多文化多国籍社会のコスト
The cost of multicultural society
2015.10.28
Updated by Mayumi Tanimoto on October 28, 2015, 13:02 pm JST
The cost of multicultural society
2015.10.28
Updated by Mayumi Tanimoto on October 28, 2015, 13:02 pm JST
日本では何十年も前から多文化化、多国籍化、国際化すべきだということが叫ばれていますが、私が子供だった頃の30年前と比べて、日本はそれほど変わっていないような印象です。国連の統計によれば日本に住んでいる外国生まれの外国人は人口の1.9%です。これは先進国では驚異的に低い数字です。
イギリスの場合は12.4%、ドイツは11.9%、イタリアは13.8%、フランスは11.6%、オランダは11.7%、オーストリアは15.7%、ギリシャは8.9%、ポルトガルは8.4%、スウェーデンは15.9%、ノルウェーは13.8%です。ヨーロッパの場合、大方の国は10%を超えていて、裕福な国ほど外国人の数が多く、貧しくなるほどその割合は減ります。ちなみにアメリカは14.3%です。(そもそも国民全員が移民じゃないかという意見もありますが)
こういう数字をざっとみても、日本がいかに多国籍、多文化ではないかということがわかりますが、外国人の数が少ないので、実際に外国人が人口の10%以上を越えるような状況とは一体どんなことなのか、ということを実感できていない方が多いように思います。外国人が多い土地の「常識」を話しても、感覚がつかみにくいというか、それは本当のことなのか?と信じてもらえないことが起こりがちです。それが日常の雑談レベルのことであれば問題はないのですが、ビジネスとなるとまた別の話です。
特に消費者を相手にする通信や携帯ビジネスにおいて、外国人が多いとはどういうことなのか、を肌感覚で理解しておくことは、海外展開する場合には死活問題であるといっても言い過ぎではありません。かつて我が国のキャリアも海外ビジネスで大失敗していたりしますが、その原因の一つには、戦略を立てる際に、そういう違いを肌感覚でわかっている人がいなかったというのもあるでしょう。
以下の写真はロンドンの某大学のトイレ内に掲示してある注意書きです。イギリスのトイレには紙を流せますが、水洗トイレがない国の人や、トイレには紙を流してはならない国の学生や教員、訪問者が、トイレ内のゴミ箱に使用済みのトイレットペーパーを捨ててしまうために、清掃担当者から大変な文句が出て仕方なく掲示することになったものです。かつてはトイレの床に脱糞する人もいました。清掃担当者は激怒し、ストをやるぞといったほどです。ここでは清掃担当者も怒るのが当たり前です。
ゴミ箱に紙を捨てる文化圏の人はだいたいわかっているのですが、その国の人に名指して注意を書くと、人種差別、国籍差別として訴訟を起こされる可能性が高いため、様々な言語で書かざる得ません。
これは単なるトイレの注意書きですが、多文化、多国籍になると、こういった注意や説明書きを行政サービス、病院、携帯のユーザーマニュアル、列車の注意書き、など様々なところで提供せさる得なくなります。現地語がわからない人、理解が不十分な人が増えるため、サービスを正しく利用してもらうために必要不可欠なコストになります。
提供するには翻訳、管理、内容の詰めなど手間もお金もかかります。また、ユーザーの言葉で提供しても、内容を正しく理解しなかった人から企業側が訴訟を起こされたり、文句を言われることも増えます。ユーザー数が少数であればクレームの数は大したことないのですが、ユーザー数が増えるとクレームの数自体も増えます。
これは企業自体が多国籍化した場合も全く同じで、多様な人が増えるため、メッセージが十分伝わらなかったためにトラブルが発生したり、同じことをしても、相手の文化では差別に当たったり、宗教的、性的に迫害されたと考える人もいるので、企業内の内規やコンプライアンス体制、研修を整える必要が出てきます。
現在ヨーロッパでは急激な移民と難民の受け入れに反対している人達もいますが、反対する理由は、現地の人達が言葉や文化がわからない外国人と共存するコストを十分体験しているからです。そのようなコストは、行政側が負担するだけではなく、サービスを提供する企業側も体験しています。人が増えることで需要も増えるので歓迎する企業もありますが、かかるコストと収益のバランスが取れない場合は、新たな市民は歓迎されない人になってしまいます。
多様化は新たな活力も生み出しますが、その一方で、多様化を支えるコストも重いわけです。
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登録はこちらNTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。