プレゼンをワンランクアップさせる3つのテクニック
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2016.02.11
Updated by Ryo Shimizu on February 11, 2016, 07:12 am JST
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Updated by Ryo Shimizu on February 11, 2016, 07:12 am JST
ベンチャーの経営者にとって最も重要なものはプレゼンテーションです。
投資家やビジネスパートナーを説得したり、社員を説得したり、顧客を説得したり、相手は様々ですが、どれも極めて重要です。
プレゼンテーションスキルの低い経営者は事業を失敗させる確率が高まります。
なぜなら、誰も説得できなければ、顧客を獲得できず、資金を獲得できず、社員には逃げられるからです。
筆者は幸いなことに、プログラマーでした。そして何より、ゲームプログラマーだったのです。
ゲームプログラマーは普通のプログラマーとは少し違います。
Webサービスや業務システムなどは保守性が最優先されますが、古くからのゲームプログラマーにとって保守性は二の次三の次です。最も重要視されるのはユーザー体験、つまり、プレゼンテーション層と呼ばれるソフトウェア・レイヤーです。
どれだけプログラムが汚かろうと自分以外読めなかろうと、最高の体験を生み出すことのみを最優先にするのがゲームプログラマーの流儀なのです。
そこで鍛えられるのは、徹底した功利主義です。
なにしろゲーム専用機のハードウェアは横並びです。プレステならプレステ、XboxならXbox、与えられたハードは全てのプログラマーにとって平等です。
その与えられた制約の中で、無数に存在するライバルをいかに出し抜くか、それがゲームプログラマーの腕の見せどころなわけです。
これは筆者がプログラマー経営学と呼ぶもの全てに通底する考え方です。
あらゆる経営者にとって、与えられた制約はほとんど平等です。
市場環境、法律、税法、地代家賃、獲得可能な人材。これにほんの少し、資金の違いやそれまでの会社員時代に培った人脈といった前提条件が異なるだけですが、金融の仕組み上、実家がよほどの資産家というケースを除けば、事業の元手となる資本金は似たり寄ったりです。
筆者が会社を起こした時の資本金は300万円でした。
その後、子会社を作る時は資本金1000万円がひとつの基準になりました。そのくらいの規模がなければ、社外の会社からまともに相手をしてもらえないからです。
サラリーマンから独立起業するときの資本金は最大でも1億円。ものすごく特殊なケースで10億円です。この場合、個人の財布から出ることはほぼなく、投資家を見つけてくることが前提です。
ところが筆者の知る限り、日本のベンチャーはスタート時の資本金が大きいほど早く会社が潰れているのが興味深いところです。
そもそも資本金が1億円を超えると税法上は大会社の扱いになり、いろいろと払うべきコストが増えてしまいます。
筆者の持論は、自分の年収以下の資本金からスタートすることです。これが一番生存確率が高い。
自分の年収というのは、要するに自分が毎年稼ぎだし、運用しているお金です。
それよりも少ない資本金でスタートすれば、無駄遣いはしなくて済みます。そして万一の時にも失うものはそれほど多くありません。
さて、会社を立ち上げるには、投資家、社員、顧客の3つの対象に対して事業をプレゼンテーションしなければなりません。
このプレゼンテーションの内容が凡庸だと、投資家、社員、顧客の三者の興味を惹きつけることはできません。
しかし意外と、凡庸なプレゼンテーションをする経営者は少なくありません。
プレゼンテーションを成功させるために大事なことは、まずはメッセージを絞り込むことです。
自分は何をしたいのか、そのためには何が必要で、どういうやり方でやるのか。
簡潔にわかりやすくしたメッセージをレーザーのように絞り込みます。プレゼンテーションは短ければ短いほど良いのですが、短くするのは長くするよりも遥かに難しいのです。根気とセンスの必要な作業です。
普通のコピーライターというのは、あれこれたくさんコピーを考えて、その中から100くらいに絞り込み、さらに自信作を5つくらいに絞り込んだ状態でクライアントのところに赴いて、バッとコピーを印刷した紙を百枚くらい並べて、その中からこれは、というものをクライアントに提示するそうです。
しかし、コピーライターとして高名な糸井重里さんは、たった一枚のコピーだけを携えてクライアントに趣き、たっぷり二時間かけて、なぜそのコピーしかないのか語ることができるそうです。
