心の傷は専門外ですが、身体の傷は綺麗に修復してみせましょう
developement a protein inspired by the elastin that gives elasticity to living tissues.
2022.07.22
Updated by Schrodinger on July 22, 2022, 10:38 am JST
developement a protein inspired by the elastin that gives elasticity to living tissues.
2022.07.22
Updated by Schrodinger on July 22, 2022, 10:38 am JST
エラスチン(elastin)は、コラーゲン(collagen)の仲間で、コラーゲン同士を結び付ける働きを持つ弾性がある繊維状の細胞外マトリックスタンパク質です。肌に弾力を与えたり、血管や靭帯などに柔軟性や伸縮機能を提供します。ただし、エラスチンは水に溶けにくく、人体からは抽出しにくいということもあり、そもそも機能性材料としてはあまり魅力的ではないため、コラーゲンほどポピュラーではありませんでした。
鳴瀧研究室は「では、人工エラスチンを作ってしまえ」という大胆な発想を導入します。人工エラスチンがあると何が良いのでしょう。
怪我や火傷などでカラダに傷がつくと、私たちのカラダは傷口の周りの皮膚を猛スピードで引っ張って、なるべく早く修復しようとします。その(異様な)張力を感知した細胞がどんどん集まってくる。緊急事態ですからありがたい機能ではあります。ただ不自然な力が作用することで、乱雑な組織として修復されてしまい、表面上は毛穴も存在せず、触るとツルツルになってしまう。そしてこれが傷跡として残ります。
あまりに早い修復であるが故に見た目が綺麗にならないのですが、そこに集まる力をコントロールできる機能性材料を設計すれば傷跡を綺麗に治せるはず、というのが鳴瀧研究室の仮説です。ここには疫学的アプローチが存在しない、というのがこの研究の特徴でしょうか。
早く治すタイプの研究はたくさんありますが、「綺麗に治す」研究は意外と少ないのだそうです。綺麗に治すためには、ゆっくり治す必要があります。ただ「ゆっくり」は黴菌等に時間的猶予を与えてしまうのでリスキーな面もあるのですが、ここで人工エラスチン「ブロックポリペプチドGPG」の振動反応を使って時間をコントロールしつつ、ゲルの自己修復機能を取り入れます。
名古屋大学大学院工学研究科 エネルギー理工学専攻 エネルギー材料工学講座 エネルギーソフトマテリアル科学研究グループの鳴瀧研究室は、高分子・分子集合体・コロイド・ゲルなどのソフトマテリアルのダイナミックな性質を利用して、環境中のエネルギーから電力を得る研究、あるいは医療に役立つ材料をつくる研究等に取り組んでいます。
高分子材料科学とナノバイオエンジニアリングが鳴瀧先生の専門ですが、今回の講義は、この「人工エラスチンができるまで」を中心に話題提供いただこうと思います。身体の傷が綺麗になると、心の傷も癒されるような気もしますねえ。(竹田)
鳴瀧彩絵(なるたき・あやえ)
名古屋大学大学院工学研究科 エネルギー理工学専攻 エネルギー材料工学 教授
2004年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(工学)、日本学術振興会特別研究員PD(東京医科歯科大学)、海外特別研究員(カリフォルニア工科大学)、東京大学助教を経て、2014年名古屋大学大学院工学研究科准教授、2020年より現職。
・日程:2022年7月27日(水曜)19:30から45分間が講義、その後参加自由の雑談になります。
・Zoomを利用したオンラインイベントです。申し込みいただいた方にURLをお送りします。
・参加費:無料
・お申し込み:こちらのPeatixのページからお申し込みください。
「シュレディンガーの水曜日」は、毎週水曜日19時半に開講するサイエンスカフェです。毎週、国内最高レベルの研究者に最先端の知見をご披露いただきます。下記の4人のレギュラーコメンテータが運営しています。
原正彦(メインコメンテータ、MC):東京工業大学・物質理工学院・応用化学系 教授
1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、1983年修士修了、1988年工学博士。1981年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。1985年4月から理化学研究所の高分子化学研究室・研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能(後に揺律機能)などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。現在は東京工業大学教授、地球生命研究所(ELSI)化学進化ラボユニット兼務、理研客員研究員、国連大学客員教授を務める。
今泉洋(レギュラーコメンテータ):武蔵野美術大学・名誉教授
武蔵野美術大学建築学科卒業後、建築の道を歩まず、雑誌や放送などのメディアビジネスに携わり、'80年代に米国でパーソナルコンピュータとネットワークの黎明期を体験。帰国後、出版社でネットワークサービスの運営などをてがけ、'99年に武蔵野美術大学デザイン情報学科創設とともに教授として着任。現在も新たな表現や創造的コラボレーションを可能にする学習の「場」実現に向け活動中。
増井俊之(レギュラーコメンテータ):慶應義塾大学環境情報学部教授
東京大学大学院を修了後、富士通、シャープ、ソニーコンピュータサイエンス研究所、産業技術総合研究所、米Appleにて研究職を歴任。2009年より現職。『POBox』や、簡単にスクリーンショットをアップできる『Gyazo』の開発者としても知られる、日本のユーザインターフェース研究の第一人者だがIT業界ではむしろ「気さくな発明おじさん」として有名。近著に『スマホに満足してますか?(ユーザインタフェースの心理学)(光文社新書)など。
竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人
日経BP社でのインターネット事業開発の経験を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。2010年にWirelessWireNewsを創刊。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997〜2003年)、独立行政法人情報処理推進機構・AI社会実装推進委員(2017年)、編著に『ネットコミュニティビジネス入門』(日経BP社)、『モビリティと人の未来 自動運転は人を幸せにするか』(平凡社)、近著に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス/ミシマ社)、など。
おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)
登録はこちらオンラインイベント「シュレディンガーの水曜日」の運営事務局です。東京工業大学・物質理工学院・原正彦研究室の協力の下、WirelessWireNewsが主催するオンライン・サイエンスカフェです。常識を超えた不思議な現象に溢れた物質科学(material science)を中心に、日本の研究開発力の凄まじさと面白さを知っていただくのが目的です。