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セバスチアン・スランの自動運転車エンジニア養成オンライン講座が大盛況

2016.10.26

Updated by Hayashi Sakawa on October 26, 2016, 06:30 am JST

セバスチアン・スラン(Sebastian Thrun)といえば、グーグルカーを開発した同社の研究開発部門Google Xを立ち上げたり、それ以前にはDARPAグランド・チャレンジ(国防高等研究計画局が主催したロボットカーレース)に優勝したスタンフォード大学「スタンレー」の開発を率いたりと、自動運転車の分野とも縁の深い人物だが、そのスランが始めたMOOC(大規模公開オンライン講座)のユーダシティ(Udacity)で、今年秋に自動運転車関連のエンジニア養成講座を開講するとの発表が先月にあった。先週Fortuneに掲載されていた記事によると、まもなく第1期が開講するこの人材促成講座に1万3000人以上の受講希望者が集まっているという。また講座のパートナー(スポンサー)企業もすでに7社に上るそうで、その盛況ぶりが伺える。

「一人あたり1000万ドル」とはじくスランの皮算用

9月半ばに開講を発表してまもなく、スランはRecodeに対して「この分野は人材不足が深刻で、私の周囲には必死で人集めをしている企業がいくつもある」「既存の自動車メーカーや新規参入組がいずれも相当な(数の人員を擁する)チームづくりを進めようとしている」「自動運転車の開発に携わる人材には複数の分野をまたいだスキルセットが要求されるが、そうした広範囲のスキルを持つ人材はまだ存在しない」などと開講に至った理由を説明していた。また「今年夏にウーバーが総勢約70人のオットー(Otto)を推定7億ドルで買収し、また春先にはGMが総勢100人足らずのクルーズオートメーション(Cruise Automation)を10億ドルで買収していた。こうしたベンチャー企業の買収はほとんどの場合人材獲得を目的としたもの。つまり現在の人材の通り相場は一人あたり平均1000万ドル」などとする皮算用も披露していた。一人1000万ドルという金額(期待できる貢献度)は、それこそプロスポーツ選手並みにも思えるが、マーク・アンドリーセンがVoxとのインタビューで口にしていた「AI分野の人材にプロアスリート並みの報酬を支払う例も出てきていた」との発言と通底する部分も感じる。

また、スランはこうした極度の供給不足が生じた原因について、「技術が進歩するスピードが早すぎて、人材育成が追いついていないため」などと説明しているが、スタンフォード大教授の肩書きも持つスランが「世界で唯一本物のマシンラーニング・プログラム(課程)を提供しているのはカーネギーメロン大(CMU)」と発言している点も興味深い。そのCMUでは手の回らない部分を少しでもカバーできれば、それなりの事業になるというのがスランの思惑だろう。スランはこのインタビューのなかで、自動運転車関連の求人ニーズについて、シリコンバレーだけで約5000人、全世界では2万人程度のエンジニアが不足しているとの推定も述べている。

上述のFortune記事には受講者数について、いまのところ第一期(10月開始)が500人、第二期(11月開始)が1500人、第3期(12月開始)が2500人が参加する見通しとある。またユーダシティのウェブサイトをみると来年1月に始まるコースについて「1000人の定員に対して、現在の応募者数は1912人」といった情報も見つかる。

なお、ユーダシティは即戦力育成を目的としたこのナノディグリー・プログラムで受講者からはひとり800ドル〜2400ドル(詳しくは後述)しかとらないので、あるいはそれ以外に受講修了者がコースのパートナー企業に就職できた場合に企業側から一定の斡旋料を受け取るのかもしれない(そのあたりに関する記述は見当たらない)。

パートナー(スポンサー)企業はすでに7社

育成した人材の受け皿となるパートナー企業については、開講発表時にメルセデス・ベンツ、エヌビディア、オットー(ウーバーが買収)、ディディ・チューシンの4社が名乗りをあげていたが、現在ではさらにBMW、マクラーレン・アプライド・テクノロジーズ(MAT)、ネクストEVの3社も加わっている(ネクストEVは中国のEVベンチャーで、昨年暮れに元シスコシステムズの女性幹部を米国拠点の責任者に抜擢したことが米媒体などで注目を集めていた)。また、この7社以外にHERE(地図関連技術)、LeEco(LeTVを母体としてスマートフォンからEV開発まで手がける中国ベンチャー)、Local Motorsといった企業の名前も潜在就職先("Our Hiring Partners")のなかに含まれている。

2400ドル、9ヵ月、平均年俸13万8000ドル

スラン自身に加えて、エヌビディアやオットーの技術者も指導するというこの講座、学費は2400ドル(1期800ドルで計3期)で履修期間は合計9ヵ月。また受講終了後に期待できる就職先での年俸(ベース金額)は6万6800ドル〜21万ドル(平均13万8000ドル)という外部調査サービスのデータも紹介されている。

応募者に求められる知識や経験については、確率論、統計学、基本的な線形代数の知識、それにPythonほかのスクリプト言語の経験などが挙げられている。また受講して得られる知識については、ディープ・ラーニング、コンピュータ・ビジョン、センサーフュージョン、コントローラ、車輌キネマティクス(Vehicle Kinematics)、自動車のハードウェア(Automotive Hardware)の6つが挙げられている。

なお、今年8月下旬にYouTubeのUdacityチャネルにスランが自動運転について話す動画が投稿されている(撮影された場所や集まりの目的などは不明で、あるいはスラン自身による「自動運転車に関する公開講座」といった趣旨のものかもしれない)

【参照情報】
Self-Driving Car Engineer Nanodegree - Udacity
Ex-Googler Sebastian Thrun says the going rate for self-driving talent is $10 million per person - Recode
Udacity Adds New Hiring Partners for Its Self-Driving Car Degree - Fortune
Sebastian Thrun and Danny Shapiro Self-Driving Car Livestream(※15分頃まで理由は不明だが音声がほとんど聞き取れないが、15分以降は普通に聞こえるようになる)

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坂和 敏

オンラインニュース編集者。慶應義塾大学文学部卒。大手流通企業で社会人生活をスタート、その後複数のネット系ベンチャーの創業などに関わった後、現在はオンラインニュース編集者。関心の対象は、日本の社会と産業、テクノロジーと経済・社会の変化、メディア(コンテンツ)ビジネス全般。