このやり方、生存率が高いのは前者の方法ですが、インパクトが強いのは後者の方法でしょう。あまりにも沢山の選択肢があると誰でも迷います。結局自分がなにをしたいのか見失います。無数にある言葉の組み合わせの中から、クライアントにひとつを選ばせるというのも方法なら、クライアントがそれを選ぶ手間を全て省くというのも方法です。
まあ全てのプレゼンテーションがこんな具合にいけばいいのですが、それにはかなりの才能がないと無理です。
そこで論点整理をしたりするのですが、そもそも論点を整理するということ自体がものすごく才能を必要とする行為です。誰でも明快に論点を整理できれば苦労はしないわけで。
誰でもできるわけではないので、むしろ今回は低コストでプレゼンテーションのレベルをワンランクアップさせる方法をご紹介したいと思います。
まず最初の方法は、「カメラ魔になる」です。
カメラ魔とは何か。
なんでもかんでもメモをとる人をメモ魔って言いますよね。
それの写真版だと思ってください。
100の言葉よりも1枚の写真が雄弁に語ることは少なくありません。
いつもいつもGoogleの画像検索で探した画像がうまい具合に使えるとは限りません。
時には素材集では賄えない角度や表情の写真が必要になります。
そういうとき、部下や同僚にモデルになってもらって、欲しいポーズをしてもらったりするのもいいのですが、どうしてもそういうときには照れが出ます。演技のプロでもない限り、常に欲しいポーズを取ってもらうのは無理です。
そこで普段から同僚の写真を撮りまくるカメラ魔になるのです。
たとえば先々週の土曜日に筆者が行ったプレゼンテーションにはこんな写真が出てきます。
非常に自然な演技に見えますが、実際にはこれは筆者が適当に写真を撮っていたら、写真を撮られてることに気づいた彼女が照れ笑いをしているのが右の写真なのです。
しかし、同じアングルで同じ人物が表情を変えた写真はプレゼンテーションにとってとても効果的です。
この写真も、本当は筆者のプロフィール写真を撮影する際にピント合わせや露出調整のため、モデルとして立ってもらっただけの写真です。
表情を作る必要がない写真なので、どんな顔をしていいかわからずポカンとしているのが、そのままプレゼンに必要な「戸惑い」の表情として使うことができました。
これもやはり同僚のスナップ写真です。
これはiPhone6Plusが届いたばかりで、「でかいなあ」と照れ笑いをしながら使っている写真です。スマートフォンを片手に笑顔のサラリーマン、というのは素材集で探すとどうしてもわざとらしい人しかみつかりません。
これくらい自然な写真を撮るには、やはり日頃からカメラ魔として色々なものを撮影しておく癖が大事なのです。
そういうわけで筆者はうんざりするほど写真を撮っています。
同じ写真を使うのでも、Google画像検索で取ってきた他人の撮った写真と、曲がりなりにも自分の視点で撮った写真ではプレゼンの説得力が違います。
というのも、写真にはそれを撮影する人のパーソナリティが色濃く反映されるからです。
なにも特別なカメラを持ち歩く必要はなく、スマートフォンのカメラでも十分です。
特にiPhone6s以降は十分な画質と手ブレ補正をもっています。
余裕があれば動画も撮影しておくべきですが、動画を撮影するときにはジンバルを使ったほうがベターです。筆者はSwiftCam M3sというジンバルを使っています。
ジンバルがあると画像が安定し、まるで三脚やクレーンで撮ったようなショットが手軽に撮れます。
そうして自分だけの写真素材集、動画素材集を集めていくのです。
同僚を撮るメリットは、常に同じ人が写っている方がプレゼンに一貫性を感じるからです。いろいろな人がいろいろな格好で写っていると統一感がなく、落ち着かないプレゼンテーションになります。
また、プロジェクトの途中などで「これは重要な場面だ」と思ったら迷わずカメラを回します。
意外とそういう場面の写真や動画はあとで必要になったりするのです。
その場にいる一番えらい人が「撮影しろ」と指示しないと撮影されないことは少なくありません。遠慮しているのです。また、秘密保持上もリスクがあります。
だから現場の一番えらい人が自分で撮影して自分で厳重に補完するのがベストでしょう。
100の言葉より1枚の写真だとしたら、100枚の写真よりも10秒の動画です。
プレゼンスキルをアップさせるコツのもうひとつは、動画を活用することです。
動画の編集というと難しく聞こえるかもしれませんが、一度やってみれば根気さえあれば誰にでもできる簡単な作業だとわかると思います。
MacにはiMovieというかなり高度な動画編集ソフトが標準でついてきますし、さらに高度なFinal Cut ProというApple製アプリもたった3万円で買うことが出来ます。
3万円というのは、表計算やプレゼンテーションソフトのKeynoteやNumbersが2000円台と考えるとApple製ソフトとしては破格の値段ですが、それだけの価値はあります。
