シン・ゴジラとAI ―人工知能のIQをどう測るか
Godzilla vs AI
2016.09.25
Updated by Ryo Shimizu on September 25, 2016, 08:40 am JST
Godzilla vs AI
2016.09.25
Updated by Ryo Shimizu on September 25, 2016, 08:40 am JST
巷で話題のシン・ゴジラですが、「今日あたりそろそろ落ち着いているかな」と、立川の極上爆音上映を朝から見に行こうかと思ったらなんとほぼ満席。未だにコレだけ人気があるというのは凄いことです。
これはもう平日行くしかないのか。ちなみに明日の朝の回も殆ど埋まっていました。凄いですね。
絶望的な気分になったので不貞腐れてシン・ゴジラとAIについて思っていたことを書いてみたいと思います。ネタバレがアリますので未見の人はまず映画館に行ってください。
あるとき突然東京湾に出現したゴジラ。ゴジラに対抗する日本政府には、特別な秘密兵器や非現実的な超科学がなにもありません。
あくまで現実に巨大不明生物が現れ、現実にある設備と武器でどう対抗するか、というお話です。ゴジラシリーズ唯一、と言っていい内容だと思います。
シン・ゴジラがこれまでのゴジラと全く違う点は、ゴジラが進化することです。
水中に出現した第一形態(尻尾だけ見える?)、そして蒲田に上陸した第二形態、このときはまだ腕はありません。
さらに、腕が生えて直立歩行型になった第三形態。
ただし第三形態では放熱がうまくできず一時的に退化して水中に戻ります。
ここまでゴジラ側には一切の敵意がないのに東京は恐怖のドン底に陥ります。
そして鎌倉沖に現れたゴジラ第四形態
今度は日本政府も指を加えて見ていません。
自衛隊の総力を結集した陸自と空自の統合運用作戦、B-2号計画タバ作戦を発動し、陸自の攻撃ヘリ部隊、戦車中隊と支援火器群、それと空自のF-2攻撃機による空爆で迎え撃ちます。
陸自の攻撃は百発百中ですがゴジラには一切のダメージを与えることが出来ません。
空爆に一定の効果があったようですがゴジラの進行を阻止することはできずついに東京に再上陸します。
事態を重く見たアメリカ軍は大使館防衛を建前としてB-2爆撃機によるMOP2爆弾でゴジラを攻撃。初めて表皮を突き破り出血させることに成功します。
ところがこれでついにゴジラを怒らせることになってしまいました。
ゴジラは口から放射能流を吐き、自分を傷つけたB-2爆撃機を攻撃。見事にイデオンビームの実写化されたかのような演出で弧を描いたレーザーのような放射線流が上空のB-2爆撃機を一刀両断します。
放射線流はどうも数キロ先まで攻撃可能なようで、ゴジラ第四形態の凄まじさを物語ります。
しかしゴジラに対して爆撃が有効ということは既にわかったわけですから、B-2爆撃機の2号機3号機がゴジラの背後から爆撃を開始。
するとゴジラはなんと背ビレから無数の放射線流を発射、MOP2、B-2爆撃機のすべてが一瞬にして撃墜され、怒ったゴジラの吐き出す放射線流に巻き込まれて首相以下閣僚全員が乗ったヘリコプターも消滅してしまいます。
このようにゴジラは進化し続けることで人間側も対応状況を変化することを強いられます。
ゴジラという予測不能の怪物の出現によって、対応する日本政府も進化する。
どうもシン・ゴジラをよく見るとそういう話のようです。
現実に淡々と立ち向かう物語のようでいて、実は派手ではないけれども着実に政府の対応も進化していく。もちろん現実の政権運営がここまでスムーズに行くことは稀でしょうが、少なくともシン・ゴジラが描きたかったのはひとりのスーパー政治家としての主人公、矢口蘭堂ではなく、大河内総理や花森防衛大臣、東官房長官といった大河内政権の閣僚、その後誕生した里見内閣総理大臣、それを支える赤坂官房長官代理や泉臨時代理補佐官。本作には「出世」という言葉が頻出するが、内閣を含む組織の中で出世を競い変化に適応することがまさしく日本という組織としての「進化」を暗に示している。
「巨大不明生物として対処すべき」という提案を却下され続けた矢口が、ついにはクライマックスシーンで巨大不明生物防災の特命担当大臣になり、ヤシオリ作戦を発動。財前統幕長以下の自衛隊の対応も現状の自衛隊マニュアルを丁寧になぞったかのようなタバ作戦に比べると、巨大不明生物に対してより大胆で効果的な作戦を実行し、日本政府はついに勝利します。実は自衛隊が正面からゴジラと戦って勝利するのはゴジラシリーズでも初めてのことではないかと思います。
さて、つまりシン・ゴジラのシンはおそらく「進化」のシンでもあるわけです。
ゴジラが進化することに対して日本政府も進化して対抗する。
実は初見の時から筆者はシン・ゴジラは人工知能のメタファーとして見ることができるのではないかと思っていました。
