを敏感に感じ取った結果なのではないかと思います。

 その時代に比べるても、今のプログラマーの仕事環境というのは信じられないくらい進歩しました。
 

 その結果、もはやプログラマーとそうでない人の仕事の効率には天と地ほどの開きがあるようにさえ感じます。

 特に、ソースコードのリビジョン管理システムの発展形は、いずれあらゆる職業の人が使う次世代のグループウェアとして昇華していくと思います。ちょうどたかだか20年前に、プログラマーなら当たり前のように使っていた(そして一般人は存在を知りもしなかった)電子メールやWebが、今やビジネスの必須ツールとなっているのと同じように、ビジネスの効率を良くしていくでしょう。

 その意味ではリビジョン管理システムに比べると、今やかなり洗練されていて専門家やギークでなくても使いやすいテレイグジスタンスロボットはもっと普及してもいいと思いますが、今度はこうしたロボットを受け入れる環境が会社に構築できるかどうか、という問題になります。

 ロボットを職場に受け入れるには、まず「ロボットが職場にあるなんて面白い」という程度の感性を持ったスタッフがいる職場でないとあり得ません。

 その意味ではハイテク企業や研究所を中心に普及し、10年後か20年後にはテレイグジスタンスロボットが当たり前のように使われているかもしれません。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

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