むしろたった3万円でその後の全てのプレゼンのレベルが上がるなら、投資としては恐ろしく効率的であると言えます。
たとえば筆者自身は自社のYoutube動画をほとんど全て自分自身で編集しています。
BGMはナシで作って、YoutubeにアップロードするときにYoutubeで自由に使えるBGM集から映像の尺(長さ)にあわせて選びます。
Final Cut Proが特にスゴいのは、映画的なエフェクトをいとも簡単に再現できることです。
PowerPointやKeynoteの標準機能では絶対に再現できないエフェクトなので、ただ文字を出すだけでも使ったほうが良い場面があります。
更にFinal Cut Proには、Motionという超絶強力なエフェクト作成ソフトがついてきます。標準のテンプレートだけを使っても、簡単に映画のような動画が作れます。
これを使うだけでインパクトは絶大です。
また、立体的な空間に文字や画像といった様々な要素を配置できるので、最近流行りのハリウッド映画のエンディングのような効果も作れます。
こういう効果がさりげなくプレゼンに入っているだけで「お、他とは違うな」という印象を与えることが出来ます。
これはとても簡単なのにあんまりやってる人がいないテクニックです。
QuickTimeの画面キャプチャ機能も重宝します。
SoundFlowerというアプリを使うと音声も同時に収録することができるので、たとえばゲーム画面とか、Webの画面とか、デモをいちいち見せるのがまどろっこしい場合などに活用できます。
スマートフォンで撮りためた動画素材と画面キャプチャを組み合わせて、さらに効果的なプレゼンを作ることもできます。
社内プレゼンの場合、BGMも好きなものを使えるので最も効果が高いBGMを選んで使うとさらに効果的でしょう。
実は筆者がプレゼンをする際、最も悩むことのひとつがBGMです。
この場面ではどんな音楽が必要か、どんな意味をもたせるか、それを考えるだけでものすごく時間が経ってしまいます。迷いに迷った挙句、これしかない、というものを使うのですが、それも神経を使います。
しかしBGMは使い方一つでプレゼン全体を感動的なものに変えることが出来ます。
最後のテクニックは、即時性です。
先日の日曜日に開催されたマサチューセッツ工科大学(MIT)の石井裕先生のイベントで登壇した私は、他の参加者のプレゼンを聞きながら素早くいろんな仕掛けを施しました。
たとえば、手書きの重要性を解くスライドのなかで、私はたまたま石井先生が書いた手書きのノートというのをネットで発見し、それを使ったり・・・(そしてさすが石井先生、ひと目で自分のノートと見破りました)。
落合陽一くんがiPad ProにApple Pencilでプレゼンしていることに気づき、それを写真に撮って手書きの重要性を解くスライドにしたり
小さな図にまで使ったりします。
こうすると、観客や他の参加者との一体感がとても強まります。
登壇者の自分も、観客の一人であり、観客の一人である自分が登壇するということの意味付けをより強くします。
心理学でいえば観客や他の参加者との間にラポートを形成するのです。
つまり、自分のプレゼンを自分の狭い世界のなかだけで完結させるのではなく、イベント全体の流れを取り込んで自分とイベント、観客と自分を同一化させるのです。
他にも、この日のパネルディスカッションにはIngressの開発者であるNiantecの人が参加していたので、自己紹介をIngressのログイン画面にしました。これもラポートを形成するためのテクニックです。
即時性を活用するのはほんの一手間です。
普通、独演会をやるよりはいくつかのプレゼンが連続することの方が多いと思います。
そういうときに即時性を活用してほんの1,2枚、スライドを当日撮影した写真に入れ替えるとか、登壇者の話題を取り入れるとかすると、プレゼンテーションがつなぎ目なくイベントに溶け込み、そして独特の主張はむしろ浮かび上がってくるような効果が得られます。
これは即時性に限らず、独演会の場合であっても、講演する場所や聴衆によって内容を少し手直しするだけでとても簡単にラポートを形成することができます。
先日筆者が主宰したenchantMOON Crew Meeting 2016で、PEZY Computingの齊藤社長が挿入した「清水CEOと齊藤の共通点」というスライドはまさしくそのようなもので、さすがだと唸りました。
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=uW3eGK9iJOA&w=560&h=315]
筆者のプレゼンはこの動画の5:17:15頃から始まります。
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登録はこちら新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。