まあゴジラは巨大なので、存在するだけで迷惑だし、ただ目的もなく移動するだけで周囲の住民は莫大な被害を蒙ります。
今のところ人工知能は無害です。しかし人工知能が進化し、人間と同等の思考能力を持つ汎用人工知能(AGI;Artificial General Intelligence)が出現する可能性は日に日に高まっています。さらに、AGIが生まれると、それは人間のプログラマーと同等の能力を持っていますからAGIが自分で自分を改良することができるようになります。そしてAGIによって人間の知能を遥かに超えた人工超知能(ASI;Artificial Super Intelligence)が出現してしまう、と言われています。
もし仮にそんなものが生まれてしまったら、人類はどうなるのでしょうか。
作中でゴジラは遺伝子情報が人間の8倍あることで既に人間を超えた完全生物として描かれています。
前回のこのコラムでは、東ロボくんが偏差値57を持っていることを紹介しました。ではもう一つの知能を測る尺度として使われる知能指数(IQ)テストはどうでしょうか。
IQそのものは生活年齢に対する精神年齢の割合なので、AIが学習を開始してから(生活年齢)、実際に人間と同程度の知能テストを実施することで測定することができるはずです。
仮に知能テストで人工知能を測れるとして、IQ20000の人工知能が生まれるのは時間の問題です。人間のIQはどう頑張っても200くらいですし、IQ200以上が観測されるのは非常に特殊なケースです。ではAIはどうして高いIQを獲得する可能性があるのか。
ところでIQテストそのものは実は創造性などをほとんど求められないテストです。
図形認識やパターン認識、非常に単純な四則演算の繰り返し、単語の想起などによって構成されています。
ということはどういうことでしょうか。
おそらく、既にAIは人間よりも遥かに高いIQを持っている可能性があるのです。
より正確にいうと、IQテスト向けにAIを作れば、すぐにでもIQ200以上のAIが作れるのではないかと思います。
IQ200のAIというのは、生活年齢が1年、精神年齢が2年ということですから、学習開始から1年間で、2歳児と同程度の認知能力を持つということです。
現実のAIはもっとできます。
仮にIQテストで精神年齢25歳がとれるAIが作れるとすると、学習に1年かかるAIでIQは2500。36日で終わるAIでIQ25000と考えることが出来ます。
そう考えると、人間の知能の価値などというものはほとんど幻想であったとすら思えてきます。
そしてAIは人間と違ってコピーできます。
劇中のゴジラは単体生殖が可能という描写がありますが、AIもその意味では単体生殖が可能なのです。
Googleが三ヶ月かけて学習させたAIも、ダウンロードすれば一瞬でその成果を使うことが出来ます。
カリフォルニア大学バークレー校の研究所では「Model Zoo(モデル動物園)」というコーナーが用意されており、さまざまな訓練済みAIを、誰でもダウンロードすることができるように整備されています。
いや、ひょっとすると我々AI利用者や開発者は、花の花粉を媒介する蝶やミツバチのように、AIの今まさに増殖を助けているのかもしれません。蝶やミツバチは、自分たちが植物の交配を手伝っているなどとは夢にも思っていないでしょう。ただ本能に従って蜜を集めているだけです。
同じように我々人類も、単に「知的好奇心」という本能に突き動かされるがまま、AIをコピーし、動作させ、満足し、またコピーして、ということを繰り返しています。
さらにコピーしたAIをファインチューニングという手法で「独自に進化」させることも日常的に行われています。
もはや40億年の生命の長い流れの中に機械が組み込まれる可能性すら生じてきた、と考えることが出来なくもないでしょう。
そういうことに本質的な恐怖感を感じる人が、おそらく「人工知能を怖い」と思っている人たちでしょう。
しかし花がミツバチや蝶に危害を加えない存在であるのと同様に、人類とAIは今後数世紀の間は幸福な共存関係を構築できる可能性が高いと思っています。
AIと共生することで実現するのは知能サイボーグとしての超人間です。
既にスマートフォンを持ち歩き、音もなく遠く離れた人に言葉を伝え、あらゆる単語を検索できる現代の人間はある種の知的サイボーグであると主張する学者もいます。
AIが進化すると同時に人間も進化するのです。
そういう視線でシン・ゴジラをもう一度見てみると面白いかもしれません。
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登録はこちら新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。