1000倍高速な次世代スパコンとAIエンジンが日本からシンギュラリティを創出する
2016.08.01
Updated by Yuko Nonoshita on August 1, 2016, 08:22 am JST
2016.08.01
Updated by Yuko Nonoshita on August 1, 2016, 08:22 am JST
2045年に到来すると予言されているシンギュラリティを現実のものにしようとする動きが加速している。大阪で開催された第1回シンギュラリティ・シンポジウムに登壇したPEZY Computing創業者の齊藤元章氏は「シンギュラリティの到来にはハードとソフトの両方の進化が必要であり、次世代AIエンジンと次世代スパコンの登場によって最強の科学技術基盤がまもなく出現する」と言い、自身でもシンギュラリティの実現を進めていると語る。
▼PEZY Computing創業者の齊藤元章氏
▼技術的特異点の創出はハードとソフトの両面から取り組む必要がある。
スパコンの開発競争も激化しており、注目すべきは中国の動きであるという。6月に発表された世界のスパコンランキングTOP500で首位となった「神威太湖之光(Sunway Taihu Light))」の演算性能は93ペタフロップスと、3年連続世界一のスパコン「天河2号(Tianhe)」の約3倍で、半導体も全て中国純正で運用されている。TOP500に入るスパコンの運用台数も167台と初めて米国を抜き、技術者の育成にも力を入れるなど、科学技術分野での覇権を固めつつあるとしている。
▼シンギュラリティの実現に必要なスパコン開発では中国が米国を抜く勢いで開発を進めている。
それに対し独自技術によるメニーコアプロセッサを開発するPEZY Computingでは、来年には64液浸槽で100ペタフロップスを超えるスパコンを開発。さらに液浸冷却技術や積層メモリを開発するグループ会社で2020年には1台で100ペタフロップスの能力を持つ第5世代スパコン「PEZY-SC4」を製造し、現在より1000倍高速な次世代スパコンの運用を目指す。
それにあわせて6月に設立した新会社のDeep Insightsでは、現在より1000倍高速なAIエンジンを1年半以内に製品化する。人間の脳機能の解明が知性を持つ汎用AIの誕生につながることから、全脳アーキティクチャ・イニシアティブ(Whole Brain Architecture Initiative =WBAI)(関連記事 )とも連携して、マスターアルゴリズムの研究とモデル構築を行い、日本からシンギュラリティの創出を目指す。
▼必要な技術を開発、製造する会社を次々設立し、外部とも連携しながら2025〜30年頃までに汎用AIの管制を目指す計画だ。
人間の脳には1千億の神経細胞があり次世代スパコンでもなかなか追いつかないように感じる。だが、齊藤氏が来年の稼働を予定している100ペタフロップスを超えるスパコンは、1億コアが独立演算可能なMIMD型アーキテクチャを持ち、さらに1秒間に数回しか神経細胞が発火(活動電位の発生による情報の伝達)できない脳と違って数十億回の発火にあたる動きが可能だ。規模は1000分の1だがコア数と発火数をかけわせた理論上の速度は10億倍になることから、脳機能の解明が一気に進むとしている。また、100兆個を越えるシナプス結合についても、実現できる新しいインターコネクト技術の開発を予定している。
▼来年中に100ペタフロップスを超えるスパコンを開発し、さらに複数束ねて動かすことで脳機能の解明を一気に進める。
実現のための最も大きな課題は予算。シンポジウム後半のパネルディスカッションでは政府側の動きとして、人工知能戦略会議の開催や関連予算が承認されたこ とが紹介されたが、合計金額は50億円程度で欧米は5分の1ほどしかなく、それも主な対象はソフト開発だという。7月には麻生副総理が「菖蒲」と「皐月」 を視察しているが、日本からシンギュラリティが生まれるかどうかは、社会や国の関心がどれだけ高まるかに影響されそうだ。
※修正履歴
PEZY Computingが開発中のスパコンについての説明文中で、当初「来年には64個のチップで100ペタフロップスを超えるスパコンを開発」としていましたが、正しくは「来年には64液浸槽で100ペタフロップスを超えるスパコンを開発」となります。お詫びして訂正いたします。(8/15 14:15 本文は修正済み)
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登録はこちらフリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。