original image: weedezign / stock.adobe.com
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DXを語るときに「利便性の向上」がフィーチャーされることは多い。顧客にとっての利便性、商売をする側の利便性、コスト削減など、利便性にもいくつかの側面があるが、消費者相手のビジネスのフロントエンドにおいて、利便性より重視すべきは快適性ではないか、と感じることが多い。
ここで問題になるのが「快適とは何ぞや?」だろう。どういう状態が快適と感じられるかは、かなりの個人差があるので難しい。例えば、店の人に話しかけられて苦にならない人、嬉しく感じる人がいる一方で、話しかけられるのが苦手、会話は苦痛というタイプの人もいる。
異なる個性の相手に応じた対応も不可能ではないかもしれないが、現段階でDXで考えるべきポイントは「俗人性に起因する些細な事を気にさせない」ではなかろうか。例えばこういう話である。
飲食店でスタッフを呼ぶと、「はい、お伺いします」 という反射的な声が聞こえてくることがとても多くなった。伺いますでもなく、すぐに参りますでもなく、お伺いしますなのであるが、これ日本語としてそもそもかなり変である。指示されているマニュアル用語なのだろうが、給湯器の「お湯張りをします」と同じ文法になっているのが面白い。お湯を張りますではなくて、あくまでもお湯張りをするのである。注文を伺うのではなく、お伺いをするわけだ。
この程度のことは気にならない人も多数ではあろうが、個人的には「はい、お伺いします」は非常に気持ち悪いので撲滅したいと思っている。気になって仕方がないので、そういう店には足が向かなくなったりもする。しかし、これをほぼ撲滅していて快適に過ごせるのが、オーダーは全てタブレット端末からという店である。店のスタッフを呼ぶことはまずない。券売機のラーメン店や牛丼チェーンにも、そういった快適さを感じることがある。
もうひとつ、各テーブルで紙のメニューを見てスタッフを呼んでオーダーする場合に不快なのが、本日のお勧めあたりで発生しがちな「終わっちゃいましたー!」である。本日売り切れてしまいましたではなく、終わっちゃうのである。オーダーシステムであるなら、管理端末で終わっちゃったものを「売り切れ」に設定するだけで済むだろうし、客席のタブレットには表示されなくなる、あるいは売り切れの旨が表示され、オーダーはできなくなるだろう。それだけで快適さはかなり向上する。
タブレット端末のオーダーシステムにしても、かつてはオーダーしようとしたらタブレットのソフトウエアアップデートが始まってブラックアウトしてしまい、オーダーはおろかメニューの確認さえもできない、などというお粗末なインプリメンテーションの店もあった。とはいえ、そこそこ安定した今では、変な日本語を聞かされずに済むというだけでなく、客の「すいませーん」の絶叫大会に付き合わされることもなくなった。終わっちゃいましたに出端をくじかれることもない。これは大変に快適なのである。
そういうわけで、利便性とは別の価値観を実現する、そのひとつが快適さという観点がDXには不可欠ではないかと考えている。俗人性を楽しむ余裕が欲しい、という話もあれど、マニュアルで決められた変な言葉によって俗人性はかなり排除されてもいる。また、オーダーシステムの存在を前提とした必要に応じたスタッフとのコミュニケーションは、気になることは非常に少ないということもいえる。
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「本当のDX」を考えるウェブメディア『Modern Times』
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登録はこちら北海道札幌市出身。システムエンジニア、IT分野の専門雑誌編集、Webメディア編集・運営、読者コミュニティの運営などを経験後、2006年にWebを主な事業ドメインとする「有限会社ハイブリッドメディア・ラボ」を設立。2014年、新規事業として富士山麓で「cafe TRAIL」を開店。2019年の閉店後も、師と仰ぐインド人シェフのアドバイスを受けながら、日本の食材を生かしたインドカレーを研究している。