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ビザ問題に見るイギリスの強み「合理性」

UK's strength is pragmatism

2020.07.11

Updated by Mayumi Tanimoto on July 11, 2020, 07:00 am JST

アメリカの「H-1B」ビザ制限は大変な問題になっています。ここまで厳しい制限に踏み切ったのは、かなりの驚きでした。

制限は短期間になるかもしれませんが、これはアメリカにとって大変大きな打撃になるはずです。なぜなら、H-1BやJ-1ビザはテック業界だけではなく、医療やアカデミックな世界の人々も使用するビザだからです。

今回の制限は、医療関係者などは除くとされていますが、新型コロナウイルスと戦うにはテック業界の人やその他の業界の人々も必要です。例えば、文系でビル管理を専門にする人、清掃会社のマネージメントをする人、 食品会社の品質管理をする人なども非常に重要なわけです。

そういった人々はすぐに訓練できるわけでもありませんし、経験も必要ですから、海外で実績のある人を雇ってアメリカの状況を改善する、ということも必要になってきます。

感染症の対策には、より包括的なアプローチが重要なのですが、ビザが出ないので呼び寄せることができません。

さらにこのビザ制限は、アメリカの成長のキモである「新規事業の創出」にも大きな影響を及ぼします。実際、しばらく前からH-1Bの制限を行ってきたアメリカで立ち上がるユニコーン企業の比率は、2013年の75%から2016年には43%に減っているのです(Unicorns Abroad: The Creation Of Billion-Dollar Startups Is Shifting Out Of The US)。

アメリカで起業する人の多くは、移民一世や二世です。テック業界に関しては、アメリカにおける起業環境、市場へのアクセス、人材や資金調達の容易さが魅力で起業するわけですが、起業する人やスタートアップで働く人はアメリカでの永住権や市民権獲得も視野に入れます。

ところが、H-1B停止でアメリカに定住するパスが閉ざされてしまうわけですから、他の国に行くことを考えることが増えるわけです。

これは、アメリカからの頭脳流出を意味します。その行き先はおそらく、カナダ、イギリス、オーストラリアになるはずです。

これらの国々は、アメリカのビザ制限を受けて、起業家やテック系の技術者受け入れのビザをむしろ緩和していたりします。一見、外国人には厳しそうなイギリスでさえ、積極的で驚かされます。このあたりは、イギリス連邦とアメリカの思考の違いがよくわかります。

イギリス連邦の方は、表面的には保守的にも見えますが、実は現実的なのです。特にその本家のイギリスが今もなんとか生き延びている理由は、こういう現実性としたたかな戦略があるからでしょう。アメリカは案外政治的で感情的です。

日本も、もうちょっと機敏に動いて他国のピンチをチャンスに変えるといった思考を持ってほしいものです。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。